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東京電力パワーグリッド 岡本浩副社長に聞く(前編) 構想から現実に進んだUtility 3.0と送配電事業の新たな役割

東京電力パワーグリッド 岡本浩副社長に聞く(前編) 構想から現実に進んだUtility 3.0と送配電事業の新たな役割

EnergyShift編集部
2020年09月07日

送配電事業は、これまでの発電した電気を需要家に送り届けるという役割から、大きく変化しつつある。分散する電源と需要家を結び付け、安心して安定した電気を使えるようにしていく、そういった役割を担うことになる。他社に先駆けて、新しい送配電事業を推進してきた、東京電力パワーグリッドの岡本浩副社長から、新しい送配電事業とUtility 3.0について、語っていただく。

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実行段階に移ったUtility 3.0

―岡本副社長がUtility 3.0をテーマとした共著を出されたのが3年前だったと思います。当然ですが、その頃からくらべると、技術的にも制度的にも進化していると思います。より進んだバージョンの姿が見えるようになってきたということでしょうか。今日はその点から、岡本副社長のお考えをおうかがいしたいと思います。

岡本浩氏:本ではコンセプトを示しました。それに対し、現在の我々は実行フェーズに入っていると認識しています。現在取り組んでいる、ノンファーム型接続もそのひとつですし、今後、さらに高度化されていくでしょう。

Utility(公益事業)が1.0から3.0に進化するにあたって、5つのDについてよく話します。Deregulation(自由化)によって2.0に進化し、さらにDigitalization(デジタル化)、Decentralization(分散化)、Decarbonization(脱炭素化)、Depopulation(人口減少)によって3.0へと進化し、他事業との連携・融合が進むというものです。

こうした変化によって、一般世帯が住宅用太陽光発電の余剰電力を販売するなど、消費者がプロシューマー(生産者+消費者)となっていく。こうした変化から、最近はDeregulationのかわりにDemocratization(民主化)を5つのDに含めています。

Utility3.0の全体像

電力システムはこれまで、エジソンの時代からあまり変わっていませんでした。発電した電気を送電ネットワークに供給し、需要側でそれを取り出して使うというものです。電気の場合、需要より発電が増えると周波数が上がるなどの問題が起きるため、発電と需要を一致させるようコントロールしなくてはいけません。これまでの電力システムでは、電力会社が大規模電源によりコントロールしてきました。しかし現在は、システムの中で役割分担をしており、発電事業と小売事業は競争下にあります。

従来であれば、電力システムでは大規模電源を整備して発電コストを最小化していました。しかし、これからはプロシューマーを含め、分散する様々な主体の行動を通じて社会全体の効率を最大化していくというものになります。これはインターネットのような世界だと思います。

とはいえ、制約条件があり、発電と需要のバランスはネットワークを担う会社がバランスをとっていく。

―そうした中にあって、ネットワーク事業者の役割として、再生可能エネルギーの大量導入への対応が大きな課題になってきていると思います。

岡本氏:おっしゃる通りです。ネットワーク事業者は、再生可能エネルギーの大量導入に対応し、需給のバランスをとらなくてはいけません。そのためには、今後、発電事業者と小売事業者に対し、ネットワークに関する情報を伝えていく必要があると考えています。
新たな電源が適切な条件で系統接続できるかどうかを検討いただくために、ネットワークに空きがあるのかどうかという情報を提供しなくてはいけませんし、提供することが私たちの仕事の1つになっていきます。発電と小売が最適化され、オペレーションが最適化されていくことは、ネットワーク事業者にとって大きな仕事です。

送電線の潮流を考えた分散型エネルギー資源のアクセス

―海外では、ネットワークの混雑などに応じて送電線の利用料金が変わるということもあると聞いています。

岡本氏:ノルドプール(北欧の卸電力取引市場)やイタリアでは、エリア間の送電線が混雑すると、電源の多いエリアの市場価格が下がり、需要の多いエリアの市場価格が上がる仕組みになっています。エリアごとにエネルギー市場価格がダイナミックに変化するため、このデータをもとに電源立地を行っています。

米国のPJM(米国北東部の独立系統運用機関)では、海岸のある東側で需要が多く、電気は大型発電所がある西から東に流れています。そのため、東側の方が市場価格は高く、結果として電気代が高くなります。しかし、これからは分散型エネルギー資源(DER)の時代なので、送電線の潮流を参考にして、例えば蓄電池をどこに設置すればいいのか、といったことを検討します。

