スタートアップは旧一電に勝てるのか テックベンチャーと経産省の合同イベント「CIC Energy」レポート | EnergyShift

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スタートアップは旧一電に勝てるのか テックベンチャーと経産省の合同イベント「CIC Energy」レポート

スタートアップは旧一電に勝てるのか テックベンチャーと経産省の合同イベント「CIC Energy」レポート

2021年01月18日

2050年カーボンニュートラル実現には、経済社会全体の転換に向け、エネルギー・環境分野においてもさまざまなイノベーションを起こさなくてはならない。イノベーションの創出を目指す、CIC Energyは2020年12月14日、第2回目となる共催イベント「経済産業省と考える、これからの日本のエネルギー・環境政策・ビジネス」を開催した。当日の模様をレポートする。

イノベーションの加速には若い世代の創意工夫が必要

2050年カーボンニュートラルを実現するためには、経済社会全体の変革が必要だ。エネルギー・環境分野において、イノベーションを起こし社会への実装を目指す、エネルギーテック勉強会、Energy Tech Meetup、GreenTech Labs、そしてCIC Tokyoの4コミュニティは、「エネルギー業界でのイノベーション加速に向けたエコシステムの形成」という共通ビジョンの実現に向け、共催イベント「CIC Energy」を開催している。

2020年12月14日には、第2回目となる「経済産業省と考える、これからの日本のエネルギー・環境政策・ビジネス」を開催した。

イベントでは、まず若月一泰 経済産業省 産業技術環境局 環境政策課課長が、「2050年カーボンニュートラルに向けたグリーンイノベーションの方向性」というテーマで講演した。

若月氏は、「菅総理が表明した2050年カーボンニュートラル実現に向け、2020年12月4日には、2兆円の基金創設を発表しました。環境対応は、もはや経済成長の制約ではない。企業が将来に向けた投資を促し、生産性を向上させるとともに、経済社会全体の変革に向け、野心的なイノベーションに挑戦する企業を今後10年間、継続して支援していきます」と述べた。

さらに、「2050年の将来を予測することは絶対に不可能です。しかし、2050年カーボンニュートラルという長期的なゴールを掲げることで、実現に向かってプレーヤーが弛まず進歩していけば、あるティッピングポイントを超えると一気にイノベーションが加速します」。

「国も2兆円で10年間支援すると、ある意味、覚悟を示しました。技術だけではなく、社会全体を変えていく。政策も総動員しますが、各分野でのイノベーションを起こさなくてはいけない。2014年以降、6年連続で日本のCO2排出量は減少していますが、この削減幅ではカーボンニュートラル達成はできない。抜本的な転換が必要な中、若い世代による創意工夫に大いに期待しています。エネルギー分野でのイノベーション加速に向けて、さまざまな議論をしていきたい」と語った。

若月一泰 経済産業省 産業技術環境局 環境政策課課長
若月一泰 経済産業省 産業技術環境局 環境政策課課長

これから来る、熱いビジネスとは

続いて、次の3つのテーマに沿ったパネルディスカッションが行われた。

  • エネルギー業界の革新を支えるオープンイノベーションの取り組み
  • 2050年のカーボンニュートラル実現に向けて我々は何をすべきか
  • エネルギーの未来の話をしよう

注目されたのが、パネル3「エネルギーの未来の話をしよう」である。

モデレーターは、井口和宏 エネルギーテック勉強会 Co-Founder シェアリングエネルギー事業開発室長が務め、パネリストとして、江田健二 RAUL代表取締役、小林将大 エネルエックス・ジャパン 渉外部シニアマネジャー、村中健一 エネルギーテック勉強会 Co-Founder エナーバンク代表取締役の3名が参加した。

まず「これから来る、熱いビジネスやサービスとはどんなモノなのか?」をテーマに議論が進んだ。

小林氏は、水素と分散型電源のひとつとして利活用が期待されるEV(電気自動車)をあげた。

特に水素については、「菅政権になり水素と脱炭素が直結し、よりコミットメントが高まっています。特に再エネ由来のグリーン水素の導入拡大に期待しています。ただ、一般家庭レベルにまでFCV(燃料電池自動車)が導入されるにはまだ時間がかかり、まずは規模の経済が働く大型バスや大型トラックなどに導入され、その後、一般家庭に広がるのではないか」と述べた。

江田氏は、2030年から2040年を見据えて、再エネの導入拡大によって電力料金が定額化される。屋外でもスマホやEVなどの充電が自由にできる無線充電技術が進展する。そしてモビリティは自動運転化され、かつ、タクシー料金が1ヶ月3,000円で乗り放題になるといったサプスクリプション化される未来像を語った。

村中氏は、新たなビジネスモデルや技術が登場してもすぐにコモディティ化するエネルギー業界において、ブランドやデザインが差別化を図る重要なテーマだとし、次のように述べた。

「イギリスの新電力の1社にBulb Energyという企業があり、彼らの製品コンセプトがMaking energy simpler, cheaper, greenerです。洗練されたデザイン性のもと、再エネ100%の電気を提供することで、顧客を増やしています。しかし、Bulb Energyのビジョンのように僕たちもビットしたいと思わせるような、ブランドやデザインが日本のマーケットの中では確立出来ていない。これからはあえてデザインで攻めていきたい」。


