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原子力発電

原子力発電は安全なのか?その仕組みを徹底解説

2021年03月03日

2020年時点では、日本にある原子力発電の多くが稼働を停止しています。原子力発電の安全性が問われており、原子力撤廃の声が大きくなるなか、私たちは原子力発電へどのように向き合えば良いのでしょうか。理解への一歩を踏み出すために、まず原子力発電の現状や特性を把握するべきでしょう。

原子力発電とは

原子力発電は、ウランの核分裂によって発生する熱エネルギーを利用し、電力を作る発電方式です。石炭や石油、天然ガスといった化石燃料を燃やし、タービンを回転させる火力発電とは「使用する燃料が違う」という点で異なります。

化石燃料を燃やす火力発電は、多くの二酸化炭素を排出するだけでなく、NOx(窒素酸化物)・SOx(硫黄酸化物)・PM(粒子状物質)といった有害物質を発生させます。一方、原子力発電は二酸化炭素を排出せず、使用済み核燃料の処理さえ適切に行えば、大気中に有害物質をまき散らすことはありません。

原子力発電が発電する仕組み

原子力発電は、沸騰させた水から発生した蒸気を使ってタービンを回し、タービンと接続された発電機が稼働することで発電する仕組みとなっています。以下画像のように、火力発電は水を沸騰させるために化石燃料を燃やしますが、原子力発電の場合はウランを核分裂させた際に生じる熱エネルギーを利用します。

原子力・エネルギー図面

*エネ百科「原子力・エネルギー図面集

  1. 核分裂により生じた熱で、水を沸騰させる
  2. 沸騰して生じる水蒸気でタービンを回転させる
  3. タービンに繋がれた発電機が稼働し、発電する
  4. 水蒸気は水に戻されて再度原子炉へ入る

上記のような仕組みにより原子力発電は成り立っており、構造そのものは火力発電と大差ありません。

原子力発電が占める割合

環境エネルギー政策研究所が作成した資料によると、2019年度における日本全体の電源構成は以下の通りです。

2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合(速報)

*環境エネルギー政策研究所「2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合(速報)

2019年時点では、国内における電源構成の6.5%を原子力発電が占めています。一方、日本以外の電源構成は、以下のような割合になっています。

統計|国際エネルギー

*自然エネルギー財団「統計|国際エネルギー

上記の割合は2019年時点のデータです。エネルギー資源に恵まれず、エネルギー自給率を高めるために原子力発電を積極的に採用したフランスが、原子力発電の割合の大きさでは目立ちます。

安全性が問われる原子力発電

2020年11月11日時点では、九州にある玄海原子力発電所のみが稼働中となっており、国内の原子力発電所は大部分が停止・新規制基準の審査中となっています。

原子力発電所の現状

*資源エネルギー庁「原子力発電所の現状

2010年頃まで、火力発電に次いで日本を支えていた原子力発電所の多くは、稼働に伴う危険性が露見したため停止しました。
もともと、原子力発電所の安全性を疑問視する声はありましたが、福島第一原子力発電所事故はより多くの日本国民に原子力発電について考えるきっかけを与えたのです。

福島第一原子力発電所事故とは?

福島第一原子力発電所の事故は、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に起因する事故です。以下の一文が示している通り、地震によって生じた高さ約13mの大津波により、多くの電源が機能しなくなり、原子炉を冷やす能力を失ってしまったことが事故を招きました。

“福島第一原子力発電所は、東北地方太平洋沖地震の発生時、運転を止めましたが、津波によりすべての電源を失って原子炉を冷やすことができなくなり、燃料が溶融し、放射性物質を閉じ込めることができませんでした。”

*日本原子力文化財団「福島第一原子力発電所事故の概要

冷却機能を失った原子炉のなかでは、高温状態の金属と原子炉内の水蒸気が化学反応を起こし、水素が発生したことで水素爆発を誘発。放射性物質を極力取り除いてから、外部へ気体を放出する「ベント」という操作が期待通りに行われなかったため、多量の放射性物質がそのまま外部へ放出されました。

福島第一原子力発電所を廃炉するための解体・撤去作業は、完了までに30~40年ほどかかると見込まれています。以降、原子力撤廃の声も大きくなり、2020年時点では多くの原子力発電所が稼働を停止、あるいは廃炉となっています。

