大林組、2017年度から再生可能エネルギーなどへ約500億円の投資を実行 既に自社使用電力の約2倍の発電能力を保有するまでに【脱炭素銘柄】 | EnergyShift

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大林組、2017年度から再生可能エネルギーなどへ約500億円の投資を実行 既に自社使用電力の約2倍の発電能力を保有するまでに【脱炭素銘柄】

大林組、2017年度から再生可能エネルギーなどへ約500億円の投資を実行 既に自社使用電力の約2倍の発電能力を保有するまでに【脱炭素銘柄】

2021年08月19日

大手ゼネコンの大林組は、2017年度スタートの中期経営計画で再生可能エネルギーなどへの投資を積極化した。2020年度までに約500億円を投資している。またニュージーランドと大分県で地熱発電による水素製造プロジェクトを手掛けるなど、脱炭素のユニークな取り組みも開始している。

しかし大林組の脱炭素の取り組みは株価には殆ど織り込まれていない。同社の脱炭素の取り組みが株式市場から評価されるタイミングは到来するのか、今後の脱炭素領域の投資額の推移とともに株価の行方が注目される。

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大林組は再生可能エネルギーなどに2017年度から約500億円の投資を実行

大林組<1802>は2017年度スタートの中期経営計画で、再生可能エネルギー事業などに1,000億円の投資枠を設定した。これまでに約500億円の投資が実行され、国内30箇所44発電所に153.85MWの再生可能エネルギーによる発電能力を持つに至った。自社使用電力の約190%の発電能力だ。風力発電施設、バイオマス発電施設も持つが、その殆どは太陽光発電施設である。尚、再生可能エネルギー事業は大林クリーンエナジーを設立した2012年より手掛けている。

また水素関連事業への投資も行っており、2021年3月からニュージーランド(NZ)の地熱発電を利用したグリーン水素製造を開始した。まだ実証実験の段階だが、設置された施設はNZにおける初のメガワット級水素製造施設であり、今後日本への水素輸出ビジネスなどを製造規模の拡大とともに検討する。

更に大分県でも、地熱電力を活用した水素製造と供給網構築の実証実験を本年7月から開始した(2024年3月までの予定)。本事業は地熱発電を利用して得られる、CO2フリー水素を様々な需要先へ供給するまでの一連のプロセスを実証する日本初の試みだ。

ゼネコンの脱炭素はビルの省エネ化などのイメージがあるものの、大林組は再生可能エネルギーへの投資に加え、地熱発電を利用する水素製造というユニークな脱炭素事業を手掛けている。


地熱発電電力を活用したグリーン水素製造実証プラント

再生可能エネルギーなどへの投資は計画の1,000億円を下回る約600億円に留まる見込み

ゼネコン業界の中で大林組の脱炭素への投資は積極的だが、2017~2021年度の中期経営計画では再生可能エネルギーなどに1,000億円の投資を計画した。2020年度までに505億円を投じており、今年度は100億円の投資計画であり、最終的な投資額は約600億円に留まる見込みだ。

中期経営計画で投資を予定した各事業領域において、投資額の未達予想は再生可能エネルギーなどの領域のみである。投資に積極的なスタンスながら、本業に比べると再生可能エネルギーへの投資は慎重に行われている。

その中でも同社は本年4月にグリーンエネルギー本部を設立することで、今後は同本部を中心に脱炭素の取り組みに注力する計画だ。

大林組の業績及び株価推移

大林組の今期及び来期予想決算は下記となっている。

 売上高営業利益当期純利益
2021年3月期1兆7,668億円(対前年同期比▲14%減)1,231億円(同▲19%減)987億円(同▲12%減)
2022年3月期(予想)1兆9,100億円(同8%増)950億円(同▲22%減)715億円(同▲27%減)

2021年3月期、2022年3月期と減益継続の予想である。2022年3月期は増収予想だが、2020年3月期の売上高2兆円の大台回復には至らない。

また大林組の直近10年の株価は2017年11月の1,609円がピークとなった後、2019年以降は800~1,200円台のレンジが継続中だ。コロナショック時に772円まで下落したが、その後は回復して800~1,000円のレンジが続いている。

一方で、大林組の株価の予想PERは9倍(2021年8月17日終値、以下同様)である。各社の予想PERは鹿島建設<1812>9倍、大成建設<1801>11倍、清水建設<1803>10倍であり、大手ゼネコンと同等のPER水準に留まっている。今後の業績回復や脱炭素への取り組みが評価されて見直し買いが入る際は、上昇余地が大きいといえよう。

再エネ発電能力は自社消費電力の2倍に

大林組は大手ゼネコンの中では、比較的早期に脱炭素分野への投資を積極化した。その結果、再生可能エネルギーによる発電能力は自社消費電力の約2倍を持つに至った。また今後の水素需要拡大を見越して、地熱発電を活用した水素製造を国内とニュージーランドで実証事件を始めるなどしている。

ただし同社の事業全体から見れば、脱炭素に関連する事業の割合はわずかだ(2021年3月期の大林クリーンエナジーの当期純利益は1.5億円)。また2021年度までの再生可能エネルギーなどで1,000億円の投資計画は、約600億円に留まり未達となる可能性が高い。

ゼネコン業界では戸田建設<1860>が洋上風力発電事業への期待感から株式が買われている状態だ。大林組の脱炭素への取り組みが今後評価され株価上昇につながるのか、同社の脱炭素領域に対する投資額の推移と株価の動向が注目される。

石井 僚一
石井 僚一

金融ライター。大手証券グループ投資会社を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析、為替市場分析を得意としており、複数媒体に寄稿中。過去多数のIPOやM&Aに関与。ファンダメンタルズ分析に加え、個人投資家としてテクニカル分析も得意としている。

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