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2050年排出ゼロを官民一体で 改正された温暖化対策法のポイントを解説

2050年排出ゼロを官民一体で 改正された温暖化対策法のポイントを解説

2021年05月31日

5月26日、国会において「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」の一部を改正する法律案が承認された。簡単に言うと、「官民挙げて脱炭素化をもっとやっていくぞ」、と法律で決めたことになる。改正のポイント毎にゆーだいこと前田雄大が解説する。

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温室効果ガス排出の見える化の強化

今回の改正ではまず、企業からの温室効果ガス排出量報告を原則デジタル化し、国民が報告を閲覧する為の開示請求手続きを不要にするとともに、公表までの期間を現在の「2年」から「1年未満」に短縮する、という変更がされた。

改正の元となった制度が温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度だ。

この制度は、温室効果ガスを一定以上出している企業については、自分たちがどれくらい温室効果ガスを出しているのかというのを算出した上で、政府に報告をしなくてはならない、という仕組みで、平成17年(2005年)の温対法改正により導入された。

ただ、この制度、排出量の内訳は不明で、国民が開示請求が必要、報告してから公表までの期間が2年と長い為、企業の排出量をタイムリーに評価できない、等々の改善点があった。今回はその制度改善をした、というのが法改正の趣旨になる。

今回の改正で、企業の排出量は事業所単位で公表され、すぐに見えるようになった。つまり、各企業がどれくらい脱炭素の努力をしているのか、が「見える化」されることになる。

「見える化」の狙いは機関投資家

一個人では、わざわざ企業の温室効果ガス排出はなかなか見ないと思うが、狙いは投資家だ。世界の機関投資家たちが何を評価軸としているのか。とにかく、E、環境、脱炭素、ここの取組みを重視している

日本企業はこの温室効果ガス排出量の「見える化」によって、つぶさにその取組み度合いが投資家から見られるようになった。当然、取組みをしていないところはESGスコアが下がる、投資対象として外れていく。

結果として資金調達も含め、経営が苦しくなる。そうであれば、脱炭素の取組みをしよう、とインセンティブが出てきて、企業の脱炭素の取組みが進展する。こうした流れを想定しているのだろう。

この改正は、いいところをついたのではないかと筆者は考える。シビアにESG評価がされることによって、取組みが甘いところの株価は下がっていく、ということも出てくるだろう。なにせ日本の株式市場も、(ESGスコアに厳しい)海外機関投資家の影響が大きいからだ。

ただ、この報告対象となっていた企業は「特定排出者」という区分に該当するもののみになっている。これは全ての事業所のエネルギー使用量合計が1,500kl/年以上となる事業者であり、かなり多くのエネルギーを使っている事業者のみが対象になっている。今回、この対象範囲を広げるまでには至らなかったが、いずれ、広がっていくのだろう。時代はそういう流れになっている。

併せて、デジタル化も一応謳われているが、現代では報告を紙でという話ではないので、当然だろう。事務処理の簡素化につながり、公表のスピード改善にもつながると思われる。

もっと日本津々浦々に再エネが広がるように

今回の温対法は環境省メインの法令であり、企業、つまり経産省の領域まではなかなかメスが入れづらく、前述の「温室効果ガス見える化」が限度だった。しかし、自治体となると違ってくる。環境省の影響力が行使できるため、自治体関連の法改正も多くおこなわれた。では、なにが変わったのか。

元々、この法律は、第21条第一項で、「地方公共団体が温室効果ガスの排出の量の削減等のための措置を計画として立案しないといけない」と規定していた。

これは、例えば再エネをどのように促進するか、施策を具体的に作りなさい、ということだ。しかし、これまでは目標がなくてもよく、「作りさえすれば」良かった。それが今回の改正で、「施策の目標を立てなさい」となった。これも見える化につながる改正点といえる。つまり、目標の強い・弱いが見えてしまうようになるわけだ。

さらに、自治体の範囲は、都道府県や政令指定都市等に限られており、市町村レベルは具体策は免除だったが、市町村も目標、具体策を作りなさい、となった。

国がカーボンニュートラルと言っているわけで、当然それに準拠してみんな目標も立ててくる。でなければ、「あの自治体は頑張りが足らん」となってしまう。これは地方レベルからの取組みが進む契機になりそうだ。

市町村にはさらに求められるものがある。それは「地域脱炭素化促進事業の対象となる区域」の設定だ。自分たちの自治体の、この地域は脱炭素化を重点的に促進する、という地域を設定する、ということだ。

