EnergyShift LIVE#7 エネルギーメディア編集長が読み解く電力システム改革と2030年のエネルギー | EnergyShift

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EnergyShift LIVE#7 エネルギーメディア編集長が読み解く電力システム改革と2030年のエネルギー

EnergyShift LIVE#7 エネルギーメディア編集長が読み解く電力システム改革と2030年のエネルギー

EnergyShift編集部
2020年03月02日

エネルギー市場で起こる大きな変革を捉え、日本のエネルギーシフトを加速させるために求められるものは何か。新たなエネルギーテックを知り、ビジネスモデルをどう構築していくべきかをともに考えるコミュニティとして、EnergyShiftは公開イベント「EnergyShift LIVE」を毎月開催している。

2020年1月24日に開催したEnergyShift LIVE♯7では、「エネルギーメディア編集長による特別対談」と題し、電気新聞報道室長・総合デスクの山田真氏とエネルギーフォーラム常務取締役・編集部長の井関晶氏が登壇し、対談形式で電力システム改革に対する評価や、2030年のエネルギーシステム像について語った。

日本のエネルギー政策には、政策哲学があるのか

EnergyShift:2020年4月に実施される発送電分離によって、一連の電力システム改革は終わります。最初に、その評価をお願いします。

山田真氏:送配電部門が分離されますが、これはあくまで中間点であり、今後もエネルギー市場は大きく変わっていくでしょう。例えば、配電事業にライセンス制度が導入されます。詳細がどうなるか、まだ不透明ですが、今後、太陽光発電や蓄電池、EVなどの分散型電源が配電ネットワークにどんどんつながれていく。その一方、配電側は分散電源をオペレーションしなくてはいけなくなります。そうなると、従来とは電気の流れが変わり、双方向になってきます。ライセンス制度の導入によって、配電分離が実現すれば、一連の電力システム改革と同様のインパクトが起きるのではないかと予想しています。

その一方で、電力システム改革によって、さまざまな課題も浮き彫りになってきました。ひとつは再生可能エネルギーが大量導入される中において、老朽化した送配電網や火力などの既存の発電設備をどうやって維持・更新していくのか。市場原理に委ねるだけでは、中長期的に電力設備への投資が進まない可能性が高く、政策対応しなければ、安定供給に支障をきたす可能性があります。

もうひとつは、原子力の問題です。電力自由化を進めながら、原子力政策もやる、という中途半端な状況が続いています。総括原価方式を撤廃したあとに、原子力政策をどうするのか。進めるにせよ、廃炉に向かうにせよ、どこかで核燃料サイクルを含めきちんと一度議論しなければいけません。残念ながら、一連の電力システム改革の中では、こうした課題について、明確な方針が示されることはありませんでした。

電気新聞 編集局 報道室長兼総合デスク 山田 真氏

井関晶氏:発送電分離を紐解けば、2003~2004年ごろの第3次電気事業制度改革議論の際、「発送電分離はしない」という政治決着をし、一度は制度論から姿を消しました。しかし、2011年に起こった東日本大震災を契機に、経済産業省資源エネルギー庁の主要ポストに、当時、改革派と呼ばれた官僚が復帰し、発送電分離議論が一気に進んだというのが、官僚サイドから見た評価です。

一連の電力システム改革は発送電分離によって一区切りしますが、課題は山積しています。そのひとつが、審議会の多さです。それぞれで政策議論の各論に関して、審議しているため、いったい日本のエネルギー市場はどこに向かおうとしているのか、その全体像がまったくわからない状況になっています。日本のエネルギー政策の全体像を見据えて、政策立案している官僚が経産省の中にどれだけいるのか。大型台風などの異常気象が起これば、レジリエンスだと右往左往しながら、政策を進めている。大きな政策哲学がない、というのが、日本のエネルギー政策の現状ではないでしょうか。