このように、市場メカニズムが働き、価格シグナルがあるようになれば、いろいろなビジネスが反応しやすくなると思います。

ノンファーム型接続を可能に

―送電線の情報ということでは、千葉県での取り組みが注目されます。試行的にノンファーム型接続を可能にしました。

岡本氏:対象となる送電線の潮流を調べると、8,760時間のほとんどが空いていることがわかりました。

ノンファーム型接続では、混雑しているときには送電を制御してもらうのですが、これは混雑している特急では自由席券のお客さまは立ってもらうというイメージです。

とはいえ、現状は先着した発電所から優先して送電しているのですが、結果として再生可能エネルギーを制御して火力発電を運用することにもなります。これでは社会的なメリットから最適とは言えません。政府もメリットオーダー(安価な電気から優先して供給していく制度)を検討しており、導入されれば主に火力発電所の電気を制御することになります。こうすることで社会のメリットを最大化できると思います。

PPA事業は送電線の価格シグナルで効率化

―太陽光発電や風力発電のさらなる普及にあたっては、FIT(固定価格買取制度)からFIP(プレミアム価格制度)に移行する方向です。しかし、発電事業者の関心はむしろ、PPA(電力購入契約)に向かっています。海外でのPPAの主力はオフサイトPPAですが、送電線を使うため、日本ではまだ開発は進んでいません。その点、混雑状況がわかり、価格シグナルが出されれば、PPAの計画を立てやすくなると思います。あらためて、PPAの普及拡大についてのお考えをお聞かせください。

岡本氏:PPAは事業として金融取引の手法が利用できるところがあります。

発電事業者とお客さまとの間で、価格を固定しておかないと、ファイナンスがしにくくなります。とはいえ、どのくらい供給できるのか、その予見性がないと、価格を決めることができません。

送電線の混雑がなければ、発電所を設置しやすいかもしれません。しかし、混雑が起こる可能性は供給リスクになってきます。そのため、リスクヘッジも必要になってきます。

PJMでは金融的送電権、これは日本でいう間接的送電権ですが、その価格シグナルが出されることで、PPAの事業性が示されます。

日本はこうした取り組みについて、欧米から決定的に遅れていると思っています。

送配電会社としても、こうした市場メカニズムがないと、がら空きのネットワークをつくることにもなりかねません。

―間接的送電権についていえば、再生可能エネルギーが豊富な東北電力管内から東京電力管内に電気を送る連系線は拡充した方がいいのではないかと思います。

岡本氏:その点については、これから、電力広域的運営推進機関(OCCTO)で議論され、マスタープランが作成されていく予定です。

再エネの主力電源化を進めるために連系線の拡充は必要だと考えています。とはいえ今後、洋上風力発電の開発が進んだ場合、風力が発電している時間帯は火力発電にとってかわるとしても、その火力発電はバックアップとして残るでしょう。洋上風力はすでに火力発電のある海沿いに作られますから、現在の基幹系統に近い場所に立地できれば、ネットワークをやみくもに作る必要はないと思います。

例えば、ドイツのように、火力発電の立地と風力発電の立地が大きく異なるのであれば、ネットワークの再構築が課題となってくるかもしれませんが、日本の現状はそこまで極端ではないと思います。

―北海道の再生可能エネルギーの開発を含めると、直流大容量の海底送電線の拡充という選択肢もあると思います。

岡本氏:海底送電線の検討は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで取り組んでいます。これまで直流送電線は、1:1で接続してきましたが、再生可能エネルギーの連系を考えると、多端子接続の方にメリットがあります。しかし、制御が難しくなります。そうした点も踏まえ、プロジェクトも実施していますし、これから考えていくことになります。

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(Interview & Text : 本橋恵一・山田亜紀子)

プロフィール


岡本浩(おかもとひろし)

東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長
1965年東京都出身。東京大学大学院工学系研究科修了後、東京電力株式会社入社。
本店技術部技術調査グループ兼企画部、本店パワーグリッド・カンパニー 系統エンジニアリングセンター所長兼技術統括部兼企画部、技術統括部長兼経営企画本部系統広域連系推進室長、常務執行役を経て、2016年東京電力ホールディングス株式会社 常務執行役。2017年より現職。

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