規制の簡素化、適用除外も可能に

そうはいっても、脱炭素化しようとしても色々な制約が法律的にもあるじゃないか。ということも織り込み済みで、規制は簡素化や適用除外をする、という条項も入れてきた。

これは、市町村から認定を受けた事業については、関係法令の手続きワンストップ化等の特例を受けられることとする、というもの。特例が及ぶのは、自然公園法・温泉法・廃棄物処理法・農地法・森林法・河川法など多岐にわたる。脱炭素事業の実施のスピードアップを目指す。

法律面を整備するとたいてい、そのあとについてくるのが予算だ。予算なくして、物事は動いていかない。手続きの面倒も減るし、予算も付く。

脱炭素が地方から動きそうだ。これはビジネスチャンスだ。脱炭素スコアを上げたい企業はこういうところに参画してくるのではないか(嗅覚が鋭ければ)。

この法律の位置づけと、明記された脱炭素の大前提となる追加文言

最後に、実はこれが一番重要なのではないかと思う論点、法律の位置づけと追加文言について解説する。

そもそもこの法律はなんぞや、というところをもう一度確認しよう。

この法律は、日本における温室効果ガス排出削減について、どのようにそれを実施していくのかというのを有権的に規定している法律になる。

実際には、政策自体は地球温暖化対策計画が策定され、それに基づいて具体的な政策目標などが決定される。温室効果ガス排出に直結するエネルギーに関しては、まさにいま議論されているエネルギー基本計画が具体的な政策の中身になる。

ただ、それらの政策の依拠となるのは、法律だ。つまり、日本の温室効果ガス排出削減の政策の根源となる法律がこの法律なのだ。

そして、その法律が、いまの脱炭素の流れを汲んでこの度、改正をされたということになる。

政策は、例えば政権が変わればその方針にそって変えることができる。また、国会の承認を経なくても政策は実施できる。しかし、法律は立法府、つまり国会の承認なく変えることはできない。その意味でも今回の変更はインパクトがある。

前段で具体的施策に絡みそうな法律変更部分を紹介したが、これから解説する部分は、この法律の立ち位置を決めたという意味で、一番重要だ。

その文言がこちら。

パリ協定第二条1において世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏二度高い水準を十分に下回るものに抑えること及び世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を継続することとされていることを踏まえ、環境の保全と経済及び社会の発展を統合的に推進しつつ、我が国における2050年までの脱炭素社会(人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれた社会をいう。)の実現を旨として、国民並びに国、地方公共団体、事業者及び民間の団体等の密接な連携の下に行われなければならない。

法律は基本的に第一条が目的、そして第二条に定義がくる。その法律の位置づけを決める根幹の部分になる。その定義の中に、第二条の2として、「基本理念」が初めて設けられた。その理念がこの文章だ。

理念としては、「国や地方自治体や民間だけでなく、国民も含めてみんなで脱炭素していきましょう」、ということだと環境省の資料にある。そして、こうした書きぶりは前例のないことだとも資料には書かれている。

日本の脱炭素の歴史に残る出来事

ただ、この条項の一番のインパクトはこの部分に尽きる。

「我が国における2050年までの脱炭素社会の実現を旨として」

初めて、法律にカーボンニュートラルが書かれた瞬間だ

法律に書かれたということは、政権が変わったとしても、法定事項として、守らないといけない。行政府を拘束する内容、それにカーボンニュートラルが入ったということ。つまり、政権が変わろうが、この方針は法律そのものを変更しない限り、遵守しないといけないということになった。

法律は国会の承認がないと変わらない。変えるときには、労力が必要であり、納得のいく説明がないといけない。脱炭素化が国際的に不可逆な中、そうした逆の方向への改正が起きるのは考えにくいだろう。

つまり、今後、少なくとも2050年までのカーボンニュートラル、これは最低ラインとして政府がずっと目指さないといけないものになった、そういう意義がここにある。

これは脱炭素の日本の歩みの中では、なかなかな出来事ではないか。

企業は見える化で、脱炭素をやる、地方は目標を立ててやる、そして、今後の政権は2050年カーボンニュートラルの目標遵守が決まった。もちろん、国際的な動向の波及もあり、様々な脱炭素の動きが民間レベルでもあるが、方向として、動きを加速させる方向にいく。

今日はこの一言でまとめよう。

『 温対法改正 脱炭素の歴史がまた一つ』

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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