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普及が進むカーボンニュートラル都市ガスは脱炭素時代に本当に必要なのか?

普及が進むカーボンニュートラル都市ガスは脱炭素時代に本当に必要なのか?

2022年01月18日

2020年に日本政府が行った「2050年カーボンニュートラル宣言」をきっかけに、CO2をはじめとした温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いてその合計を実質ゼロとすることを意味する「カーボンニュートラル(CN)」という言葉が日本国内に広まり、今なお、その機運は高まっている。

ガス業界においても温暖化対策を更に加速させていくことが強く求められており、業界としては同宣言より一足早い2018年12月に「都市ガス・天然ガスを活用した長期地球温暖化対策への貢献の絵姿」を策定し、温室効果ガスの削減等に積極的に取り組んでいる。

脱炭素社会の実現に大いに貢献するものとして注目されているガスのカーボンニュートラル化に向け、業界や企業はどのような取り組みを進めているのだろうか。

カーボンニュートラル都市ガス、導入企業は順調に増加傾向

政府が策定した第6次エネルギー基本計画では、天然ガスはカーボンニュートラル社会の実現において「重要なエネルギー源」と位置付けられている。これを受け、都市ガス業界としては、「天然ガスシフト」、「天然ガスの高度利用」を推進している。

天然ガスはもともと環境負荷の小さいクリーンエネルギーではあるものの、バリューチェーン全体ではどうしても温室効果ガスを排出してしまう。そこで、新興国等における環境保全プロジェクト等で創出されるCO2クレジットと差し引きすることで実質排出量をゼロとし、地球規模では、その天然ガスを使用しても温室効果ガスは発生しないとみなされる「カーボンニュートラルLNG(以下、CNL)」を商品化したのが東京ガスだ。これを気化・熱量調整して供給するものを「カーボンニュートラル都市ガス(以下、CN都市ガス)」と呼ぶ。

東京ガスは2019年に日本国内で初めてCN都市ガスを立ち上げ、現在では国内の多数の企業と連携しながら推進している。同社は2019年の7月に英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルからCNLを1カーゴ、約7万トン調達した。天然ガスの掘削から液化、輸送、燃焼にいたる過程で24万~25万トンのCO2が排出されるが、シェルはこれをペルーの森林保全、インドネシアの泥炭地の自然保護、中国の植林という3プロジェクトでのCO2吸収・削減によって得た排出枠(クレジット)で相殺するという仕組みだ(図1)。

図1 カーボンニュートラルLNG


バリューチェーン全体で排出される温室効果ガスを、森林保全等で創出されたCO2クレジットで相殺することにより、地球規模では排出量がゼロとみなされる。
出所:東京ガス株式会社

日本国内でいち早くCN都市ガスを導入した企業は?

国内でCN都市ガスを推進していく上で重要な役割を果たしていくと見られているのが、いち早くCN都市ガスを導入した東芝、いすゞ自動車など15の企業によって結成された「CNLバイヤーズアライアンス」だ。メンバーは製造業だけでなく、商業施設、金融、教育など多岐にわたり、現在も加盟企業は増えている(図2)。

図2:加盟企業一覧


出所:東京ガス株式会社

アライアンスの加盟企業はこのLNGを東京ガスから購入する。東京ガスはCO2実質ゼロのガス供給の第1号案件として、2020年3月からビルへの熱供給事業を手掛ける丸の内熱供給に、年間70万m3を供給していた。丸の内熱供給は国内最大規模の年間約3,400万m3、CO2削減量約97,000トンとなるCNLの使用を2021年11月から開始した。運営するすべてのエリアの地域冷暖房プラントで使⽤する都市ガスの全量をCNLに切り替えることで、エリア全体に供給する都市ガス由来のCO2は実質ゼロとなるという。

加盟企業のヤクルトは、本社中央研究所に供給する都市ガスの全量をCNLに切り替え、約11,500トンのCO2削減に貢献。東京ガスが飲料業界向けにCNLを供給するのは本件が初めてとなった。また、東芝は2021年4月から東京都の府中事業所と神奈川県川崎市の小向事業所で使うガスをすべてCNLに切り替えた。

CNLの売買は徐々に増えつつある。シェルは東京ガスのほか、中国や韓国などの企業に供給した。大阪ガス、東邦ガス、北海道ガスも同様の取組を実施している。

ガスの脱炭素化は必要? CNLの現状と課題

CNLを求める需要家のニーズは高まりを見せている一方、クレジットにおける法的位置づけが定まっていないことやコストアップ等を理由に導入を断念する企業もいるという。

経済産業省の報告によると、具体的には、「広報面で対外的なアピールや外部からの評価につながるのであれば前向きに検討したい」、「省エネ法、温対法、国際的イニシアティブなどで評価されるのであれば考えたい」、「CO2排出量を削減したいニーズがあるが、コストアップが課題」との意見が寄せられている。企業の自発的な取り組みを加速させるためには、クレジットについての一定のルールや評価法といった、排出量取引の利用環境の整備が必要となるであろう。

そんな中、日本ガス協会では、CNの実現を目指し、合成メタンをはじめ、水素(直接利用)やCCUS、その他の脱炭素化手段を活用し、先導的な研究を進めている。

カーボンニュートラル都市ガスは今後どう活用されるのか・・・次ページ

東條 英里
東條 英里

2021年8月よりEnergyShift編集部にジョイン。趣味はラジオを聴くこと、美食巡り。早起きは得意な方で朝の運動が日課。エネルギー業界について日々勉強中。

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