非化石価値取引市場、脱炭素実現に向け大幅見直し 再エネ価値取引市場の創設へ 第48~50回「制度検討作業部会」:審議会ウィークリートピック  | EnergyShift

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非化石価値取引市場、脱炭素実現に向け大幅見直し 再エネ価値取引市場の創設へ 第48~50回「制度検討作業部会」:審議会ウィークリートピック 

非化石価値取引市場、脱炭素実現に向け大幅見直し 再エネ価値取引市場の創設へ 第48~50回「制度検討作業部会」:審議会ウィークリートピック 

2021年05月09日

2018年度からスタートした、非化石価値取引市場だが、取引に参加できるのは小売電気事業者に限られていた。そのためRE100をはじめとする電力の需要家からは、直接購入したいという要望が出ていた。そこで、需要家も市場に参加できる方向で検討が進められた。2021年3月26日(第48回)、4月15日(第49回)、4月26日(第50回)に開催された経済産業省の制度検討作業部会の議論をまとめてお伝えする。

審議会ウィークリートピック

非化石価値取引市場の抜本的見直し

2018年の非化石証書制度開始当初、エネルギー供給構造高度化法(高度化法)達成手段の一つとして開始された非化石価値取引市場であったが、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、抜本的な見直し作業が進められている。

主な論点は、①需要家による非化石証書の直接購入、②証書価格の引き下げ、③利便性の向上(トラッキング制度の充実)である。本稿では「制度検討作業部会」の第48~第50回会合における議論の様子をお届けしたい。

①需要家による非化石証書の直接購入

実はこの論点は、後述する「②証書価格の引き下げ」と密接に関係するものであるが、一旦ここでは資源エネルギー庁事務局の整理に沿ってご報告したい。

現在の制度では、日本卸電力取引所(JEPX)が主催する非化石価値取引オークションに参加できる者は小売電気事業者に限定されている。よって需要家は小売電気事業者と小売契約を締結することにより、電気とセットでなければ非化石証書を調達することが出来ない仕組みとなっている。

小売電気事業者経由の調達と需要家による直接購入には、表1のような違いが存在すると考えられる。

表1.非化石証書 小売事業者経由/需要家直接購入の違い

 小売事業者経由直接購入
調達手段電気:小売、証書:小売電気:小売、証書:市場取引
メリット電気とセットで、必要量の調達をメニューにより調達可能証書を安価に購入することが可能
デメリット証書価格+手数料により、直接購入するより価格が高くなる証書購入における不確実性(約定するか・価格の上昇リスク)
オークション参加に伴う費用(口座開設費等)
国際イニシアチブへの報告小売事業者との契約による報告自ら証書を調達したことを証明して報告

出所:制度検討作業部会

RE100等に加盟するグローバル企業等の大口需要家からは、低コストで非化石価値を大量に調達したいというニーズが高まりつつあり、その手段の一つとして需要家による非化石証書の直接購入が強く求められてきた。

このため制度検討作業部会では早い段階から、需要家による直接購入を許容する方向性で議論が進められてきたものの、単純に従来の仕組みの中で需要家が直接購入できるようにすることは、小売電気事業者の高度化法達成という本来の制度目的を損なうおそれが懸念されていた。

この課題への解決策が新しい市場を創設し、市場取引を分けるという案である。

新しい市場は図1のように「再エネ価値取引市場」と名付けられ、CO2ゼロエミ価値(排出係数削減効果)や環境表示価値といった非化石証書の持つ再エネ価値に、需要家が直接アクセスすることが可能となる。

従来の高度化法達成といういわゆるコンプライアンス目的の市場に対して、新市場は自発的に需要家が参加する「ボランタリー市場」という位置づけである。

ただし当面この新市場で取引される証書は、FIT電源由来のFIT非化石証書に限定される。FIT証書の売却益は、費用負担調整機関に還元されることによりFIT再エネ賦課金を抑制することが目的とされているためである。

新市場で取引されるFIT発電量=FIT証書発行量(2020年度分)は、約900億kWh/年が見込まれている。

なお新市場には小売電気事業者も参加することが可能であり、小売電気事業者は従来どおりFIT電気とFIT証書をセットで需要家に小売することが可能である。また小売電気事業者以外にも、仲介事業者も新市場への参加が認められる方向性が示されている。

図1.再エネ価値取引市場のイメージ

出所:制度検討作業部会

再エネ価値取引市場は2021年度後半から試行的に実施することが予定されている。2022年度に本格実施を目指すとされているが、試行と本格の違いは不明である。

新市場試行開始までの半年間に検討すべき論点は多い。

①価格水準(例. 最低価格の在り方)

②価格決定方法(例. オークション or 固定価格)

③取引の開催頻度(例. 通年 or 定期オークション)

④証書の税務・会計上の取扱い(例. 転売や償却の可否)

