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経済産業省予算が成立 再エネ関連主要予算解説

経産省、エネルギー転換・脱炭素化に向け、4,320億円予算計上

2020年04月07日

経済産業省の2020年度予算が成立した。同省全体の予算額は1兆2,719億円となり、そのうち、資源・エネルギー関連予算は2019年度比251億円増となる7,481億円となった。
資源・エネルギー関連予算のなかでも、とりわけ重点的に予算配分されたのが、再生可能エネルギーの主力電源化や脱炭素化を推進する「エネルギー転換・脱炭素化の推進」だ。予算額は4,320億円である。
再エネ主力電源化、そして脱炭素化に向け、経産省はどのような予算編成をしたのか。再エネ関連の主要予算をまとめた。

モビリティでの脱炭素化を促す

経産省は、資源・エネルギー関連予算7,481億円のうち、4,320億円を「エネルギー転換・脱炭素化の推進」に予算計上した。

燃料電池自動車(FCV)や水素ステーションなどの普及、再エネや蓄電池の技術開発、系統制約の克服に向けたノンファーム型接続の早期実現、そして2020年度から新たにマイクログリッドの事業化支援を実施することで、真の地産地消の実現とともに、災害時には大手電力会社の系統に依存しない、分散型ネットワークの形成を進める。

これらの予算支援によって、再エネの主力電源化、そして脱炭素化を目指す。

エネルギー転換・脱炭素化の推進は、「水素社会実現に向けた取組の強化」、「カーボンリサイクルのイノベーションの加速」、「再エネ主力電源化・分散型エネルギーシステムの確立」、「原子力の安全性・信頼性・機動性の向上」、「クリーンエネルギー分野における国際的なオープンイノベーションの推進」の5つの分野から構成されている。

これら5つの分野のなかでも、とくに再エネ、脱炭素化に関連深い予算項目を見ていく。

水素社会実現に向けた取組の強化

まず、「水素社会実現に向けた取組の強化」では、モビリティの脱炭素化を目指し、FCVや水素ステーションの普及・拡大、さらに関連規制の見直し、次世代燃料電池の低コスト化・高効率化などの技術開発・実証を行う。

FCV、水素ステーションの普及・拡大に向けた課題はそのコストだ。FCVの車両価格は約760万円とまだまだ高額で、ハイブリッド車との価格差は約300万円もある。
経産省では2019年3月に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定し、FCVの普及台数を2020年4万台、2025年20万台、2030年までに80万台を導入させる目標を掲げているが、2018年度末時点で3,056台しか普及しておらず、目標達成が危ぶまれている。

また水素ステーションも、2018年度実績で3.1億円だった建設コストを2025年までに2億円まで低減させ、2025年に320ヶ所、2030年には900ヶ所の整備を目指している。
こうした目標達成のため、FCVや水素ステーションの普及支援やコスト低減などに対し、重点的に予算配分している。予算額は2019年度比98億円増となる700億円。主な予算項目は下記のとおりである。

クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金

2020年度予算額130億円【2019年度補正予算額+50億円】(2019年度当初予算額160億円)
省エネやCO2排出削減に貢献するだけではなく、災害時の電源としても活用することができる電気自動車(EV)やFCVなどのクリーンエネルギー自動車の導入を支援することで、世界に先駆けて国内市場の確立を図る。また、安全で便利な地域の移動手段として、小型電動モビリティの普及を促進する。

燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金

2020年度予算額120億円(2019年度当初予算額100億円)
2020年度160ヶ所程度、2025年度に320ヶ所程度の水素ステーションの整備目標の達成に向け、民間事業者などによる水素ステーションの整備・運営に対し補助を行う。さらに従来支援を行なってきた四大都市圏(東京、大阪、名古屋、福岡)から支援エリアを拡大し、整備を加速する。
※2019年11月時点での水素ステーション数は110ヶ所

