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送電の広域化と配電の分散化で、電気事業のビジネスモデルは進化する 国際大学 橘川武郎氏

送電の広域化と配電の分散化で、電気事業のビジネスモデルは進化する 国際大学 橘川武郎氏

2020年02月04日

2020年4月1日から発送電分離が実施され、沖縄電力を除く旧一般電気事業者の送配電事業はすでに分離している東京電力パワーグリッドを含め、すべて別会社となった。これにより、一連の電力システム改革はひと段落ついたことになる。ここまでの改革の評価について、そしてさらなる改革に向けた課題はあるのか、経済産業省 総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会委員で国際大学教授の橘川武郎氏におうかがいした。

電力システム改革のメリット・デメリット

―2020年4月1日から発送電分離が実施され、送配電事業は別会社となります。これで電力システム改革は一通り終わるわけですが、一連の改革に対する評価はいかがでしょうか。

橘川武郎氏:発送電分離は、基本的には競争が促進されるというメリットがあると思います。
一方、デメリットですが、停電などの対応について、懸念があります。というのも、これまでは、発送配電一貫体制により、それぞれの情報がつながることで、災害時の停電などにうまく対応できていたものが、情報遮断によって対応しにくくなる可能性があるからです。とはいえ、2018年の北海道でのブラックアウトは、発送配電一貫であるにもかかわらず起きたことですから、実際には変わらないのかもしれません。

発送電分離が行われた先、やり方によっては面白い事業展開があると考えています。

発電事業と送配電事業に大きく分けられたわけですが、このうち発電事業は競争下にあるため、巨額の投資が難しくなってくるでしょう。一方、送配電事業は総括原価方式による料金設定が残されているので、投資がしやすいと思います。このことが、電力業界にビジネスチェンジをもたらすと思います。

さらに言えば、昨年(2019年)の審議会で、キーワードとして「送電の広域化、配電の分散化」ということが言われました。それは、送配電分離の可能性もあるということです。そして、配電事業を小売り事業と一緒にすることもあるでしょう。

そもそも、海外ではTSO(送電網を運用する事業者)とDSO(配電網を運用する事業者)は分離していることも多いですし、戦前の日本では、日本発送電という会社と地域の配電・小売り会社に分かれていました。日本も再び、送電と配電を分離したときに、送電は広域化した方が合理的ですから、送電会社どうしの合併というのは十分にあると考えています。

国際大学 橘川武郎教授

旧一電のコアコンピタンスは電力系統運用にある

―注目される動きはありますでしょうか。

橘川氏:注目しているのは、東電PG(東京電力パワーグリッド)です。東京電力グループは千葉県銚子沖の洋上風力発電計画に参画していますが、そこでは出力制御の可能性も織り込んでいます。しかし、可能な限り出力制御しないような電力系統の運用を考えています。

これまでの旧一電(旧一般電気事業者)の考えは、原子力が稼働するという想定の上で、さらに空きがある範囲内において他電源の電力系統への接続を許可してきました。しかし、現状では原子力がどのくらい稼働するかわかりません。稼働が不明な電源用に送電線の空きを確保していたら、送電会社には託送料金が入ってきません。送電会社が独立したことによって、送電線の稼働率を高める必要が出てきたということです。

東電PGが千葉県地域の電力系統の潮流を調べた結果、制御しなくてはいけないのは、春と秋、合わせても1~2週間程度ということでした。したがって、送電線に新たな投資をしなくても、十分に送電できるということです。ここで、電源に対してメリットオーダーで運用をしていけば、送電コストも発電コストもトータルで下がっていくことになります。

関東地方は再エネのポテンシャルは低いのに対し、東北地方は再エネの大量導入が見込まれます。そうすると、東電PGと東北電力の送電会社を合併させて、効率よく運用したほうがいいのではないか、と考えることもできます。東日本TSOとでも言いましょうか、そうした事業体ができる可能性があると考えています。

―送電会社の再編は、ほかの地域にも波及していくでしょうか。

橘川氏:北海道は、北本連系が弱いので、合併することはないと思います。一方、西日本はこれに刺激を受けて、同様に合併するかもしれません。西日本TSOが生まれる可能性もあります。発電部門に関しても、原子力と石炭火力とのバランスを考えて関西電力と中国電力、中部電力と北陸電力、あるいは関電を嫌って、九州電力と四国電力と中国電力、といった組み合わせの合併も考えられます。こうした業界再編は、激震になるでしょう。

