P2P取引は拡大する。クリーンテックが成功する鍵とはなにか A.L.I.Technologies 渡慶次道隆氏インタビュー(2) | EnergyShift

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P2P取引は拡大する。クリーンテックが成功する鍵とはなにか A.L.I.Technologies 渡慶次道隆氏インタビュー(2)

P2P取引は拡大する。クリーンテックが成功する鍵とはなにか A.L.I.Technologies 渡慶次道隆氏インタビュー(2)

2019年07月04日

A.L.I.Technologies 渡慶次道隆氏インタビュー(2)

「顔の見えるでんき」をキャッチフレーズに展開するみんな電力株式会社。同社は昨年、ブロックチェーンを用いた低価格かつリアルタイムな電力トレーサビリティーの商用化を発表し、試験的な運用を開始している。

このシステムを共同開発したのが株式会社A.L.I.Technologies。エアーモビリティー事業を中心に据えつつ、電力×ITの事業を行っているベンチャー企業だ。同社取締役副社長、渡慶次道隆(とけいじみちたか)氏へのインタビューの後編をお届けする。

前回はブロックチェーンを用いた電力トレーサビリティーのシステム概要を伺った。今回はより突っ込んだ内容とともに、将来の日本の電力市場におけるP2P取引がどのようになるか、さらにはクリーンテックベンチャーの成功のカギについても聞いてみた。

前編はこちら

取材・執筆 藤本健

30分ごとにトークン発行で、「顔の見えるでんき」を実現

−みんな電力におけるP2Pのシステム(ENECTION2.0)では30分ごとに発電する電力量や消費する電力量を計測しているのですよね。計測する時間を長くすればブロックチェーン記帳のデータトランザクションも減ると思いますが、なぜ30分刻みなのですか?

渡慶次:これはとっても単純で、いわゆる「30分値」というものを使っているからです。30分値とは、スマートメーターが30分ごとに計測を行い、それを送配電事業者に送る数値のことで、これを元に電気料金が計算されると同時に、リアルタイムの発電状況、使用状況を見ることができるものです。つまり、この30分値を元にしているので、30分ごとにブロックチェーンのトークンを発行するわけです。

−リアルタイムということは、スマートメーターと無線通信を行ってリアルタイムデータを取得するBルートを使っているということですか?

渡慶次:Bルートでのデータ取得にはWi-Sunという規格に適合した専用の装置が必要となりますが、このシステムでは送配電事業者からデータを入手するAルートからのデータを取得しています。そのため、とくに装置を付加する必要がありません。このP2Pのシステムでは、リアルタイムと言っても、必ずしも厳密なリアルタイムデータを把握する必要があるわけではないのです。あくまでも事後の数値を入手して、追認していくような形ではあるのですが、トレーサビリティー確保の点からいえば、これで必要十分なシステムを実現できます。また、Aルートの結果とBルートの結果では微妙に誤差がでることもあり、Bルートは使っていません。

−何かを測定して売買するためには、水道メーターであっても、電力メーターであっても、計量法に則ったメーターを使う必要があります。このP2Pの仕組みにおいて、そうしたメーターを設置する必要はないのですか?

渡慶次:ここで使っているのは、まさに計量法に則った現行のスマートメーターが測定した値をそのまま利用しているということです。新規のメーターや機器の必要はなく、現在使っているスマートメーターをそのまま活用できるわけです。30分値の電源価値を事後的にマッチングし、電源から需要家に移転してあげる。これによって「顔の見えるでんき」の裏付けをしているわけです。

これからの電気の売り方、買い方

渡慶次:今回のシステムでは、このようにブロックチェーンのP2Pシステムを構築してきました。ただ、今後のことを考えると、リアルタイムもそうですが、本当にそこまで厳密な計測が必要なのか、個人的には疑問を持っているんです。

−さらに厳密に測定するとか、リアルタイム性を向上させるというのではなく、そもそも厳密な測定が必要か、ということですか?

渡慶次:売電というよりも、家庭での電力消費においてですが、一般の人はあまり電気の細かいことに興味がないし、そもそもあまり面白いものでもないですよね。HEMSなどで消費電力の見える化をしても、ほとんどの人は数日で興味を失ってしまうのが実情です。

家庭向けとしては、従量課金制度から将来的に定額制度に代わっていくのではないか、と考えています。家庭用蓄電池の導入オプションとか、EV利用者には、EVバッテリーの貸し出しオプションがつくイメージです。AIがすべて最適化してくれるような機能がついて、バッテリーの充放電を効率よくコントロールしてくれる、なども考えられます。

現在も電力小売りの自由化によって、ガスと電気のセットなどがありますが、今後さらに進んでEVタクシーの乗車チケットがセットになるとか、いろいろな組み合わせもあるのではないかと。

−携帯電話などと近い料金体系ですね。確かに一般の人にとって、〇〇kWhといってもピンと来ません。定額制で何かとセットになるほうがわかりやすそうです。でも、そうなるとP2Pというものも結局縮小してしまうということですか?