エネルギーフォーラム 常務取締役編集部長 井関 晶氏

2030年までに、多くの劇的変化が起こる

EnergyShift:今の議論をふまえ、2030年のエネルギー業界、電力業界はどうなっていくとお考えでしょうか。

井関氏:4つのキーワードがあります。ひとつ目は、業態を超えたアライアンスの拡大です。トヨタ自動車は2020年1月、アメリカ・ラスベガスで開催されたCES2020において、あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「Toyota Woven City(トヨタ・ウーブン・シティ)」を東富士工場跡地(静岡県裾野市)に開発することを発表しました。

しかしトヨタ1社だけでは、コネクテッド・シティは実現できません。そのため、東京電力エナジーパートナーや東京ガス、静岡ガスなどエネルギー企業にも幅広く提携を呼びかけています。
さらにCESでは、ソニーがEVコンセプトカー「VISION-S(ビジョン エス)」を発表し、モビリティメーカーに大きなインパクトを与えました。エネルギー業界でも、トヨタとソニーを中心としたアライアンスが進展するのではないでしょうか。

ふたつ目が、エネルギービジネスを大転換させる可能性を秘めたGAFAの存在です。その1社であるAmazonは、東電グループなどと提携し、電気の小売りサービスの一環として、Amazonプライムサービスを提供しています。しかし、GAFAみずからが電力ビジネスに参入するという予測が日本でも高まりつつあります。巨大プラットフォーマーであるGAFAが、日本でどんなエネルギーサービスを展開するのか、関心は高まっています。
サブスクリプション型のサービスもあるでしょう。例えば、都市ガス会社はこれまでガス機器を売ってなんぼの商売でした。しかしこれからは、ガス機器やメンテナンス、その他サービス、そして電気を含めて、定額課金で提供する時代がくるでしょう。

3つ目が地方都市における自立・分散型エネルギーの確立です。
地方では電力・ガス自由化の新規参入が進まず、価格競争が進んでいない地域があります。その一方で、持続可能な地域のエネルギー供給の実現を目指して、地方の都市ガス会社やLP事業者、あるいはガソリンスタンド事業者たちは、地元自治体と組んで、地域資源である再エネ電源を活用しながら、SDGsやパリ協定の観点も踏まえた自立・分散型のエネルギー供給を進めています。

同時に、地方は独占体制へ回帰するかもしれません。
地方では路線バスや地方銀行を対象に、独占禁止法の適用対象外にするという法改正が行われようとしています。人口減少に晒されている地方は、もはや競争をしている時代ではなく、事業者同士が協力し合い、独占体制でやらなければ持続性が失われてしまうからです。こうした動きはバスや銀行業界から始まりましたが、エネルギー業界も独占への回帰が進むでしょう。
さらに、分散型電源の普及とともに注目されるのがブロックチェーンやP2Pなどのエネルギーテックです。P2P(個人間取引)が普及すれば、電力会社を介さずに電気の売り買いが進みます。デジタル化の進展もまた電力小売りのあり方を大きく変えるでしょう。

4つ目が大手電力会社の再編です。大手電力の再編は間違いなく進みます。再編の種類として大きく2つあり、そのひとつが、原発をトリガーにした再編です。原発には、加圧水型炉(PWR =Pressurized Water Reactor)と沸騰水型炉(BWR =Boiling Water Reactor)の2つの炉系がありますが、福島第一原発で採用されていたBWRを巡って再編が起きようとしています。東京電力ホールディングス、中部電力、東芝、日立製作所の4社連合に、大手電力9社と電源開発が出資する日本原子力発電が加わった再編です。そしてBWRの再編が、関西電力を中心としたPWRにどのような影響を与えるのか、注視しています。
もうひとつの再編が、送電部門の再編です。送電部門は、東西50Hz、60Hzの2つの陣容にわかれ、集約されていくでしょう。

