電力価格が高騰した翌年は、プレミアム収入がほぼゼロに!? 「儲けすぎはいかん」の声で、どうなるFIP制度 | EnergyShift

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電力価格が高騰した翌年は、プレミアム収入がほぼゼロに!? 「儲けすぎはいかん」の声で、どうなるFIP制度

電力価格が高騰した翌年は、プレミアム収入がほぼゼロに!? 「儲けすぎはいかん」の声で、どうなるFIP制度

2021年09月30日

大規模な太陽光発電や風力発電などは、2022年度から大手電力会社が一律の価格で買い取る今のFIT制度から、市場価格に一定の金額を上乗せした価格で買い取る、「FIP」と呼ばれる新たな制度に移行する。しかし、2021年1月のように電力需給がひっ迫し、卸売市場の価格が高騰したら、いくら上乗せすればいいのか。このプレミアムをめぐって、「儲けすぎはけしからん」という批判が続出し、市場価格が急騰した翌年は、ほぼゼロ円になる可能性が浮上している。

FIP制度のおさらい

2012年にはじまったFIT制度は、高めの買い取り価格を設定したことで、再生可能エネルギーが急速に普及し、電源に占める再エネ比率は2011年度10%から、2019年度には18%まで上昇した。だが、大手電力会社が再エネを買い取るための費用の多くは、賦課金として家庭や企業が負担しており、普及に伴いこの賦課金負担が膨らみつつある。2021年度の負担額は約2.7兆円になる見込みだ。

政府は2050年の脱炭素社会の実現に向けて、太陽光発電や洋上風力などの導入を拡大する方針だ。その場合、電力会社の買い取り費用がさらに増え、賦課金の上昇につながりかねない。経済産業省は2030年時点のFIT買い取り費用が総額5.8〜6兆円にのぼると試算しており、さらなる再エネの普及拡大には国民負担の抑制が欠かせない。

そこで、経産省は2022年度から大規模な太陽光発電や風力発電などに関して、電力市場と連動させ、市場価格に一定のプレミアムを上乗せした価格で買い取る「FIP」制度の導入を決定している。

今の「FIT」は、買い取り価格が常に一定で、いつ発電しても収入は同じ。そのため電力需要が少なく、市場価格が安い春や秋ほど、補助額が大きくなり、逆に電力需要が多く、市場価格が高い夏や冬といった時間帯により多くの電力を供給しようというインセンティブが働かないという課題がある。

一方、市場に連動するFIPであれば、春や秋など市場価格が低い時間帯に電力を集中的に売れば、儲けが薄くなる。より儲けたければ、需要が大きく市場価格が高い季節や時間帯に売る必要がある。経産省はFIP導入によって、発電事業者の創意工夫や競争を促し、再エネのコストや国民負担を低減させる方針だ。

市場価格が高騰したら、プレミアムはどうなる

ただし、いつ発電すれば儲けが減り、増えるのか。発電事業者に市場の価格シグナルをきちんと伝えなければ、こうしたメカニズムは働かない。さらに、市場にはリスク、ボラティリティがつきものだ。だが、企業がリスクテイクしても、事業期間全体を通じた収入が期待でき、投資回収できるという絵がなければ、誰もFIP制度に乗ってこない。

そこで経産省では、再エネ電力を供給するのに必要な費用をもとに「基準価格(FIP価格)」を算定し、卸電力取引市場で電気を売って得られる収入などから「参照価格」を決め、基準価格から参照価格を引いた金額を「プレミアム単価」とし、このプレミアムを市場価格に上乗せすることで、再エネの最大限導入を後押しする考えだ。


出典:経済産業省資源エネルギー庁

発電事業者の最大の関心事は、このプレミアム単価だろう。

プレミアム単価が高ければ、事業リスクは低くなるが、その一方で国民負担は増えてしまう。逆にプレミアムが低すぎると、投資回収ができないリスクが増える。こうしたリスクと負担を両立させる鍵のひとつが参照価格だ。

経産省では、再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会で検討を重ね、参照価格は、「前年度の年間平均市場価格に、電気が足りなかった、あるいは余ったという月間補正値を足したもの」にすると決定済みだ。

1ヶ月ごとに参照価格を算定すべき、との議論もあったが、こうした方式をとると、「夏や冬など、放っておいても市場価格が高くなる時期にプレミアムがゼロとなる」「逆に春や秋といった時期に高いプレミアムを設定しかねず、誤ったシグナルを発信してしまう」という課題から、前年度の年間平均市場価格を使うという算定方法に決まっていた。

ただ、この算定方式にも課題がある。たとえば、市場価格が2021年1月のように電力需給がひっ迫し、市場価格が高騰したら、どうなるのだろうか?