小林将大 エネルエックス・ジャパン 渉外部シニアマネジャー(手前)、井口和宏 エネルギーテック勉強会 Co-Founder シェアリングエネルギー事業開発室長(奥)

スタートアップは旧一電に勝てるのか

次に、「多くの日本企業にカーボンニュートラル達成が求められていく中、何がビジネスチャンスになるのか?」という質問について、小林氏は、RE100達成など需要家のカーボンニュートラル達成に向けたアドバイザリー、およびデマンドレスポンス(DR)事業の2つをあげた。

村中氏は、大企業が本気で脱炭素に舵を切ったら、再エネの供給力不足が顕在化すると述べ、「ひっ迫する再エネを誰が提供するのか。ないものをどうやってビジネス化するのか。新しいビジネスモデルを取り込まなくてはならず、そこにビジネスチャンスがある」と指摘した。

村中氏の発言を受け、井口氏は「EnergyShiftにイギリスの新電力であるOVO Energyが、日本でいう旧一般電気事業者にあたる、SSEの家庭向けサービス部門を買収したという衝撃的な記事がありました。日本でも旧一電というジャイアントに対し、スタートアップが勝つためにはどのような戦略があるのか?」と問いかけた。

江田氏は、「全部を狙わないことです。つまり日本全体のパイが100だった場合、100の人たちにウケるようなサービスを提供していたら、資本力の多い大手企業が勝ってしまう。そうではなく、再エネ100%プランや無線充電などを取り入れて、外出先でも自由に充電できるようなサービスがあれば、パイを取れるはず。電気代の安売り競争を続けても、大手電力会社にシェアを奪い返されるだろう。EVや蓄電池を組み合わせたサービスなど、ニッチな市場を狙うという戦略が重要ではないか」と述べた。

最後に井口氏は、「今、日本にあるほとんどの再エネがFIT制度のもとでつくられたものです。そのため、環境価値がついておらず、どうやって環境価値つき再エネを増やすのか? FIT切れ自家消費から環境価値を創出していくのか。あるいは省エネからクレジットを発行していくのか。ボリュームが増えないと、カーボンオフセットを活用したエコノミーは発展しない」と語ったうえで、「日本で再エネの価値が需要家に浸透すれば、イギリスや欧州のように再エネ100%電気が支持され、カーボンニュートラルの実現に近づくだろう」と述べた。

世界的なリスク=気候変動にお金が流れていく

そのほか「エネルギー業界の革新を支えるオープンイノベーションの取り組み」をテーマとしたパネルディスカッションでは、環境エネルギーに特化したベンチャーキャピタルである、環境エネルギー投資の河村修一郎代表取締役社長が、自社の取り組み事例を紹介した。

環境エネルギー投資は、2008年のファンド1号(35億円)からスタートし、現在、152億円の4号ファンドまで、4つのファンドを運用している。

当初はFIT制度で再エネ発電事業を拡大させたレノバや、省エネ技術を持ったアイ・グリッド・ソリューションズなどに出資をしていたが、徐々にフェーズを変え、3号ファンドから、オンサイト自家消費を扱うVPP Japanやシェアリングエネルギーなどに出資。4号ファンドからは、自家消費を超えて自己託送スキームを使ったオフサイト自家消費などを展開する、Clean Energy Connect(非FIT再エネ発電所の運営、コーポレートPPA)などに出資していった。

河村氏は、「スタートアップはスピード勝負。そして顧客をいかに掴めるか、この2点がステップ1です。ステップ2が大企業といかに連携するか、です。例えばVPP Japanには関西電力や伊藤忠商事に資本参加してもらいました。その結果、VPP Japanの信用力があがり、2020年2月に100億円を調達し、自家消費型の太陽光発電を100MW供給していく予定です。

シェアリングエネルギーも同じフェーズに入っており、2020年10月にENEOSと資本提携をし、ファイナンスがしやすくなっています。このようにフェーズごとに役割を変えて、Win-Winになれるようコラボして進めていくことが重要ではないか」と語った。

イベントの最後に登壇した、齊藤瑞希 経済産業省 産業技術環境局 地球環境連携室 室長補佐は、「世界中で気候変動に対する危機感が高まっており、日本だけではなく、世界が解決手段を求めています。また気候変動に対する緩和策だけではなく、気候変動が起こってしまったら、どう適応するのか。適応ビジネスも拡大していきます」と述べた。

そのうえで、「世界的なリスクがあるところにお金は流れていく。積極的に参入して欲しい」という言葉を送った。


齊藤瑞希 経済産業省 産業技術環境局 地球環境連携室 室長補佐

(Interview:岩田勇介 Text:藤村朋弘 Photo:関野竜吉)

藤村朋弘
藤村朋弘

2009年より太陽光発電の取材活動に携わり、 その後、日本の電力システム改革や再生可能エネルギー全般まで、取材活動をひろげている。

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