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これからのソーラーシェアリング(第4回):ソーラーシェアリングによる農村の自然災害対策と強靱化

ソーラーシェアリングによる農村の自然災害対策と強靱化

2020年06月19日

太陽光発電など地域分散型の再生可能エネルギーは、地域の強靭化に対しても重要な役割を担うことが可能だ。ソーラーシェアリングにおいてはどうなのか、直面する課題と可能性について、千葉エコ・エネルギー代表取締役の馬上丈司氏が提言する。

クローズアップされる「停電でも使える再エネ」

これまでソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)が持つ、今後普及していく再生可能エネルギー電源としての、ポテンシャルや優位性を整理してきた。今回は、前回の記事で最後に記した『地域密着型事業としてのソーラーシェアリング』という視点から、農村の自然災害対策や低炭素化への貢献についてまとめていく。

2018年の北海道の胆振地方東部地震による全域停電や、台風21号による近畿地方の大停電、台風24号による静岡県の大停電、そして2019年の台風15号(令和元年台風15号)による千葉県を中心とした関東地方の大停電など、この2年間で100~200万件以上が影響を受ける停電が相次いでいる。どの停電であっても「自家消費設備としての太陽光発電」の重要性がクローズアップされ、停電の中でも電気が使える仕組みを持つことの重要性が認識されてきた。

一方で、太陽光発電の爆発的な普及に貢献してきたFIT制度では、事業用太陽光発電に対して非常時も電力を供給できる設備を備えるインセンティブを与えず、厳格な制度運用によって事後的な改修すらも阻んできた。結果として、2018年に国内で3度の大規模停電が起きていながら、2019年9月には最長で復旧まで2週間以上に及ぶ大停電に際して、各地に設置された太陽光発電設備は十分な役割を果たせなかった。

私が自社で運営するソーラーシェアリングである千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機も、千葉で観測史上最大の暴風が吹き荒れた令和元年台風15号の直撃を受けながら、設備そのものは一切の被害が無かった。

令和元年台風15号通過直後の千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機。設備に被害は無かった。

しかし、周辺では倒木が相次いだことで8日間に亘る停電となり、その間は発電所としての機能を果たすことが出来なかった。

ソーラーシェアリング本体の設計としては、猛烈な台風を想定していた堅牢さを実証できたが、FIT制度の制約によって、非常用電源として活用するための機能は十分に持たせることが出来なかったため、結果として停電の間に電源として利用することができなかった。

ソーラーシェアリングとEVモビリティで農業を低炭素化

ソーラーシェアリングはあらゆる農地区分で設置ができる設備であり、都市近郊農地から農村部まで平常時も非常時も電源として活用できることに大きな特徴がある。

太陽光発電であるから日照さえあれば電気が供給でき、他の再生可能エネルギーと異なり、設置場所の制約が少ない。さらに、農地を活用することでまとまった規模の確保や、分散設置に適している。しかしFIT制度の壁は厚い。

そこで、台風被害の後にこうしたソーラーシェアリングの特徴を活かすべく、これまでとは異なった新たな取り組みの準備に着手した。それが、ソーラーシェアリングとEVモビリティ(電気自動車)の組み合わせ、そしてその先にある農業・農村の低炭素化である。

まず実証設備として、2kW程度の太陽光パネルに蓄電池を組み合わせ、昨年の台風でも被害の無かったハウスで災害時も活用できる自立型の電源システムを備えた。そして、その電源を使って超小型EVと各種の電動農機具を充電し、農業に使うエネルギーの電化と自給を試していく。
既に5月から実証を始めているが、農繁期に当たることからこれらのツールを最大限稼働させ、実際にどの程度のエネルギー需要があるのか、それを太陽光発電によって賄えるのかを計測している。

ソーラーシェアリングとEVモビリティの実証設備。 ハウス内に蓄電池が設置されている。

日常も非常時も生活の足とエネルギーを確保

農村地域では自動車の保有率が高い一方で、国内では人口減少や低燃費車両の普及によってガソリンスタンドの廃業が進んでおり、2014年から2018年までの5年間でガソリンスタンド数は1割減っている。また、昨年の台風による停電や水害時はガソリンの需要が高まるほか、ガソリンスタンドへの燃料供給が滞ることで、生活に大きな支障を来してしまう。

しかし、EVやPHV/PHEVに太陽光発電の給電が加われば、日常の足を確保するだけでなく、V2H(Vehicle to Home)などによる家庭用電源の確保も可能になる。住宅用の太陽光発電設備よりも大容量のソーラーシェアリングが各所に存在することで、非常時の給電ステーションとして機能させることもできるだろう。何より、電源が太陽光発電であればEVなどの低炭素化も一層進めることが可能になる。

日本は大都市近郊でも郊外には農地が広がっており、そこにソーラーシェアリングが設置されていき、EVなどのモビリティが「走る蓄電池」として加われば、平時も非常時も地域の低炭素電源としてエネルギーを確保できるようになる。その可能性が描く未来は、もう間もなく訪れようとしている。

連載:これからのソーラーシェアリング

馬上丈司
馬上丈司

1983年生まれ。千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役。一般社団法人太陽光発電事業者連盟専務理事。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外で自然エネルギーによる地域振興事業に携わっている。

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