渡慶次:P2P取引自体は、今後もっと加速していくべきものだと考えています。とくに太陽光発電などは地産地消が効率的にもいいのは間違いなく、遠くに電送したのでは価値がなくなってしまいます。マイクログリッドがより重要になってくるわけです。

将来的にそうなり、本来の意味でのP2P、マイクログリッドの本格導入となると、現在の仕組みとは大きく変わってきます。システム刷新や法整備も必要になってくるでしょう。家庭の太陽光発電の余剰電力を電力会社が買い取るのではなく、P2Pで別の人に売るとなると、いまの法律ではできないですからね。

そうした将来像においても、ブロックチェーンを用いたシステムが本当に有用なのか、有効なのはどこか、改めて考えていく必要があると思います。

    

海外でもまだ成功例は少ない

−P2Pでの電力取引、海外事例だとうまく行っているケースはあるのでしょうか?

渡慶次:海外でも、日本よりちょっと早く始まったというだけであり、まだまだ実証実験という段階ですね。ブロックチェーンでP2Pができている町があるとか、国がある、というわけではありません。海外においては、電力ビジネスに多くのベンチャーが参入していきましたが、いまはなかなか苦戦しているのが実情です。

−海外のクリーンテックのベンチャー企業は、とても活性化している印象がありましたが。

渡慶次:電力ビジネスにベンチャーが参入する際、彼らが考えるのは大きく2つ。「非常に広がりの大きい世界なのでサービスのスケール化ができる」「地球環境を守るという大目標に取り組める」というインセンティブです。この両方を推進したのがオバマ政権時代のグリーン・ニューディール政策でした。補助金を出して推奨したので、数多くのビジネスが立ち上がりました。

こうしたベンチャーが規模拡大を目指してやろうとしたのは、電力会社に売るためのシステム構築です。つまりデマンドレスポンスのシステムを作っていました。でも、電力会社の意思決定は日本に限らず、海外でも非常に遅いのです。実証実験に1、2年かけて、さらに規模を少し大きくして1、2年、そしてさらに……と本格導入までには時間がかかるため、2012〜2014年はこの手のスタートアップ企業がどんどん潰れていきました。一方の地球環境を守るというのはビジネスになりにくい。CO2を地下に貯蔵するとかでは、お金にならない。どうしても補助金を頼りとしたビジネスになりがちで、市場がゆがんでしまいます。

その結果、なかなかいいプレイヤーが育っていないのです。シリコンバレーだとベンチャーにお金を投入するファンドがいて、ある割合で成功していくというサイクルができていますが、クリーンテックの世界ではそれができていない。その結果、クリーンテックのファンドはすでにシリコンバレーにはいなくなってしまいました。これと同様なことが日本でも起こっていくのではないでしょうか?

ネット的に扱えないことが電力にはある

−やはりITベンチャーのようにうまくはいかない、と。

渡慶次:そうですね。インターネットの考え方を適用すれば上手くいくと考えて参入してくる人は多いのですが、インターネット的に扱えない電力業界特有の部分を理解しないまま参入すると、なかなか採用されずに潰れていくプレイヤーが多いように感じています。採用には長時間を要することを覚悟の上、それを念頭に進めていける企業の登場が必要ですね。

−今回、A.L.I.Technologiesは、みんな電力のP2Pのシステムを担当されましたが、今後、このブロックチェーンを用いたP2Pシステムや電力ビジネスなどを、もっと多角的に展開していくことは考えているのですか?

渡慶次:当社1社で展開するようなことは考えていません。パートナーとタッグを組みつつ、当社の強みが発揮できることであれば、ぜひ積極的にやっていきたいと考えています。みんな電力さんと、エクスクルーシブな契約になっているわけではありませんが、ここまで一緒にやってきたので、これからももっと巻き込んで進めていけるといいな、と考えています。

−ありがとうございました。

(終わり)

   

(取材・執筆 藤本健 撮影:寺川真嗣)

前編はこちら

 

渡慶次道隆
渡慶次道隆

株式会社A.L.I.Technologies 取締役副社長<br />東京大学工学部卒業。外資系投資銀行にて債券・デリバティブ商品を中心に金融法人向けの営業を担当後、大手総合商社に転職。コモディティデリバティブ事業や、ICT関連の事業投資・新規事業の立ち上げに従事。 2019年3月株式会社A.L.I.Technologies 取締役に就任。

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