儲けすぎはけしからん

市場価格が前年度高騰し、翌年度、高騰しなかった場合、何が起こるのか。

エリアは東京、対象電源は太陽光発電、基準価格(FIP価格)を1kWhあたり10円にすると、前年度の年間平均市場価格は9.89円と相対的にやや高めになる。特に下の表の1月に注目してほしい。参照価格はマイナス35.54円となり、プレミアムが45.54円に増え、月間総収入が52.82円となる。


出典:経済産業省資源エネルギー庁

「この計算方式だと、ただでさえ価格高騰によって今のFIT価格より大きな収益が得られるうえに、これが2年連続で続く。国民負担の観点から適切ではない」「しかも、翌年度は需給がひっ迫していないにもかかわらず、高いプレミアムを与えることは、誤ったシグナルを送るおそれがある」(経産省)とし、9月7日に開かれた「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第35回)、再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(第13回)合同会議」において、主要議題のひとつとして検討された。

今年の夏はなんとか乗り切ったが、2021年末から2022年の冬期は再び電力需給がひっ迫するおそれがある。市場価格の高騰が今後も起こりえる中、プレミアムをいくら上乗せすれば適切なのか。事務局は、参照価格の算定方法について、「参照価格がマイナスを割り込むような場合には、0円/kWhにしてはどうか」と提案する。

では、参照価格が0円になると、プレミアム収入はどうなるのか。

そのシミュレーションが次の表となる。2022年度は価格高騰が起こらないと想定した場合、2021年度の年間平均市場価格が9.89円と基準価格(FIP価格)の10円近くまで高くなり、価格高騰が起こった12月から2月以外のプレミアム収入はゼロになってしまう。


出典:経済産業省資源エネルギー庁

プレミアムが乗るのは年間わずか3ヶ月だけ。そんな状況になれば、金融機関はリスクの高さを嫌気し、ファイナンスを組成しないだろうし、発電事業者もFIP制度を避けるだろう。FIP制度は導入初年度から、大きくつまずくことになりかねない。

制度をなんとか機能させたい事務局は、ある救済措置の導入を提示する。

2022年度に限っては、救済措置を導入しようか

その救済措置が、制度導入初年度、つまり2022年度に限っては、2021年度の市場価格は、2021年9月1日時点のTOCOM(東京商品取引所)先物価格を上限として設定するというものだ。

具体的にどうなるのか。2021年12月から2022年3月までの価格15〜16円台/kWhをあてはめると、2021年度の年間市場平均価格は7.04円となり、プレミアム収入がゼロだった月も一定程度のプレミアム収入を見込むことができる。


出典:経済産業省資源エネルギー庁

これら2つの事務局提案をめぐって、9月7日の審議会では賛否両論わかれる意見が出された。

国民負担を増やす、棚ぼた利益は許されない

長山浩章 京都大学大学院総合生存学館 教授は、「月間総収入を単純平均すると、今のまま、対策なしだと12.5円、参考価格ゼロが9.5円、TOCOMは10.4円となる。FIP制度は年間を通じてみれば、基本的な期待収益を確保できるという仕組みにするとあるが、参考価格ゼロだと月間総収入が基準価格を下回ってしまう」と指摘した。

そのうえで、「FIP制度はリスクが高い。TOCOM10.4円など、アップサイドの利益を確保できるようにすべきではないか。発電事業者や金融機関から意見を聴取し、それを踏まえて改めて制度設計をすべきではないか」と述べた。

出席した事業者団体のオブザーバーは、長山氏の意見に賛同。「金融機関の関係者は、この制度のもとではプロジェクトファイナンスを組成することは非常に難しいと述べている」「このままでは事業が成立しない」。

また、制度導入初年度に限っての救済措置に関しても、「運転開始初年度が、一番資金繰りが厳しく、プレミアムが下がるとダメージが大きい。制度開始初年度ではなく、運転開始年度の前年にもし価格高騰が起きたら、という前提で措置を講じてほしい。なぜ、制度開始年度だけが特殊なのか、理解できない」といった意見も出た。

一方、松村敏弘 東京大学社会科学研究所 教授は、「市場価格の高騰は今後も十分、起こりえる。だが、価格が高騰し、ものすごいプレミアムが発生しても、お金を返さないで、貯められるという制度設計にしたことを忘れないでいただきたい。前の年に馬鹿みたいに儲かることがあり、それを基準にして、翌年度ももう一度、馬鹿みたいに儲かる。投資の後押しを遥かに超える、ウインドフォールゲイン(棚ぼた利益)を求める意見は本当に合理的な要求なのか。相当、おかしなことをいっているのではないか」と批判した。

松村教授のように、「事務局案は合理的だ」とする意見は複数の委員から出されており、意見の隔たりは大きい。そのため、事務局は事業者や金融機関から意見を聴取する方針だ。

FIP制度のスタートが2022年4月に近づく中、プレミアム収入の根幹をなす算定方法がどうなるのか。その方向性はまだ見えてこない。

(Text:藤村朋弘)

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藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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