仮想通貨が現実を侵食している〜マイニングと脱炭素 マイニング競争は激化、中国は抑止、イーロン・マスクは保持を続ける  | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

仮想通貨が現実を侵食している〜マイニングと脱炭素 マイニング競争は激化、中国は抑止、イーロン・マスクは保持を続ける 

仮想通貨が現実を侵食している〜マイニングと脱炭素 マイニング競争は激化、中国は抑止、イーロン・マスクは保持を続ける 

2021年05月31日

ビットコインなどの仮想通貨が環境に悪影響を及ぼしている。イーロン・マスク率いるテスラのビットコインに関する動向とともに、今、改めて注目されている仮想通貨。仮想通貨は環境、特にエネルギー関連でどのような問題があるのか。

仮想通貨は電力を膨大に使う その量はGoogle10社分

仮想通貨が現実の世界に影響を及ぼしている。ビットコインはいまや金融問題だけではなく、地球の温室効果ガスの問題になっている。

銀行のように中央集権的な台帳を持たない仮想通貨取引には、ブロックチェーンによって分散化された台帳を突き合わせ、確認する作業が必要になる。だれが、いつ、どんな情報を台帳に書き込んだのか(=取引がおこなわれたのか)を確認、承認する作業をブロックチェーン全体で担う。

この確認、承認の作業はマイニング(採掘)と呼ばれる。暗号同士を付き合わせる作業になるため、膨大な計算が必要になる。マイニングには成功報酬が支払われるため、専門の事業者が多く存在する。

仮想通貨の最大且つ古参のビットコインの場合、現在のマイニング成功報酬は6.25BTCだ。5月28日のレートでは、約410万円/BTC。マイニングのためのブロック(台帳)は10分に一度つくられるので、1日あたり6×24×6.25で、900BTC=約37億円がざっと一日にうごく。成功報酬がビットコインによって支払われるということは、新しいビットコインが発行されることになるので、マイニングがさらに必要になる。


取引のハッシュ まだ確認がとれていない状態

この成功報酬は成功したものしか得られない。そのためにマイニング事業者は何十台のマイニング専用サーバを用いて計算(ハッシュ関数の突き合わせ)をおこない、その設備合戦は激しさを増している。

マイニング事業者の使う専用サーバも高騰しているが、現在問題になっているのはサーバの電力だ。ビットコインの電力消費量は2021年、128TWhに達するという。これは世界の電力生産量の0.6%、ノルウェーの国の全電力消費量を超え、Googleの電力消費量は12.2TWh(2019年)、つまり、ビットコインの電力消費量はGoogle10社分のエネルギー消費量に匹敵する。

英ケンブリッジ大学の研究者がまとめたCambridge Bitcoin Electricity Consumption Index、CBECIによると、昨年11月から電力消費が上昇しているのがわかる。2016年には問題になっていなかったこの電力問題がにわかにクローズアップされているのがわかる。


Cambridge Bitcoin Electricity Consumption Index websiteより

マイニングの中心地、中国では石炭が大量に採掘されている

このマイニング事業者は世界中にいる。もちろん、日本にもいる。マイニングは前述のように計算量がケタ違いなので、大量のCPUとともに大量の電力量が必要になる。なので、電力料金の安い場所に集中する。それはどこか。中国だ。

先のケンブリッジ大学の研究によれば、マイニングの65%は中国でおこなわれ、2位のアメリカは7.2%。9倍になる。(3位はロシア、4位はカザフスタン)中国国内では、新疆ウイグル自治区が35%、四川の9.6%、内モンゴル自治区の8%がベスト3だ。


Cambridge Bitcoin Electricity Consumption Index websiteより 2020年Q4

そして、中国はまだ自然エネルギーへの転換にはほど遠い。大量の安い石炭が採掘され、大量の安い石炭火力由来の電力がビットコイン(のマイニング)に使われ、大量の二酸化炭素が排出されている。

ビットコインのマイニングのために安い石炭がさらに採掘されている。まさに仮想が現実を侵食している。

ビットコインのレートは4月16日の6万4千ドルが18日に5万5千ドルに急落した。これはウイグルでの事故によるものだ。新疆ウイグル自治区で4月11日、炭坑の浸水事故があった。21人の鉱山労働者は地下に閉じこめられ、救出されたが当局が安全確認のために17日に炭坑の石炭採掘を停止。発電所への石炭出荷も停止になると、ウイグルは停電に陥った。するとウイグル地区のマイニングも停止になり、ビットコインの急落につながったといわれている。発電再開も正式な許可なくおこなわれた。


世界最大のビットコインマイニングマシン製造事業者BITMAINは、マイニング子会社AntPoolも運営する

中国当局はマイニングを規制強化

中国はこの状況を黙認しているわけではない。2月には内モンゴル自治区は地区内でのマイニング事業を4月までに終了させると発表、新規プロジェクトも禁止するとした。

そして5月21日、中国当局は内閣の金融安定発展委員会が規制方針を発表。中国当局は国内の銀行やマイニング事業者に取引制限の圧力をかけた。これにより仮想通貨取引所大手の「火幣」は中国本土の新規ユーザーに対するマイニングサービスやマイニングサーバの販売を停止すると発表。

