ビル・ゲイツも鉄鋼大手Arcelor Mittalも大型投資 テスラ出身者が手がける、鉄空気蓄電池とは? | EnergyShift

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ビル・ゲイツも鉄鋼大手Arcelor Mittalも大型投資 テスラ出身者が手がける、鉄空気蓄電池とは?

ビル・ゲイツも鉄鋼大手Arcelor Mittalも大型投資 テスラ出身者が手がける、鉄空気蓄電池とは?

2021年08月17日

2021年7月22日、鉄鋼世界大手のArcelor Mittalが鉄空気蓄電池スタートアップの米Form Energyに2,500万ドル(約27.5億円)の投資を完了したと発表した。Form Energyは持続時間の長い鉄空気蓄電池で系統の脱炭素化を狙う成長株だ。今回は、なぜ大手鉄鋼会社がスタートアップに投資するのか、そして鉄空気蓄電池とはどのようなものなのかを紹介する。

Tesla出身者による鉄空気蓄電池のスタートアップ

Form Energyは、再生可能エネルギーを低コストで長時間の放電ができる鉄空気蓄電池開発のスタートアップ。マサチューセッツ州に本拠を置く。2017年にMateo Jaramillo氏やMarco Ferrara氏らによって設立された。

定置型蓄電池については、電力系統安定化の主要な技術として、リチウムイオン蓄電池をはじめ、レドックスフロー蓄電池などさまざまな技術が競合している状況だが、鉄空気蓄電池もまた、そうした技術のひとつとして注目されるものだ。

設立者の一人であるMateo Jaramillo氏は、Teslaの定置型エネルギー貯蔵部門でリ―ダーシップを発揮したメンバーの一人だ。スウェーデンのNorthvolt然り、Teslaを起点に蓄電池スタートアップが誕生している点も実に興味深い。一方、Marco Ferrara氏はリチウムイオン蓄電池開発の24M Technologiesなどでキャリアを積んでいる。


Marco Ferrara氏 Form Energyウェブサイトより

Form Energyには、鉄鋼世界大手のArcelor Mittalのほか、ビル・ゲイツ氏のBreakthrough Energy Venturesやシンガポール政府所有の投資会社テマセク・ホールディングスなどが出資している。実際に、2019年8月に投資ラウンドのシリーズBを、2020年11月にシリーズCを終えた。

今回、Arcelor Mittalが主導する資金調達によって、1年を待たずに次のラウンドへ突入し、資金調達ラウンドはシリーズDとなった。出資者の顔ぶれからも、資金調達のすさまじいスピードからも、期待の高さがうかがわれるだろう。再生可能エネルギーの系統への導入のみならず、鉄鋼業界の一翼をも担っている点に大いに注目したい。

鉄空気蓄電池とは何か?

ところで、鉄空気蓄電池とはどのようなものなのかというと、電極に鉄を用いて鉄の酸化・還元反応を利用する二次電池で、金属空気電池のひとつだ。

金属空気電池には、ほかに亜鉛やマグネシウム、アルミニウムやリチウムといった金属を用いるものがある。安価な亜鉛を用いる乾電池などの一次電池も金属空気電池の一種だ。

Form Energyは、鉄空気蓄電池が再生可能エネルギーの変動性を補完するために役立つとしている。というのも、同社の鉄空気蓄電池は100時間以上にわたる放電が可能だからだ。蓄電池の中には不燃性の電解液が充填されており、それゆえの信頼性と安全性の高さが同社のセールスポイントだ。

同社の鉄空気蓄電池のシステムコストはリチウムイオンの場合の10分の1以下で、従来の発電所と同等だという。地球上に多く存在する鉄を利用するからこそ、低コストで製品化できる。

その一方でエネルギー密度に課題がある。1MWの鉄空気蓄電池には1エーカー(約4,047平方メートル)の土地が必要だ。エネルギー密度を高めることで1エーカーあたり3MWまで対応できるとしているが、広大なスペースが必要となることに変わりはない。

電力系統側(Front-of-the-meter)向けのソリューションを展開するForm Energyは、Formwareというソフトウェアも開発している。持続時間の長い鉄空気蓄電池を系統につなげるためのシミュレーションが可能で、費用対効果を算出するのに役立つ。

鉄鋼大手ArcelorMittalの気候変動対策は

さて、Form Energyに投資したArcelor Mittalについても説明しておく。同社はルクセンブルクに本拠を構える鉄鋼大手だ。粗鋼生産量で14年間首位を守っていたが、2020年にその座を中国の宝武鋼鉄集団に明け渡した。

同社は、2021年7月29日に発表した「気候行動レポート(CAR2)」で、2030年のグループ全体のCO2排出削減の目標を25%とした。スコープ1、スコープ2(自社の事業所および使用する電力から排出するCO2)を対象としている。2030年までに100億ドルの投資を行い、目標達成を目指す。

また、グリーン水素による直接還元鉄の製鉄所を2025年までに建設することでスペイン政府と覚書を取り交わしている。これが成功すれば、カーボン排出ゼロの製鉄所として先駆的な事例となるだろう。

切り札はXCarbイノベーションファンド

さらに、Arcelor Mittalは、2050年までに事業をカーボンニュートラルにリフォームしていくことを目的に、2021年3月にXCarbイノベーションファンドを立ち上げた。これまでに、食品廃棄物からバイオコールを生産するベルギーのTorero、米LanzaTechとの共同でCO2を回収し化学製品にリサイクルするCarbalystプロジェクトなどに資金を提供している。

今回のForm Energyへの2,500万ドルの投資は、米Heliogenへの1,000万ドルに続くものだ。Heliogenはロサンゼルスのスタートアップで、鏡を使って太陽光エネルギーを凝集させ、化石燃料の代替とすることを目指している。

Arcelor Mittalは、XCarbイノベーションファンドを通して年間最大1億ドルの投資を予定している。XCarbイノベーションファンドは、まさに同社の気候変動対策の切り札だといえる。

鉄鋼会社だから鉄空気蓄電池に投資したという単純なことではないにせよ、カーボン排出ゼロに向けた鉄鋼会社の取組みということも、低コストで運用できる充電システムということも、Arcelor Mittalという会社の取組みと、投資先のスタートアップ、いずれにも目が離せないといえよう。

山下幸恵
山下幸恵

大手電力グループにて大型変圧器・住宅電化機器の販売を経て、新電力でデマンドレスポンスやエネルギーソリューションに従事。自治体および大手商社と協力し、地域新電力の立ち上げを経験。 2019年より独立してoffice SOTOを設立。エネルギーに関する国内外のトピックスについて複数のメディアで執筆するほか、自治体に向けた電力調達のソリューションや企業のテクニカル・デューデリジェンス調査等を実施。また、気候変動や地球温暖化、省エネについてのセミナーも行っている。 office SOTO 代表 https://www.facebook.com/Office-SOTO-589944674824780

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