これには別の本質的な面もあります。
電力会社、主に旧一電のコアコンピタンスについて、一般に誤解されていたと思います。つまり、今までは発電事業が強みだと考えていたのかもしれません。ところが、電気は供給と需要を常に一致させておく必要があります。実際に旧一電にしかできないことというのは、こうした電力系統運用だったということです。

今後、再エネがさらに大量に導入されたとき、これを調整し、運用していくことが、旧一電の価値ですし、そこにチャンスがあるのではないでしょうか。

発電事業にこだわる電力会社は難しくなる

―そうすると、分離された送電会社の方が、電力会社の強い部分ということになります。

橘川氏:その通りです。逆に、発電事業にこだわる電力会社は難しいと思います。関西電力、四国電力、九州電力は原子力発電を再稼働させたときは、勝ち組となっていました。しかし、原発依存度が高いと、事業者として進歩できないのではないでしょうか。

原子力発電は、災害だけではなく、政治リスクや訴訟リスクもあり、いつ停止するかわかりません。一方、大規模火力発電に依存するJパワーや中部電力は、たとえ脱原子力となったとしても、やはり発電依存型の時代遅れのコンピタンスだといえます。

―その意味では、東電FP(東京電力フュエル&パワー)の火力発電所はJERAに統合されてしまっており、もはや東電グループの強みになっていません。東電PGこそが中心ということでしょうか。

橘川氏:再エネの拡大と発送電分離がつながっている、ということは、東電PGは織り込んでいると思います。その上で、送電線を効率的に運用し、利益を出していくことで、福島第一原発事故の賠償を続けていく、ということになるでしょう。

これは、かつて水俣病の原因をつくったチッソと同じしくみです。チッソは半世紀にわたって賠償を続けています。この賠償の継続は、事業の強みによって支えられています。事実、世界の液晶本体のおよそ半分近くはチッソが供給しています。
東電もこれから50年から100年かけて、送電事業の利益を通じて福島への賠償を続け、責任をとっていくことでしょう。

配電事業は地域に身近な事業者で

―一方、配電の分散化ではどのようなことが起こるのでしょうか。

橘川氏:経済産業省では配電事業にライセンス制を導入しました。

全面自由化以降の電力と都市ガスのスイッチングを見ると、関電と大阪ガスでは関電が優勢、東電は東京ガスとほぼ互角、他の地域では、そもそもあまりスイッチングが起きていません。ただ、北海道電力は例外で離脱が大きくなっています。なぜかというと、北海道は人口密度が低く、送配電事業にコストがかかっており、その結果、電気料金が高くなっているからです。これは、結果として人口が少ない地域の配電コストを札幌市民が負担しているということになります。

だとしたら、負担となっている配電事業を、地元資本やガス会社に切り出してはどうでしょうか。

北海道には1966年末には、687地区で電気の自給組合がありました。北海道電力はこれを統合し、大型電源で安い均一料金の電気を供給するようにしました。これが成功体験となっているのですが、現在はむしろ、分散型の再エネの方が安くなっています。そうであれば、スマートコミュニティとしての配電事業を導入した方がいいと思います。その結果、料金は変わっていき、札幌市での電気料金は下がります。

―電力会社とガス会社は競争するのではなく、住み分けるということになるのでしょうか。

橘川氏:地方では、電力会社よりも都市ガス会社やLPガス会社の方が、地域に身近な存在になっています。こうしたコミュニティ規模のガス会社が、北海道に限らず、配電事業を引き受ける主体になってもいいと思います。変動する再エネを水力発電などで調整するような送電線の整備も、コストがかかるのであれば特区制度を使って整備するということをしてもいいと思います。

それから、電気とガスでは料金体系が異なるという点も重要です。一般的な電気料金は、三段階制でたくさん使うほど単価が高くなります。したがって、新規参入者はたくさん電気を使う顧客に対して値引きしやすい。しかしガスはたくさん使うほど単価が安くなる。先ほど、関電が大阪ガスに対して優勢だと話しましたが、収益構造を見ると逆で、関電のガスよりも大阪ガスの電気の方が利益を出しています。

したがって、どこの電力会社も競争を続けていてはジリ貧になりますから、配電を切り分けていくということを考えるべきです。実際に、愛知県岡崎市では、市やNTTファシリティーズとともに中部電力と東邦ガスが共同で新電力会社の岡崎さくら電力を設立しています。

