北尾トロの 知らぬがホットケない 第7語 COPの巻 | EnergyShift

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北尾トロの 知らぬがホットケない 第7語 COPの巻

北尾トロの 知らぬがホットケない 第7語 COPの巻

2021年06月25日

『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『夕陽に赤い町中華』などでおなじみの北尾トロさんの連載。カーボンニュートラル?脱炭素?SDGs??という自称・脱炭素オンチの北尾トロさんが、「知らぬが仏」にしておけないキーワードを自ら調べ上げ、身近な問題として捉えなおします。今回のキーワードは・・・

知らぬがホットケない 第7語 COP の巻 

きみは「ちょめんね」を知っているか

人類は略語が好きだ。少しでも長いと思えば略し、親しみを表現するためにまた略す。相手が神様でも関係ない。「OMG(Oh, My God)」である。

「ちょめんね」はどうか。ちょっとごめんねの略語であるらしい。そのセンスはどうなんだ。隙あらば略したいのか。たぶん定着しないな、ちょめんね。

しかし中には万人の心をつかんだか、見事に受け入れられるものもある。外来語でも、スマホ(スマートフォン)やパワステ(パワーステアリング)、ラノベ(ライトノベル)、ハイテク(ハイテクノロジー)、レジ(レジスター)、パソコン(パーソナルコンピュータ)あたりは完全に日本語化している。ソフビ(ソフト塩化ビニール)は本当に言いづらいから略されたおかげで定着した好例だと思う。

これに対し、90年代後半にやたらと使われたチョベリグ(超ベリーグッド)はすでに死語。若者発の流行語はやがて飽きられる宿命のようだ。R.I.P.(ご冥福をお祈りします)。パリピ(Party People)は生き残れるだろうか。

固有名詞も山ほど略されてきた。マックにケンタにスタバ。吉牛は吉野家でいいんじゃないかと思えるが、牛丼の吉野家を縮めてひっくり返す荒業だ。人の名前もなあ。ダルビッシュ有投手をわざわざダルと呼ぶのは、愛称というよりスポーツ紙の誌面の都合でそうなったと思えなくもない。大谷翔平選手が大谷クンなどと呼ばれているのはよほど略しにくいのだろう。あと、G(ゴキブリ)は口にするのも嫌だからと略されている悲しいタイプ・・・・・・、探していくと楽しくてキリがないね。

3文字業界用語の謎

しかし、あまり楽しくない略語もたくさん存在する。とくに業界用語で3文字に略される奴は、業界外の人間にとってはやっかいだ。理由は簡単で、略される前の元の言葉を知らないからである。

なかにはPDF(Portable Document Format)やATM(Automatic Teller Machine)、NPO(Non Profit Organization)のように、わからないなりに定着したものもあるけれど、たいていはちんぷんかんぷんだ。

それは仕方がない。医療従事者間ではNPOといったら禁飲食のことだなんて、知らなくても困ることではない。問題は、狭い範囲で使われる業界用語だったものが一般用語界にぐいぐい接近してきた場合だ。

ここ数年の話でいえば、CEO(Chief Exective Officer=最高経営責任者)、COO(Chief Operating Officer=最高執行責任者)などの役員略称用語が一般化を果たした感じがする。ああ面倒くさいとか思っているうちに、いつしか説明抜きで使われるようになり、身の回りでもあたり前の言葉で流通してきた。

いったんこうなってしまうと、知らないでは済まされなくなってくるので要注意。

エネルギー業界の謎の3文字 COP

エネルギー業界用語に目を転じてみよう。今回のお題であるCOPが何の略語なのか、スパッと答えられる人は業界内の人である確率が高い。僕はまったく知らなかったので検索してみた。そうしたら驚きました。COPはConference of Partiesの略として「締約国会議」を指す言葉であり、かと思えばCoefficient Of Performanceの頭文字を取って「エネルギー消費効率」の意味でも使われているようなのである。

「締約国会議」は、国際条約の締約国が物事を決定するための最高決定機関で、国連気候変動枠組条約締約国会議などがそれに当たるから地球環境(気候変動)問題用語とも言え、エネルギー業界とは大いに関係がある。そしてまた、「エネルギー消費効率」は1キロワットの電力でどれだけの効果を得られるかを表すものだからバリバリの業界用語と言っていい。COPという略語を目や耳にしたときは、どちらの意味で使われているかを考える必要があるってことだ。

いや参ったなあと思ったのだが、調べていくと「エネルギー消費効率」のほうはエアコンの冷暖房能力と消費電力の関係を示すときのように使用場面が限定されているようで、業界外人間がより注意を払うべきなのは「締約国会議」のCOPだとわかってきた。

COPのボスはだれだ

しかし、まだ油断はできない。「締約国会議」には気候変動枠組条約の決定機関もあれば生物多様性、砂漠化対処条約など、いろいろ締約国会議があるからである。なので、ズボラな僕としては、もっともメジャーな存在である気候変動枠組条約(1994年発効)をCOPのボスと考えることにしたい。生物多様性も砂漠化も気候変動の影響下にあるんだろうから、COPときたら気候変動条約の話だなと見当をつけるのだ。

COPは発効後まもなく毎年開催されるようになり、イギリスのグラスゴーで開催予定だった昨年の第26回はコロナ禍で延期されたものの、2021年11月に同地で開催されることになっている。地球にとって重要な問題を扱い、これだけ数を重ねている割には、略語の浸透度はいまひとつだ。

"COPの中の嵐"にならず、誰もがあたり前の話題として、この言葉を口にする日はいつくるのだろうか。

北尾トロ
北尾トロ

ライター。1958年福岡県生まれ。体験・見聞したことをベースに執筆活動を続けている。趣味は町中華巡りと空気銃での鳥撃ち。 主な著書に『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『ブラ男の気持ちがわかるかい?』(文春文庫)『猟師になりたい!1~3』(信濃毎日新聞社、角川文庫)『夕陽に赤い町中華』(集英社インターナショナル)などがある。

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