小売り・発電・配電部門で進む大手電力の再編

山田氏:小売り部門は、今のように電気を売っているだけでは、いずれ経営が厳しくなります。自由化によって、一時、価格競争が起きましたが、果たして今後も続くのでしょうか。これ以上の価格競争はおそらく無理です。実際、高圧分野では電気料金の値上げが起こっています。
今後は、価格競争から脱し、サービスによる競争が起こるでしょう。その過程で異業種とのアライアンスが進展するのではないでしょうか。

電気と親和性の高い事業のひとつが住宅です。ハウスメーカーと連携したとき、小売り部門はどんなサービスを提供することができるのか。あるいは、アライアンスが拡大した時に、小売り部門が主導権を握ることができるのか。大手電力は模索中です。
電力会社は今、自治体や地域社会に対し『地域の課題を一緒になって解決しましょう』といっています。地域社会の解決に資するサービスが今後、生まれていくでしょう。

さらに、P2Pの時代になれば、電気は他のサービスに溶け込み、電気を買うという意識すらなくなっていきます。そうなると、消費者にとってより魅力のあるサービスを提供する企業が、電気の供給まで担うのではないかと思います。

一方、発電部門は、東電グループと中部電力が共同で設立したJERAが起爆剤となり、東西2つの陣営にわかれて、寡占化が進んでいく可能性があります。実際、東京ガスと関西電力、四国電力、中国電力は燃料調達で提携しています。

要因のひとつが、燃料費がゼロである太陽光発電などの再エネの大量導入です。卸売市場に0.01円/kWhという価格が出てきました。再エネの影響で、今後は、火力発電所の稼働率は著しく低下します。火力での効率化は喫緊の課題で、このままではリストラを進めなければいけない状況に晒されると思います。

再エネをめぐっては、ポストFIT制度として、2021年度以降からFIP制度の導入が決まりました。その一方で、すでに導入された40GWを超える再エネ電源に対しては、FIT制度の買取期間が終わる20年後以降、再エネ発電事業者は、本当に発電所の維持・管理やリプレースなどの再投資を進めるのでしょうか。FITの買取期間が終わった途端、次々に太陽光発電所などが廃棄されれば、再エネ電力の供給力は失われ、国民負担だけが残ることになります。こうした事態に陥れば、再エネの主力電源化の道は閉ざされてしまいます。

スマートメーターの普及などにより、電力データを活用した新たなビジネスモデルの創出にも期待がかかります。その一方で、個人情報をどう保護・管理するのか。その対応は急務です。また、原発の廃炉が進むのであれば、放射線廃棄物の処理問題も避けては通れません。気候危機へ対応するための脱炭素化、災害に強いエネルギーシステムなど、一連の電力システム改革では克服できなかった課題は実に多い。

2020年から始まる新たな10年代にこそ、エネルギービジネスは劇的な変化を遂げることになるでしょう。

電力システム改革は終わっていない

EnergyShift:結論から言えば、電力システム改革は、2020年4月の発送電分離で終わるわけではなく、今後もエネルギー業界・電力業界は激変していく、というのが、日ごろから大手電力や経産省などを取材する老舗メディア記者の共通した見方だということですね。大手も新規参入者も、こうした大きな波を乗り越えていくことになることを、覚悟すべきなのかもしれません。

プロフィール

電気新聞 編集局 報道室長 兼 総合デスク 山田 真

上智大学外国語学部卒、1995年に電気新聞(日本電気協会新聞部)入社。取材記者として情報通信、メーカー、経産省、電力業界などを担当。2013年に取材デスク、2017年から報道室長兼総合デスク。三重県出身、48歳。

エネルギーフォーラム 常務取締役編集部長 井関 晶

1992年産業報道出版入社(編集部記者)、1994年ガスエネルギー新聞入社(編集部記者)、1998年電力新報社(現エネルギーフォーラム)入社(編集部記者)、2015年取締役編集部長、2019年6月から常務取締役編集部長。

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