熱供給は重要だがまだ手付かず

―スマートコミュニティ事業では、電気だけではなく、熱供給も可能性があると思います。

橘川氏:デンマークでは、再エネ電源比率が6割に達しているにもかかわらず、電気料金などは高くありません。最大の理由は、熱を効率的に活用していることです。そこでは余剰の電気をP2H、すなわち熱に変えて蓄え、セントラルヒーティング方式で供給しています。また、CHP(コージェネレーション)も普及しています。

熱を使うには温水用のパイプが必要になります。残念ながら日本ではあまり普及していませんが、こうしたインフラを北海道で整備していくというのは、有力な手段になると思います。イノベーションにおいても、熱利用は重要なテーマです。しかし残念ながら、電力会社は熱利用が頭に入っていないのではないでしょうか。

発電や小売りも含めた業界再編はあるのか

―先ほど、送電事業の合併はありうるということでしたが、発電や小売りも含めた業界再編というのはあるのでしょうか。

橘川氏:いろいろな可能性があると思います。例えば東電EP(東京電力エナジーパートナー)と東京ガスの合併があってもおかしくありません。ドイツでは自由化前は大手電力会社が8社ありましたが、自由化後は4社に集約されています。日本も同じようになるかもしれません。

―新規参入者は生き残っていけるのでしょうか。

橘川氏:大手都市ガス会社は残っていけるでしょうし、KDDIが抜け出した感がありますが、大手通信事業者も生き残るでしょう。 しかし、卸電力市場のボラティリティが高い状況では、電源を持っていない新規参入者の経営は安定しません。その点、バイオマス発電所の整備をしているイーレックスのような会社は残っていくでしょう。

ガス事業者以外では、東急パワーサプライのように、住民とつながるという合理性がある会社は生き残っていくと思います。その意味では、他の鉄道会社も本格的に電気事業に参入してもいいのではないかと思います。

また、こうした会社に旧一電が出資していくということもあってもいいでしょう。かつて、発電事業が自由化されたときに、風力発電事業者として参入したユーラスエナジーホールディングスも、東京電力の傘下となりました。

―確かに、東急パワーサプライには東北電力も出資しています。また、これ以外にも、新規参入者に旧一電や大手都市ガス会社が出資するケースは増えています。

橘川氏:東電EPもニチガスに出資しました。顧客規模が圧倒的に差があるにもかかわらず、比較的対等の関係での提携なのですが、東電EPにとってはニチガスの営業力が魅力だったと思います。
ニチガスのやや強引な営業については評価が分かれるところですが、実はニチガスはDX(デジタル化)がもっとも進んだ会社でもあります。雲の宇宙船という業務システムが、業務を効率化させています。

柏崎刈羽原子力再稼働は東電以外で

―業界再編にあたっては、原子力もかかわってくると思います。

橘川氏:長期的にはバックエンド(使用済み核燃料の処分や廃炉など)とリプレイスの問題がありますが、短期的には柏崎刈羽原子力の再稼働問題があります。私は、最新鋭の6号機と7号機は再稼働させるべきだと考えていますし、1号機と5号機も修理が終わっているので動かせると思います。しかしこの原子力は東電グループの下では再稼働できないでしょう。したがって、売却するのがいいと思います。買い取る会社のひとつは東北電力です。

柏崎刈羽原子力の再稼働にあたっては、避難計画の策定が必要ですが、それができるのは地元の電力会社である東北電力です。とはいえ、この1社だけでは負担が大きいので、原電(日本原子力発電)と共同で、場合によってはそこに中部電力も参画する形になるでしょう。

もうひとつ、短期的な課題は、Jパワーの大間原子力の建設です。これは、Jパワーにとっては不要とも言える電源で、ポイズンピル(買収防止策)の役割しかありません。Jパワーのコアコンピタンスは石炭火力発電と送電線なので、ここに特化すべきです。

一方、日本にはおよそ50トンの余剰プルトニウムがあり、これをMOX燃料(プルトニウムを含む混合酸化物燃料)に加工して、消費する必要があります。しかし、これはプルサーマル(一般の原子炉での利用)だけで処理するのは不可能です。したがって、MOX燃料100%でも稼働可能なFull-MOX型の大間原子力が必要になるのです。
したがって、Jパワーは大間原子力を売却し、それを誰かが稼働させることになります。