これをうけて5月17日に4万4千ドルだったビットコインは24日に3万4,500ドルまで値下がりした。

このように、中国の動向にビットコインは大きく左右されている状況だ。

その中国は、アメリカに対抗して二酸化炭素排出の削減量も気にしている。2030年までに2005年比で65%以上削減すると昨年12月に目標引き上げを発表した。2060年にはカーボンニュートラルが目標だ。4月の気候リーダーズサミットでも石炭消費量を削減すると公表。ただし、これは2026年からの話ではある。

だが、中国はいま、大きく自然エネルギーへかじを切ろうとしているのは間違いない。2030年までに風力と太陽光で1,200GW以上を確保し、非化石燃料の割合を25%に高めようとしている。内モンゴルのクブチ砂漠には山手線の内側とほぼ同じ面積(67km2)の中国最大のメガソーラーを建設中だ。

脱炭素という覇権争いで負けたくない中国にとっては仮想通貨のマイニングによる石炭採掘は取り除くべき障壁だ。四川省や雲南省は水力発電もあるというが、冬季の乾期は水量が減り、発電量は減ってしまう。以前からある大気汚染の問題もある。中国でのマイニング禁止はこれからも強化されるだろう。

どこでおこなわれても、仮想通貨は安価な電力を必要としている

では、中国で禁止されたマイニングはどこでおこなわれるのだろう。ひとつは違法に地下でおこなわれることが考えられる。ただし、これは禁止圧力がさらに強くなるとともに中国での規模は小さくならざるを得ないだろう。

中国の外へ事業を移行するという企業もでてくる。前述の「火幣」は海外に拠点を移す計画を発表。マイニング大手の「BTC.TOP」は、マイニングは今後北米でおこなうと表明した。

そのアメリカでは、天然ガスの火力発電所が復活しつつあるという話もある。電力需要の高まりで、古くなった設備を再利用しているということだ。

どこでマイニングがおこなわれるにしろ、仮想通貨は現状のままでは安価な電力=火力発電が必要になる。ビットコインだけで二酸化炭素排出量はオーストラリアのそれを超える。

仮想通貨は、気候変動の敵になってしまうのか? 今のままではそうだ。

仮想通貨の開発者側では、マイニングの手法を変えることで対処しようとしており、アルゴリズムを現在よりもCPUパワーがかからない方法にしようと開発中だ。

ビットコイン以外の仮想通貨の中では一番人気のイーサリアムという仮想通貨の創設者、Vitalik Buterin氏は5月20日、イーサリアムのアルゴリズムがカーボンフットプリントを縮小すると表明した。

この計算モデルはビットコインよりもはるかに少なく、100分の一から1万分の一まで削減できるという。このアルゴリズムの本格的な実装にはまだ時間がかかりそうだが、期待は持てそうだ。年内移行を目指しているとVitalik Buterin氏は述べた。

テスラはビットコインを保持するが、持続可能な取引を望む

テスラのイーロン・マスクがビットコインに参入した今年2月、この問題の深刻さをどこまで理解していたかはわからない。英フィナンシャル・タイムズはテスラによる大量のビットコイン購入を、環境問題と絡めて「愚劣」であると述べた。メディアはテスラのESGポートフォリオが低くなるだろうと報道。そして、参入と同時にビットコインは急騰した。

しかし、イーロン・マスクは今月初めに、ビットコインのマイニングに対して「化石燃料の使用が急増している」という懸念を理由に、支払いを停止するとツイートしている(これによりまたビットコインの価格が下がったといわれている)。

そして5月17日のツイートでは「ビットコインは実際には非常に中央集権的で、一握りの大手マイニング(ハッシュ化)企業が超多数を支配しています。新疆ウイグル自治区のひとつの炭鉱が浸水して鉱夫たちがほとんど死んでしまい、ビットコインのハッシュレートが35%も低下した。これが「分散型」だと思いますか?」とツイート。

「テスラはビットコインを一切販売せず、マイニングがより持続可能なエネルギーに移行したら、すぐに取引に使用するつもりです」とも述べており、テスラがマイニングと環境問題に真剣に向き合っていることを表明した。

それに続くひとこともまた興味深い。イーロン・マスクは「また、ビットコインの1%以下のエネルギーで取引ができる他の暗号通貨も検討しています」と述べた。これはイーサリアムのことを指しているのか。それとも、ほかの仮想通貨を指しているのか。Twitterなどでは議論が盛んにおこなわれている。

米バイデン政権はこの問題について、まだ表立っては動いていないが、5月26日のワシントンポストはホワイトハウスが仮想通貨規制について議論をしていると報じている。2,000万人ものアメリカ人が暗号通貨を所有しているといわれており、金融リスクとともに環境リスクについても議論されているという。

仮想通貨は現実の環境問題であり、金融リスクにも直結している。さらにそのリスクは現在、無視できないほどに増大している。

(Text:小森岳史)

小森岳史
小森岳史

EnergyShift編集部 気候変動、環境活動、サステナビリティ、科学技術等を担当。

気候変動の最新記事