「日本はまもなくIEAフェーズ4へ」。拡大する変動再エネと対応策は。第55回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」 | EnergyShift

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「日本はまもなくIEAフェーズ4へ」。拡大する変動再エネと対応策は。第55回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」

「日本はまもなくIEAフェーズ4へ」。拡大する変動再エネと対応策は。第55回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」

2020年11月13日

審議会ウィークリートピック

変動する再生可能エネルギーが増加するにしたがって、電力系統の運用にさまざまなしくみが必要となる。電力広域的運営推進機関は日本が間もなく変動する再エネを大前提とした系統と発電機能が必要になるという見解をしめした。こうした問題を含め、2020年10月27日に開催された、第55回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」での議論を報告する。

※用語の表記に関しては、本稿に限らず全て、審議会等で用いられた用語をそのまま用いることをご了承願いたい。

日本は間もなく、変動再エネ大前提の電力系統運用に

国際エネルギー機関(IEA)によれば、自然変動再エネ導入比率や電力システムの状況等に相関して6つの運用上のフェーズが存在する。図1のとおり、日本は2017年時点でフェーズ2(九州エリアのみフェーズ3)とされており、2030年頃にフェーズ3に到達すると試算されていた。

ところが、電力広域的運営推進機関(広域機関)は第55回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」において、日本がまもなく「フェーズ4」に到達するとの見解を表明したうえ、これに備えた技術的対策の検討を開始した。

図1.各国の変動再エネ比率と運用上のフェーズ(2017年時点)

出所:第20回系統WG

表1.変動再エネ導入比率に相関する6つの運用上のフェーズ

出所:第20回系統WG

現時点では、アイルランドやデンマークがフェーズ4に位置しており、他の欧州各国がフェーズ3となっている。突然、日本(全国)がフェーズ4とはどういうことなのか

日本の再エネの主力は「太陽光」

再エネ導入比率の高い欧州・米国では、変動再エネの主力は風力発電である。ところが日本では、導入済みの変動再エネの主力は太陽光発電だ。

風力発電・太陽光発電いずれもインバータ電源(非同期電源)であるという共通点がある。
同期電源(従来の火力や水力等の発電機)は回転エネルギーにより交流の電気を生み出し、同じ交流系統内(例えば東日本では50Hz)ではすべての発電機が同じ回転数(50サイクル/秒)で同期しながら回転している。これが一定の周波数を保っている。

同期電源は一定の重量物が高速で回転すること(し続けようとすること)により慣性力や同期化力を持つため、ある程度の大きさの事故が発生した場合であっても発電機自体が周波数の低下を食い止めようとする効果が自然に現れる。これが電力系統の「安定性」に役立っている。

風力・太陽光発電はインバータ電源であり、後述する人工的な「疑似慣性」等を除き、それ自体は同期化力・慣性力を持たないため、非同期電源と呼ばれている。

電力系統内に非同期電源が増加するということは、同期電源が減少することを意味している。系統安定性の低下は、電気の品質(周波数、電圧)低下や大規模停電の発生などをもたらす可能性がある。

図2は日本のように、太陽光が再エネの主力である場合の需給バランスのイメージである。太陽光は昼間しか発電しないため、図の総面積に占める太陽光の割合、つまり年間総発電量に占める太陽光の割合はそれほど大きくならない。しかしながら、昼間の断面で見れば非同期電源比率が大きくなる(同期電源比率が小さくなる)ため、系統運用上の課題は大きいと言える。太陽光導入量の多い九州エリアだけでなく、全国的に見ても非同期電源比率が約40%となる時間帯がすでに発生しており、今後さらに上昇することが予想される。

これが、広域機関が日本を「フェーズ4」と位置付けた理由である。

図2.太陽光が再エネの主力である場合の需給バランス

出所:第55回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

「グリッドコード」、需給調整市場の次世代化など、これからの課題

FIT開始後、再エネ(特に太陽光)の増加に伴い、これまで「下げ代不足(需給制約)」や「送電容量不足(系統制約)」などの問題に対処してきたが、早くも新たに「系統安定性の不足」という課題に直面することとなった。よって本委員会において、系統安定性の確保に向けた制度面・運用面での対策検討が開始された。