現在のエネルギー基本計画では投資は進まない

―エネルギー基本計画、および2030年や2050年のエネルギーとCO2排出削減目標についてもおうかがいします。

橘川氏:2022年には第6次エネルギー基本計画を策定する予定です。とはいえ、現状では計画をつくることはできません。

経産省は現在の基本計画において、2030年に火力発電は56%になるとしていますが、2050年については語っていません。一方、環境省は2050年にCO2を80%削減するものとしていますが、具体性がありません。石炭火力発電を減らすとしていますが、原子力発電についてはコミットしません。このように2つの省の間で矛盾があるのです。

また、次の計画で、これまでと同じように2030年目標にするということもないでしょう。少なくとも、2040年の目標は示すべきです。長期にわたる計画があることで、投資しやすくなります。逆に不十分な目標だと投資が抑制されます。現在の計画では、2030年に再エネは22~24%です。この数値のままでは投資は進まないでしょう。

原子力発電が目標通りになる可能性は低いのですが、ではその分をどうやって埋めていくのか。LNG火力発電は27%となっていますが、天然ガスの使用量は現在よりも縮減してしまいます。そうすると石炭火力発電だけが投資対象になります。現在の目標は、混乱を招いているだけです。

2050年の削減目標こそが重要

―エネルギー基本計画もさることながら、ここにパリ協定の削減目標も加わっています。さらに、現在の削減目標をより野心化させるべきだという圧力も高まっています。

橘川氏:2050年の削減目標こそが重要です。おそらく、温室効果ガスの80%削減というのは、国内だけでは無理でしょう。2013年基準だとすれば、11.3億トンも減らさなくてはなりません。
2050年の電力構成は、再エネ50%、原子力10%、火力+CCS40%と想定しています。さらに、都市ガスなどの需要もあります。そうすると、海外でCO2排出削減し、それを活用してゼロエミッションにするしかありません。

CCS(二酸化炭素回収・貯留技術)は国内では経済性がないので、油田近くの火力発電所でCO2-EOR(油田に二酸化炭素を注入し、原油生産を増やす方法)を行うことになるでしょう。さらに、海外の再エネの開発を通じて減らしていくことが、本筋になると思います。

2020年1月に東京ガスがメキシコで進める150MW強の太陽光発電と150MW弱の風力発電のプロジェクトを、見学する機会がありました。大規模なだけではなく、太陽光発電の設備稼働率は34%、風力発電は51%です。太陽光発電のO&Mもロボット化しており、発電原価は2.3円/kWhだということです。

元々はエンジーが開発していたプロジェクトですが、地元のTSOに売電したのでは利益が少ないということで、日本企業のメキシコ法人に売電するよう方針転換しました。これが、東ガスが参画するきっかけになったのだと思います。

東京ガスが出資したメキシコ・トロンペソンの太陽光発電施設。東京ガスプレスリリースより

―原子力はエネルギー基本計画の通りに2030年には稼働しているのかどうか疑問だということですね。先ほどは、原子力のバックエンドとリプレイスを指摘されました。

橘川氏:バックエンドについては、いまだに解決できておりませんし、先ほどの余剰プルトニウムの問題もここに含まれています。
リプレイスをしないと、2050年には原子力はほぼなくなってしまうという問題もあります。原子力のリプレイスを主導できる位置にある電力会社は関電だけです。しかし、ご存知のように、金銭授受事件の影響で、トップがいなくなってしまいました。

現在の政府は原子力にあまり積極的ではありません。その背景には、選挙対策があります。与党で憲法改正に必要な国会の議席の3分の2以上を確保するためには、原子力のリプレイスは訴えにくいということです。原子力の問題そのものが進まないのは、官邸が最大のリスクになっていると見ています。

橘川武郎
橘川武郎

国際大学国際経営学研究科教授 1951年生まれ。和歌山県出身。1975年東京大学経済学部卒業。1983年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。同年青山学院大学経営学部専任講師。1987年同大学助教授、その間ハーバード大学ビジネススクール 客員研究員等を務める。1993年東京大学社会科学研究所助教授。1996年同大学教授。経済学博士(東京大学)。2007年一橋大学大学院商学研究科教授。2015年東京理科大学大学院イノベーション研究科教授。2020年より現職。東京大学・一橋大学名誉教授。総合資源エネルギー調査会委員。前経営史学会会長(在任期間2013~16年)。

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