FIT後の世界を覗いてみたら 前編 | EnergyShift

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FIT後の世界を覗いてみたら 前編

FIT後の世界を覗いてみたら 前編

2020年01月14日

現在、経済産業省資源エネルギー庁では、FIT(固定価格買取)制度の見直しが行われている。主な検討項目としては、急拡大した太陽光発電を対象にした、新たな制度への移行だ。では、FITの役割は終わったのだろうか。また、今後どのような制度であれば、再生可能エネルギーの適切な拡大につながるのだろうか。前後編にわたって、日本再生可能エネルギー総合研究所の北村和也氏がFITとその先について解説する。

FITは終わっていいのか

日本の再生エネ電源の拡大をけん引してきたFIT(固定価格買取)制度が、事実上終わろうとしている。東日本大震災をきっかけに2012年に生まれたこの制度が、10年たたないうちに大きく変容を遂げることがほぼ確定したのだ。

振り返ってみれば、再生可能エネルギーの電力を高い固定価格で買い取ることを蓄積することで、2012年の導入前に比べ、倍近くの再エネ電力が生まれるようになったのである。これを考えれば、FITの効果はこれまで確実にあった、といってよい。

このコラムでは、FIT制度がなぜなくなろうとしているのか、そしてそのあとにどんな制度が生まれるのか。また、再エネの電気がどのような価値を持ち、地域の中でどう存在感を高めていくのかまでを考えていきたいと思う。

FITは終わることが目標だったが、はじまってもいない

FIT制度は再エネ発電を増やすことを目指すものである。よって、再エネ電力拡大という目的が達成された時点で、この制度は必要無くなって消えることになる。つまり、終了することが目標になる珍しいシステムなのである。

前述の通り、確かに日本の再エネ電力はFITのおかげで着実な拡大を見せてきた。しかし、再エネ電力のボリュームは水力を除くと現状おおよそ10%程度で、これはだれが見ても十分ではない。政府は再エネを主力電源にすると、第5次エネルギー基本計画で設定したのだから、道半ばどころかはじまったばかりといってもよい。

FITを止める理由のあいまいさ

ところが、資源エネルギー庁の委員会で有識者が話し合っていることの中心は、すでに次の制度をどうするかに移ってきている。残念ながら、FIT制度の終了理由は「目的が達成したから」ではなく、とにかく「FIT制度を止めたい」というやや感情的な考えからに見えて仕方がない。

FITを止める理由としては、太陽光発電ばかりが増えてバランスが悪い、不当に利益を出したり地域を乱開発したりの業者がいてけしからん、賦課金が高くなりすぎた、というこれまでに発生した問題や課題に集中している。

日本のFIT制度は、2011年の大地震の後の対応の中でバタバタと作られたものであった。精緻な数字を積み重ねたドイツのFIT制度である再生可能エネルギー法(EEG)とは、大きな違いがいくつもある。例えば、ドイツのEEGの内容が記載されている冊子は分厚いが、日本のFIT法は薄くぺらぺらである。

筆者が最も不思議に思ったのは、再エネ電力の量を増加させることが目的であるのに、日本では量的な導入目標が無いことである。

目標の量がないから期限もない。いつまでにどのくらいまで増やすかという数字が無いのだから、後から賦課金が高額すぎるの、何のと言われても、何を根拠に文句を言っているのかも分からず、首をかしげざるを得ない。

制度設計はかなりいい加減であったし、問題もある。しかし、FIT制度導入は正しかったというのが筆者の立場である。今や再エネの拡大と経済の発展は切り離すことのできないセットとなった。もし導入されていなかったらと考えると背筋が寒くなる。

「最悪の再エネ後進国日本」という恥辱の冠は、FITによって何とかギリギリ避けられてきたのである。

FIT 制度によって、太陽光は普及したが・・・

次に来るFIP制度とは何か

新しい仕組みは、ドイツのFIP(フィード・イン・プレミアム)を明らかにお手本にしている。詳細は省くが、これまでのように1kWh当たり〇円の固定の価格で買い上げてもらうのではなく、市場での取引が原則となる。