⑤証書の有効期限

⑥需要家の要件 等

④は新市場に限った論点ではないが、証書転売の可否、繰り越しの可否などは、証書の使い勝手や流通性を大きく左右すると考えられる。

⑥の論点に関しては元々、直接購入のリクエストは大口需要家から寄せられていたが、幅広い需要家の市場参加を認める方向性で検討が進められている。

図2.高度化法義務達成市場のイメージ

出所:制度検討作業部会

従来から存在した市場は、図2のように「高度化法義務達成市場」と命名された。ただし、義務市場で取引される証書は非FIT証書(再エネ指定あり版と、再エネ指定無し版)のみとなる。

義務市場で取引される非FIT証書(再エネ指定あり)は約900億kWh/年、非FIT証書(再エネ指定なし)は約300億kWh/年が見込まれている(いずれも2020年度分)。

当面は、従来どおり小売事業者のみが参加可能としているが、例えば卒FIT電源等の非FIT電源による再エネ価値へも直接アクセスしたいという需要家ニーズが存在することから、今後も検討が継続される。

②証書価格の引き下げ

現在、FIT証書のみが1.3円/kWhという最低価格が設けられている。新しい再エネ価値取引市場の創設後も最低価格が仮に1.3円/kWhもしくはほぼ同じ水準とするならば、そもそも新市場を創設する意味が大きく減じられてしまう。

他方、同じく主にボランタリー市場として存在するJ-クレジットやグリーン電力証書等の他の環境価値取引制度に与える影響も考慮する必要がある。

また最低価格が設けられていたのはFIT証書のみであるにも関わらず、類似する証書間では価格が収斂しやすいため、非FIT証書の価格も1.1円~1.2円程度とFIT証書に近い価格であった。

今後の市場分離後、義務市場ではFIT証書が取引されないため、非FIT証書の需給バランス次第では証書価格が暴落(もしくは高騰)するおそれもある。非FIT証書の価格水準が非常に低い場合、FITやFIP制度に頼らない再エネ電源の自立化を困難にすると考えられる。

よって非化石電源の維持・新設に関する費用確保の観点から、新たに最低価格を設定することが示されたが、その具体的価格水準は今後検討される。

さらに、高度化法では2020~2022年度を第1フェーズとして小売電気事業者に一定の証書購入義務が課せられており、既に相当量の取引がおこなわれている。高度化法対象事業者54者の、2020年度中間目標値に対する進捗率は表2で示したとおりである。

制度変更により証書価格が大きく下落する場合、すでに高い価格で証書を調達した小売電気事業者との公平性の観点で問題が生じるため、何らかの配慮・調整が必要となると考えられる。

表2.高度化法2020年度中間目標値に対する取組状況

2020年度の外部調達購入必要量
(9%程度)に対する進捗率
事業者数
(カッコは市場取引分のみの場合)
50%以上32(17)者/54者
10%以上50%未満9(9)者/54者
0%以上10%未満13(28)者/54者

出所:制度検討作業部会

③利便性の向上(トラッキング制度の充実)

ボランタリー市場の代表格であるRE100に対応するには、再エネ電源および証書のトラッキングが不可欠とされている。

このためFIT証書については2019年からトラッキングの実証を開始したものの、トラッキング付き証書の利用はわずかにとどまっている(2020年11月オークションのFIT証書売り入札量498億kWhに対してトラッキング可能量は約2%)。

この理由の1つが、トラッキングのための情報開示に当たり発電者の同意を得ることが条件とされている点が指摘されている。このため今後FIT証書については、同意取得を不要とする方向で検討中であり、2021年度中にほぼ全量のトラッキング実施を目指すこととしている。

また非FIT証書についても、2021年8月からトラッキングの実証を開始予定である。

再エネ価値取引市場における証書の性質

再エネ価値取引市場において取引される証書はどのような性質を持つものであるのか、制度検討作業部会では以下のような「電源証明型」と「再エネ価値訴求型」の2つの類型に整理されている。

図3.再エネ証書の性質による類型

出所:制度検討作業部会

「電源証明型」の代表例が、欧州のGO(Guarantee of Origin)や北米のREC(Renewable Energy Certificate)といった再エネ価値取引制度である。

GO等はその証書が有する再エネ価値の由来である電源情報や産地情報等も属性情報として含まれる電源証明であり、需要家は再エネ価値のみならず特定の電源から発電されたことも価値として同時にうたうことが可能である。

他方、現状の非化石証書は「再エネ価値訴求型」と整理される。元々、小売電気事業者の高度化法における目標達成手段として、非化石電源が有する環境価値を顕在化させたものである。

よって現在は「FIT(再エネ)」という属性のみに基づき取引がおこなわれており、電源の種類や産地などの属性情報を含めることを目的とはしていない。

制度検討作業部会では、国際的な証書制度との整合性を取る観点から、将来的には「電源証明型」を目指す方針が示され、委員の同意が得られた。

2021年度の高度化法の中間目標値については、再エネ価値取引市場と高度化法義務達成市場が分離されることにより、大きな見直しが必要となっている。

本論点については、別稿にてご紹介することとしたい。

梅田あおば
梅田あおば

ライター、ジャーナリスト。専門は、電力・ガス、エネルギー・環境政策、制度など。 https://twitter.com/Aoba_Umeda

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