水素社会実現に向けた革新的燃料電池技術等の活用のための研究開発事業

2020年度予算額52.5億円(新規)
FCVや定置用燃料電池の低コスト化、高効率化、耐久性向上のため、白金に代わる触媒を開発することで、2030年までに燃料電池コストを1/5まで低減させる。さらに発電効率を50%から65%超まで上昇させる。

カーボンリサイクルのイノベーションの加速

次が、石炭火力発電所の高効率化および、石炭火力から排出されたCO2を回収し、バイオ燃料などに再利用する「カーボンリサイクルのイノベーションの加速」である。

国内外から批判を集める石炭火力について、次世代技術であるCO2の分離・回収型石炭ガス化複合発電(IGCC)設備に、燃料電池を組み込んだCO2分離・回収型IGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)の技術開発などを実施する。さらに回収したCO2をジェット燃料などに転換するカーボンリサイクル技術の進展も目指す。
これら技術開発を後押しするため、87億円の増額となる437億円が計上されている。主な予算項目は下記のとおり。
資源・エネルギー関係予算の概要 該当P.6

カーボンリサイクル・次世代火力発電の技術開発事業

2020年度予算額155億円(2019年度当初予算額111億円)
次世代高効率石炭火力発電技術であるIGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)や高効率ガスタービン技術などの火力発電の高効率化に関する技術開発等を実施する。
また、石炭火力発電所から回収したCO2をメタンやコンクリート、プラスチック、液体燃料などに転換するカーボンリサイクル技術の低コスト化、低エネルギー化に資する技術開発を実施する。


IGFC実証実験(広島県):経済産業省予算概要資料より

カーボンリサイクル技術等を活用したバイオジェット燃料生産技術開発事業

2020年度予算額45億円(2019年度当初予算額27.2億円)
2030年ごろのバイオジェット燃料の商用化に向けて、微細藻類培養技術(カーボンリサイクル技術のひとつ)などのバイオジェット燃料生産に必要な技術の実証事業を実施する。

洋上風力の導入拡大とともに、系統制約の克服目指す

3つ目が、183億円増となる1,812億円の予算が計上された「再エネ主力電源化・分散型エネルギーシステムの確立」である。2019年度の補正予算額70億円を加えれば、予算総額は1,882億円となる。
再エネ主力電源化に向け、2020年度から新たにビル壁面などに導入可能な超軽量太陽電池の技術支援を盛り込み、立地制約の克服を目指す。また、2020年以降から本格導入期を迎える洋上風力発電の技術開発や、導入が遅れる地熱発電の事業化支援も行う。さらに系統制約の克服に向けて、ノンファーム型接続の早期実現を後押しする。
また、2020年2月末に閣議決定した配電ライセンスなどの導入にともない、災害に強く柔軟な真の地産地消に資する分散型エネルギーシステムの構築支援に新規予算がつくなど、支援策は幅広い。主な予算項目は下記のとおり。
資源・エネルギー関係予算の概要 該当P.8〜P.10

太陽光発電の導入可能量拡大等に向けた技術開発事業

2020年度予算額30億円(新規)
太陽光発電システムの設置に適した未開発の適地が減少するなか、さらなる発電効率の向上、軽量化などを可能とする革新的な太陽光発電システムの技術開発を行い、ビル壁面や重量制約のある工場の屋根、自動車やドローンなどの移動体への設置を可能とする。
また、太陽光発電の長期安定電源化を促進するため、発電設備の信頼性・安全確保や資源の再利用化を可能とするリサイクル技術の開発等を行う。

洋上風力発電等の導入拡大に向けた研究開発事業

2020年度予算額76.5億円(2019年度当初予算額73.3億円)
洋上風力発電等の導入拡大に資するため、洋上風力発電事業の実施のために必要な基礎調査等を拡充する。
また、再エネ海域利用法の施行にともない、我が国における洋上風力発電の導入拡大が見込まれるなかで、洋上風力発電の競争力強化を図り、低廉かつ強靭なエネルギー供給体制を構築するため、洋上風力発電の効率的なメンテナンスを行うための技術開発や風車部品の高度化に向けた技術開発などを行う。