原子力発電のメリット

発電方式として見れば、原子力発電には優れた点が多々あります。どのようなメリットがあるのか、4つの観点から解説していきます。

燃料の安定確保が可能

原子力発電の燃料となるウランは、多くの地域に存在する天然資源であるため、燃料供給を特定の地域に依存しません。
また、発電量あたりの燃料消費量が火力発電より少なく、化石燃料よりウランの方が輸送コストは抑えられます。以下の画像は、100万kWの発電設備を1年間運転するにあたり、必要となる燃料の量を濃縮ウランと化石燃料で比較したものです。

原発のコストを考える

*資源エネルギー庁「原発のコストを考える

上記の通り、発電に必要となる燃料の量は、ウランと化石燃料で大きく異なります。ウランも化石燃料も調達は輸入に頼るため、輸送コストを抑えられる点でも原子力発電は優れています。

発電時に二酸化炭素を排出しない

原子力発電は二酸化炭素を排出しません。再生可能エネルギーによる発電と同様に、地球温暖化を進行させない点で優れています。
以下の画像は、各発電方式におけるライフサイクルCO2の排出量を示したグラフです。ライフサイクルCO2は、燃料を燃やした際に発生する二酸化炭素のほか、燃料輸送や設備建設などから発生する二酸化炭素の総量を指します。

日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価

*電力中央研究所「日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価

原子力発電は、燃料を燃やして発電する火力発電だけでなく、その他の多くの発電方式よりライフサイクルCO2の水準が低い傾向にあります。

二酸化炭素は地球温暖化を進行させる温室効果ガスの一種であるため、できる限り削減すべきだと考えられてきました。地球温暖化がもたらす悪影響は、以下の記事で詳しく解説しています。本記事とあわせてご参照ください。

発電量に対する必要面積が小さい

原子力発電所は、発電量に対して必要となる設備面積が小さい傾向にあります。
以下の画像は、原子力発電と太陽光発電・風力発電における、発電量と面積の関係を図にしたものです。

原発のコストを考える

*資源エネルギー庁「原発のコストを考える

100万kWの原子力発電であれば、設備の設置に必要となる面積は約0.6平方キロメートルです。一方、太陽光発電であれば必要面積は約58平方キロメートル、風力発電であれば約214平方キロメートルもの広大な土地が必要になります。これほどの大差が生まれる理由には、太陽光発電や風力発電が持つ以下の特性が関係しています。

  • 面積あたりの発電量が小さい
  • 稼働時間が短い(天候・時間帯に左右される)

再生可能エネルギーを利用して発電する特性上、発電量が不安定になりがちな太陽光発電所や風力発電所に比べて、燃料さえ用意すれば稼働させ続けられることは原子力発電所のメリットです。

発電コストが安価

発電コスト検証ワーキンググループが公表する2014年のデータによれば、数ある発電方式のなかで原子力発電の発電コストはもっとも低いスコアが出ています。

発電方式発電コスト
原子力発電10.1円~/kWh
石炭火力発電12.3円/kWh
LNG火力発電コスト13.7円/ kWh
石油発電コスト30.6~43.4円/kWh
太陽光発電(メガソーラー)24.2円/kWh
太陽光発電(住宅)29.4円/kWh
風力発電21.6円/kWh
地熱発電16.9円/kWh
水力発電(小水力を除く)11.0円/kWh

*発電コスト検証ワーキンググループ「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告

このほか、レポート内では小水力発電やバイオマス発電も比較対象に挙げられていますが、いずれも原子力発電より発電コストは高い水準です。
上記は、直接発電に関係する費用以外にも、事故リスク対応費用や追加的安全対策費といった費用を盛り込んだコストであり、直接的なコストだけでいえば群を抜いて低コストな発電方式だといえます。

原子力発電のデメリット

原子力発電は燃料供給や発電コスト、必要面積や二酸化炭素排出量など、あらゆる観点でメリットの多い発電方式です。しかし、取り扱い次第では人身・環境に多大な悪影響をもたらすため、日本では原子力撤廃の声が強くなっているのです。