非同期電源が大量に導入された系統が直面する課題の一つが慣性力の低下である。慣性力が低下すると、電源脱落時の周波数低下スピードが速くなるという問題が生じる(周波数変化率= RoCoF が大きくなる)。このため、通常の上げ調整力の発動が間に合わず、発電機が安定運転を維持できず連鎖解列し、周波数がさらに大きく低下した結果、ブラックアウト(全系統停電)に至る可能性がある。

慣性力低下以外にも、周波数や電圧が適正値から逸脱することや、同期化力の低下、短絡容量の低下などが主要な課題として認識されている。

これら課題への対策の一つが、再エネ電源自身に調整能力・機能を具備させることである。すでに広域機関では9月に新たに「グリッドコード検討会」を立ち上げ、系統に接続する電源が具備すべき機能について検討を開始したところである。

また2021年度以降に順次開設される需給調整市場では、系統安定性確保のために必要となる慣性力等は調達対象商品とは位置付けられていない。変動再エネ・非同期電源の大量導入に備え、早くも需給調整市場の次世代化の検討開始が必要とされている。

新型コロナウイルスによる電力需要への影響

半年に一度、需給バランス委員会ではこの時期に、夏季および冬季の電力需給を検証しているが、今回まずは新型コロナウイルスによる電力需要への影響をご報告したい。 広域機関による一定の仮定を置いた試算であるが、全国の電力消費量にコロナウイルスが与えた影響量を分野別に試算した結果は表2のとおりである(すべて気象補正後)。

表2.新型コロナウイルス影響量の簡易試算結果

出所:第55回 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会

図3.新型コロナウイルス影響量の簡易試算結果

出所:表2をもとに筆者作成

在宅率の高まりにより家庭用では需要が増加し、飲食業・宿泊業等の業務用は減少幅が大きいが、分野合計としては5月を底に回復傾向にあると考えられる。

2020年度の電力需給検証と容量市場における供給力評価

詳細は割愛するが、2020年度夏季の全国計の最大需要(16,639万kW)は8月20日14~15時に発生したが、予備率は11.8%と安定供給確保に十分な供給力を確保することができた。

ただし、中部・関西・四国エリアについては最大需要実績が猛暑H1想定需要を上回った。H1需要とは、過去10年間で最も厳気象(猛暑・厳寒)であった年度並みの気象条件での最大電力需要である。最大需要の更新はいつでも起こり得ることであると再認識させられる結果となった。

また2020年度冬季の電力需給の見通しとしては、厳寒H1需要が発生した場合でも、予備率3%以上を確保できる見通しであることが報告された(電源Ⅰ´、火力増出力運転、連系線活用、計画外停止率、不等時性などをいずれも考慮・反映済みの数値)。

最低限確保すべき予備率は「3%」とされているが、12月の西エリアの予備率は3.2%、1月の東北・東京エリアでは3%となっている。エリア単独では予備率不足となる場合には、連系線を活用して供給力を移動させるなどして各エリアの予備率を均平化させている。

ただし、稀頻度リスク評価においては、東北東京エリアでは1月に64万kW、中西5エリアでは12月に47万kWが不足する試算となった。稀頻度リスクとは、単機最大ユニット脱落やN-1送電線故障等に相当する供給力低下率として、「平年H3需要(最大3日平均電力)の1%」が基準とされている。

これら不足への対策として、東北東京エリアでは、供給計画上では供給力として計上されていない実証試験設備(約68万kW)を追加で供給力として見込むことで対策とした。

中西5エリアでは、供給計画上では供給力として計上されていない小売電気事業者の「ひっ迫時抑制電力(デマンドレスポンス等)」(約60万kW)を供給力として見込むこととした。
このような細かい点に筆者がこだわる理由は、容量市場での供給力評価の在り方に疑問を感じているためである。

万一の需給逼迫に備え、供給力として計上されていない実証試験設備やデマンドレスポンス等の活用を見込むこと自体は適切なことであると大いに評価できる。他方、このように一定の蓋然性を持つ潜在的供給力・埋没供給力は多く存在するのではないかと感じている。
容量市場では、供給計画に計上されない電源は供給力としてカウントしないルールとなっている。

需給バランス評価と容量市場は、その目的や時間軸が大きく異なるものであるが、国全体での適切な供給力評価が進むことを期待したい。

(Text:梅田あおば)

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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