太陽光発電、ほんとうのメンテナンスとは その質、最新技術、ドローン、そしてコスト | EnergyShift

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太陽光発電、ほんとうのメンテナンスとは その質、最新技術、ドローン、そしてコスト

太陽光発電、ほんとうのメンテナンスとは その質、最新技術、ドローン、そしてコスト

2020年08月26日

O&M ほんとうの話

脱炭素社会の推進に欠かせない太陽光発電所を、FIT電源として運用していく為には適切なメンテナンスは義務となっている。一方、質の低いメンテナンスで発電所の利益が失われているとの報告もある。質の高いメンテナンスのポイントとは何か。メンテナンスが本来果たす役割とは。そしてメンテナンスの将来像までを、afterFITで品質管理 O&M 統括を担当する小林悦郎氏が解説する。

歩いただけじゃ点検はできない

メンテナンスというのは、設備の保安点検と維持管理を行うことです。

まず、保安点検ですが、これは定期的に行っています。また、契約によりますが地震や大雨の規模・影響度により、実施することがあります。目視による点検では、主要な部分を見て、異常に発展する兆候を見つけ出しています。

とはいえ、O&Mの事業者によって、目視による点検のレベルはさまざまです。中には、行ったふりをしただけで、実際には行っていないというところもあるようで、そういった話が耳に入ってきます。その例証として、パネルの間から木が生えているようなことがありました。これは現地に足を運んでいれば、見過ごすことはないでしょう。

歩いてながめるだけ、というO&M事業者もいます。現地に行って写真を撮影し、レポートとしてお客様に提出すれば、点検として成り立ってしまいます。しかしそれでは、パネルの表面すら細かく見ているわけではないので、パネルのひび割れなどが見過ごされることもあるでしょう。また、クランプが浮いた状態も見過ごされてしまいます。したがって、目視といっても、一目でわからない異常やそこにいたる前の兆候をきちんと見つけていくことが大切です。

株式会社afterFIT O&M 統括 小林悦郎氏

メンテナンスポイントと起こりうるトラブル

パネルの裏側の点検も見過ごしてはいけない所が多く、例えばコネクタの接続・施工不良により発火・融解を発生させることがあります。また、コネクタが水のたまる部分へ固定されていたり、パネル裏面が異常に発熱し、焦げてしまうことでシステムの絶縁劣化を引き起こし、PCS停止に至ることもあります。

パネルを支える架台の点検についても、同じことが言えます。台風などの強風においてパネルが飛散しないのはパネルを固定しているクランプや、架台の支持部分が設計通りに固定されていることが前提となっておりますが、こういうところにもゆるみが発生していることも見受けられます。

しかし、このような発電所に大きく影響のある異常は、きちんとした点検が行われ、異常を把握・対応することでほとんどが対処できます。

地面そのもののチェックも不可欠ですし、とりわけ台風のあとは、場合によっては慎重な点検が必要になります。あるいは、特定の部位に常に水がたまり、腐食しやすい状況になっていることもあります。

このように、O&M事業者によって、メンテナンス作業の内容には大きな差があり、結果として発電所の健全な運営といった面で差が出ます。発電所のオーナーにおいても、こういった点には注意し、適切な事業者による適切なメンテナンスを行っていくことが必要です。

太陽光発電所内でクランプメーターを使い、正しく発電されているかどうかのチェックを行っている

ドローンでホットスポット点検

太陽光発電では、目視以外に、ドローンとサーモカメラを使ったホットスポットやクラスタ故障等の点検も行っています。

太陽光発電パネルにおいて何等かのトラブルがあり、発電量が低下している場合、セルやクラスタ・パネル・ストリングの単位で熱を持った部分になる為、サーモカメラで発見することが可能です。

低圧の小さな太陽光発電所であれば、人がサーモカメラを手で持って測定することも出来なくはないでしょう。しかし高圧や特高の大規模な太陽光発電所の場合、人がサーモカメラを持って測定するのは大変ですし、時間もかかります。そこで、私たちはドローンを使って、ホットスポットの月次点検を行っています。

ドローンは決して安価なものではありませんが、これにサーモカメラを取り付けて、1MWや2MWといった高圧の発電所の月次点検を行うと、トータルコストが劇的に下がります。この点はすでに検証されていることから、私たちのO&M担当のメンバーは全員がドローンを操縦することができるようにしています。

ドローンでホットスポット点検

機器の交換もメンテナンスの一環

適切なオペレーションを行い、きちんとメンテナンスを行っていても、機器の劣化や故障は起こります。FITで設備認定を受けている場合は、少なくとも買取期間の20年間は運転することになります。その間に、寿命を迎える機器もあります。

例えばパワコンの場合、20年の間に1度交換する必要がある製品もあります。また、UPS(無停電電源装置)の場合、3年に1度は蓄電池を交換しています。

こうしたことから、メンテナンス計画の中には、機器の交換は織り込まれています。特に、20年間のメンテナンスコストを計算する場合は、機器の交換のコストも含まれていますし、またそうしたコストを含めたメンテナンスコストを見積もることについては、融資してくれる金融機関からも厳しく指摘されます。

とはいえ、メンテナンスコストに対しても、なるべく下げていく要請があります。特に、将来、発電単価が7~8円/kWhまで下がった場合、これまでと同じようにメンテナンスコストをかけていくのは難しいでしょう。自然エネルギー財団の報告書では、2030年頃には、草刈りや修繕費を含め、0.19万円/kW・年になるとしています。

コストを下げていくためには、さまざまな工夫が必要ですし、現場に足を運ばなくても正しい点検ができるようなしくみも求められるでしょう。

その一方、太陽光発電パネルもパワコンもどんどん値下がりしており、特に発電量に関するチェックは気にならなくなっています。実際に、120%から150%の過積載を行っている太陽光発電所の場合、パネルの1~2枚が発電していなくても、発電量の誤差程度にしかなりません。また、20年間では太陽光発電パネルの経年劣化で発電効率がおよそ10~15%下がるとされていますが、140%の過積載で試算するとそこまでの落ち込みは回避できることになります。

したがって、設備全体が更にコストダウンしてくると、発電所の原価構成的には、ただ単にコストの高い職人技のような点検はあわないので、リーズナブルな価格で提供できるメンテナンス技術の確立が必要になってくるといえます。

とはいえ、それはまだ先の話であって、現状は適切なコストをかけてきちんとしたメンテナンスを実施し、安定した発電を維持していくことが、太陽光発電事業の収益改善には不可欠となっています。

連載 O&M、ほんとうの話

小林 悦郎
小林 悦郎

1963年生まれ。山口県岩国市出身。 メーカー、IT人材派遣等といった各ステージ期の企業にてプロジェクトマネージャー、経営企画を歴任。その後、afterFITにて分析チーム、情報システムチーム、総務チーム担当を歴任。2019年6月より品質管理チームのマネジメントを担当。

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