再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代型の電力制御技術開発事業

2020年度予算額31.9億円(2019年度当初予算額19.7億円)
再エネ大量導入に向けて、既存系統を最大限活用するため、一定の制約のもと系統への接続を認める「日本版コネクト&マネージ」実現に向けて、ノンファーム型接続の早期実現のため個別系統の予測・制御システムの開発を行う。
また、送電系統における調整力の確保を目的とした常時監視システムの開発などを行う。
さらに、洋上風力を念頭においた直流送電システムの基盤技術の確立を図る。


事業イメージ:経済産業省予算概要資料より

需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント構築実証事業費補助金

2020年度予算額50億円(2019年度当初予算額68.5億円)
卸電力市場価格に連動したダイナミックプライシング(時間帯別料金)を設定することで、電動車充電のタイミングを誘導しピークシフトを行う実証を行い、電動車を活用した効率的な電力システムの構築を目指す。
また、需要家側のエネルギーリソース(蓄電池や電気自動車(EV)、発電設備、デマンドリスポンス等)をIoT技術により、遠隔で統合制御し、あたかもひとつの発電所(VPP:バーチャルパワープラント)のように機能させ、電力の需給バランス調整に活用する技術の実証を行う。



経済産業省予算概要資料より

省エネルギー投資促進に向けた支援補助金

2020年度予算額459.5億円【2019年度補正予算額+70億円】(2019年度当初予算額551.8億円)
産業部門・業務部門の脱炭素化を推進するため、工場等における電化等のための省エネ設備の入れ替え等について、支援を行う。また、複数事業者が連携した省エネなど高度な省エネを重点的に支援する。
住宅・ビルの徹底的な省エネ推進のため、現行のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)より省エネをさらに深掘りしつつ、太陽光発電の自家消費率拡大を目指したZEH+の実施等を支援。また、大規模建築物のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化実証等を支援する。
昨今多発する自然災害を踏まえ、停電時においても自立的に電力供給可能な、蓄電池などを備えたZEHの導入およびレジリエンス性を高めたコミュニティ単位でのZEHを支援する。(補正予算)

地域の系統線を活用したエネルギー面的利用事業費補助金

2020年度予算額17.3億円(新規)
地域に存在する再エネを活用し、平常時は下位系統の潮流を把握・制御し、災害時による大規模停電時には自立して電力を供給できる「地域マイクログリッド」の構築を支援。
また、自立的普及に向け、先例となる事業モデルの効率を支援する。


経済産業省予算概要資料より

人材・技術・産業基盤の維持図る原子力

4つ目が、原子力の技術・人材などの産業基盤全体の維持・強化に資する技術開発や、小型原子炉などの技術開発を支援する「原子力の安全性・信頼性・機動性の向上」である。
技術支援に加え、原子力立地地域の着実な支援として、再エネ導入などによる地域振興策も拡充されている。予算額は2019年度と同水準となる1,289億円となった。

5つ目の「クリーンエネルギー分野における国際的なオープンイノベーションの推進」では、「G20 大阪サミット」での合意を踏まえ、新規予算として、水素やCCUS(二酸化炭素回収・分離・貯蔵技術)などの分野で先進技術を持つ海外研究機関との共同研究が盛り込まれた。予算額は149億円である。

再エネの主力電源化や、脱炭素化に向けた取り組みは、経産省以外にも、環境省や国土交通省など、省庁横断的に実施されている。次回は他省庁の予算編成についてまとめたい。

(Text: 藤村 朋弘)

参照
令和2年度 資源・エネルギー関係予算のポイント
資源・エネルギー関係予算の概要 令和2年3月

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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