ここでは、原子力発電のデメリットについてご説明します。

使用済み燃料の処理に問題がある

一度、原子力発電に利用された燃料は「使用済み燃料」と呼ばれ、使用済み燃料のうち95~97%は再利用が可能です。一方、再利用ができない3~5%を「高レベル放射性廃棄物」と呼びます。

高レベル放射性廃棄物は、使用済み燃料から生じる放射能レベルの高い廃液を、ガラス原料と融合させて固体化したものです。一連の処理によって生まれた高レベル放射性廃棄物は、将来にわたって私たちの生活環境に影響を及ぼさないよう、地下300メートルよりも深い地層に処分することが適当であると考えられています。

放射性廃棄物について

*資源エネルギー庁「放射性廃棄物について

ただし、いまだ日本における地層処分の候補地は決まっていません。2020年10月、北海道寿都町と神恵内村の2町村が、地層処分の最終処分場選定に向けた調査に応じることを表明していますが、反対の声も多く廃棄物処分はしばらく実現しそうにありません。地層処分が決まるまで、地上で高レベル放射性廃棄物を管理することとなり、事故のリスクが懸念される点はデメリットだといえます。

事故発生時に深刻な被害を招く

原子力発電における事故の尺度を示す「国際原子力事象評価尺度」において、深刻な事故を示すレベル7に分類された事例は、2020年までに2件あります。

  • 福島第一原子力発電所事故(2011年)
  • チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年)

福島第一原子力発電所事故は、東北地方太平洋沖地震に起因する2011年の事故です。前述した通り、設備を冷却する能力を失ったために、放射性物質を外部に放出する事故へ発展しました。

もう一方のチェルノブイリ原子力発電所事故は、1986年に旧ソ連のウクライナ共和国で発生した事故です。運転員の規則違反や非専門家による運転、設備の安全設計が不十分であるにもかかわらず特殊な試験を行ったことなど、複数の要因が事故を招きました。結果的に、大量の放射性物質が外部に放出され、事故によって直接亡くなった人数は30名以上にのぼります。長期的な観点ではさらに多くの死者数がいると考えられており、一時は放出された放射能が北半球のほぼ全域を汚染しました。

これらの事例から分かるように、原子力発電所は想定以上の災害に遭遇した場合や、適切な管理・設計が行われていない場合に「放射性物質を外部に放出する」という深刻な被害をもたらします。

原子力発電の将来性

日本ではエネルギーミックス(さまざまな発電方式を組み合わせた電力供給)の実現を目指し、2030年までに原子力発電や再生可能エネルギーによる発電の割合を高め、火力発電に頼っている状況を改善することが目標となっています。
具体的には、原子力発電によって20~22%、再生可能エネルギーによって22~24%の電力供給を行えるよう政策が進められてきました。

2030年エネルギーミックス実現へ向けた対応について~全体整理~

*資源エネルギー庁「2030年エネルギーミックス実現へ向けた対応について~全体整理~

エネルギーミックス実現のためには、原子力発電の再稼働が必要であるため、再稼働のために以下のような課題に向き合っていかなければなりません。

  • 安全性向上
  • 防災・事故後対応の強化
  • 廃棄物処理方法の確立
  • 原子力従事者の不足
  •  国民理解の獲得

福島第一原子力発電所事故を教訓として、災害や事故の発生時に被害を最小化できる運用・対応が求められます。また、いまだ確立していない高レベル放射性廃棄物の廃棄場所、減少傾向にある人材・予算の問題など、向き合うべき課題は数多く残されているのです。

なにより、福島第一原子力発電所事故によって失われた、原子力発電に対する国民の不信感を払しょくしなければ、原子力発電の本格稼働はスムーズに進みません。福島第一原子力発電所事故を受けて設立された自然エネルギー財団が、2020年に「2030 年エネルギーミックスへの提案」を公表し、原発ゼロを実現させるべきだと提言していることもあり、2030年に向けてどのような変革がもたらされるのか引き続き注目が集まります。

おわりに

原子力発電に関しては賛否両論あり、どのような展開を迎えるのか予想が難しいところです。ただ、2020年10月に菅首相が「2050年までに温室効果ガス実質ゼロを目指す」と宣言しており、遠くないうちにエネルギー問題に対して動きがあるものと思われます。 一国民として今後の動向に注意を向けつつ、私たちにできることを探していきましょう。

EnergyShift編集部
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