固定での安定的な買取りはないが、リスクヘッジはされている。市場価格(つまり、電気の売却価格)が「事前に決められた価格」を下回った時には差額のマイナス分が補填され、大きな損失を受けない仕掛けが組み込まれることになる。また、その「事前の価格」はドイツなどと同様に入札で決めることになるであろう。

入札は、すでに一定の大きさの太陽光発電事業については、日本でも導入済みである。入札に参加しないと発電事業を行えないので、発電事業を行いたいと考える事業者にとって、再エネ施設での電力をいくらで売電するつもりなのか(入札価格)が最も重要なポイントとなる。
その決め方を誤ると、新しいFIP制度での補填額(プレミアム)にも影響し、一気に事業性を失いかねない。

新制度の予測できる課題

つまり、今後の電力市場の変動(=需要家の動向)の見極めが勝負となる。

ここで日本は大きな問題を抱える。その電力市場が信頼できるかどうかという点である。

日本のマーケットは、依然として旧一般電気事業者(地域独占だった東電、関電などのいわゆる電力会社)の大きな影響下にある。市場価格が恣意的に動かされているのではないかとの疑いが拭い去れず、市場の公平性や透明性が確立しているとは言えない。市場価格の信頼性が低いと、FIPでの売電リスクは大きくなる。

つまり、新しい制度であるFIPには成熟したマーケットが必要なのである。さらには、本来、市場の中立性を高める発送電分離の後に電力の小売り自由化、という順番なのに、日本では分離とFIPの導入がほぼ同時期になる。 市場の信頼性が低いのに、市場価格を基準とする制度を導入するのである。識者の多くはここに疑問を掲げる。

今回の改定の大きな目的が、賦課金を減らすところにあるのは明らかである。資源エネルギー庁もそう言っている。

FITでは、導入された発電容量がわかれば、年間の賦課金の総額がほぼ計算できる。また、買取価格を下げれば、当然賦課金が減る。

一方、FIPは最低価格保証でのプレミアム分(差額)が賦課金なので、その総額は変動する。

市場価格が基準価格を上回っていれば賦課金はなくなるが、市場価格が大きく下がれば想定以上の賦課金が補填される可能性がある。最近の九州電力管内では、晴れの日の日中で太陽光発電がガンガン動いていると、1kWh当たり0.01円などという驚くべき安値を市場がつけることが、ほぼ日常的になってきている。こうなると、莫大なプレミアム、賦課金が発生してもおかしくない。つまり、本当に賦課金が減るかどうかさえも市場次第となる可能性がある。

FIT制度の終焉は、一部前述したように、急拡大した太陽光発電への対策という側面がある。実際に、小水力やバイオマスなどのFITは残る可能性が十分ある。また、太陽光発電でも小規模で自家消費をするものは維持される方向で進んでいる。

最近、特に頻繁に当該委員会でも使われている用語に「地域活用電源」という言葉がある。そこには、再エネの分散型という性質をベースに、地域での利活用を推進したい政府や担当官庁の思惑がはっきりと読み取れる。

後編では、先にFIT制度から卒業したドイツで起きている課題もご紹介する。「地域活用電源」がFIT後の世界にどう影響を及ぼしていくかなど、地域からの目線を基本にしながらお話をしたいと考えている。

北村和也
北村和也

日本再生可能エネルギー総合研究所 代表、株式会社日本再生エネリンク 代表取締役。 1979年、民間放送テレビキー局勤務。ニュース、報道でエネルギー、環境関連番組など多数制作。番組「環境パノラマ図鑑」で科学技術映像祭科学技術長官賞など受賞。1999年にドイツへ留学。環境工学を学ぶ。2001年建設会社入社。環境・再生可能エネルギー事業、海外事業、PFI事業などを行う。2009年、 再生エネ技術保有ベンチャー会社にて木質バイオマスエネルギー事業に携わる。 2011年より日本再生可能エネルギー総合研究所代表。2013年より株式会社日本再生エネリンク代表取締役。2019年4月より地域活性エネルギーリンク協議会、代表理事。 現在の主な活動は、再生エネの普及のための情報の収集と発信(特にドイツを中心とした欧州情報)。再生エネ、地域の活性化の講演、執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作。再生エネ関係の民間企業へのコンサルティング、自治体のアドバイザー。地域エネルギー会社(地域新電力、自治体新電力含む)の立ち上げ、事業支援。

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