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コーズマーケティングとは?成功に導くコツを解説

コーズマーケティングとは?成功に導くコツを解説

2021年03月02日

寄付つき商品やサービスの販売を通じた社会課題解決型キャンペーンやプログラムを実施するコーズマーケティング。消費者と企業が同じ思いを共有しより良い社会づくりを目指す取り組みですが、中には企業が批判を浴びてしまう失敗例も存在します。
コーズマーケティングを企画する前に、過去の事例から成功例・失敗例を学びポイントをおさえましょう。

コーズマーケティングとは?

コーズマーケティング(またはコーズ・リレーティッド・マーケティングCRM:cause-related-marketing)は、自社商品・サービスの売上の一部を特定のNPO団体に寄付するキャンペーンなどを実施し、商品の購入を促進する手法のことを指します。または、商品の販売や広告を通じて、特定の団体や社会的課題に関する情報を発信し、行動変化を促す企画や支援を指すこともあります。

みなさんもパッケージに「この商品の売上の一部は途上国の子どもたちのために学校をつくる活動を行う団体●●に寄付されます」といったメッセージが記載されている商品を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
コーズマーケティングはアメリカの経営学者であるフィリップ・コトラー氏が企業の社会貢献にマーケティングを応用することを提唱したものです。
コーズマーケティングという言葉を構成している英語のCauseには「社会的大義」の意味があり、またMarketingは「売れる仕組みを考える活動」を指すビジネス用語です。コーズマーケティングを実施する背景には、利益と社会貢献を結び付けながら、販売促進、企業のブランドイメージの向上につなげたいなどの企業側の意図があります。

コーズマーケティングの目的

企業がコーズマーケティングを実施する目的や期待される効果には、以下のようなものが挙げられます。

  • 社会・環境貢献

もっとも大事なのは企業側が社会・環境貢献に寄与したいという目的がゆるぎないことです。企業が寄付先を検討する際は、事業内容と関連性のある団体や、災害発生地域など今すぐ支援が必要な先などが候補となります。取り組むべき社会課題は、自社にとっての重要度や社会にとっての緊急性などを加味して決定します。

  • 非営利組織・社会課題の認知度向上

企業が商品販売と結び付けたキャンペーンを行うことで、消費者の目に届きにくい非営利団体の取り組みや社会課題を世の中に周知することができます。非営利団体側にとっては、マーケティング力を持つ企業という力強いパートナーを得られるとともに、活動資金の調達経路が増えることになります。

  • 社員・販売スタッフの意識向上

自社の寄付つき商品が売れるほど社会貢献へとつながるため、営業職や販売スタッフの社会参加意識を刺激し、自分の仕事に誇りを持って働けるようになるきっかけとなります。

  • 消費者の興味・関心の引き付け

従来の商品購入者に加え、社会の役に立ちたい意識を持つ消費者層の興味を引き付けることができます。また消費者側は、身近な商品を通じて社会問題に触れるとともに、購入により間接的に支援できます。

  • 商品の販売促進

社会性のあるメッセージを付与することで、他社商品との差別化を図ることができます。また同じ価格や品質の中から寄付つき商品を選んで購入することで、消費者は「善い行い(買い物)をした」という満足感が得られます。その結果、顧客満足度を向上しながら販売促進も目指せる手法として効果的です。

  • 企業イメージの向上

企業が積極的に社会課題の解決に関与し支援することは、社会の期待に応え、評判やイメージを高める効果が見込めます。結果としてブランドを向上させ、売上やファンを増やすことにつながることが期待できます。

失敗するコーズマーケティング

社会的意義があるコーズマーケティングですが、中には失敗するケースも存在します。社会貢献をしないといけないから仕方なくやっている、企業ブランディングとして一時的に実施している、競合他社がはじめたから自社も乗り遅れないためにやる、儲かりそうだからキャンペーンをする、消費者の善意を利用した販売促進であるなど、企業側の営利的な思惑が先行している企画は、消費者に見透かされ反感を買ってしまいます。そして結果的に企業のブランド価値が低下してしまう恐れがあります。具体的にコーズマーケティングの失敗例にはどのようなケースがあるのか見てみましょう。

  • 商品や事業内容とコーズ(寄付・支援先)がマッチしていない

乳がん啓発キャンペーンのピンクリボン運動は世界中で取り組まれている活動です。フライドチキンを販売するKFCは2010年にこの運動に参加しましたが、KFCの高脂肪なフライドチキンが肥満を引き起こすこと、そして肥満が乳がん発生と関係性があることが指摘され、KFCがピンクリボン運動に参加するのはふさわしくないとの批判を浴びました。この事例は、自社の商品や事業内容と選定したコーズ(寄付・支援先)のミスマッチが原因です。KFCはこの一件の後、支援先を飢餓撲滅キャンペーンに変更しました。

  • 見せかけの環境保護(グリーンウォッシュ)

コアラのマーチを販売するロッテは、1994年からコアラの保護や研究を行う「オーストラリア・コアラ基金」に参加しています。この事例は商品キャラクターと保護対象動物が一致していて一見すると良い支援マッチングに思われますが、その一方で同社のチョコレート製品やアイスクリーム製品に使用されているパーム油が、環境破壊や生物多様性へ悪影響を引き起こしている問題が存在します。パーム油は加工が容易なため日本の食品に多用されていますが、パーム油の原料を栽培するアブラヤシ農園の急速な開拓で森林伐採が進んだことから、マレーシアやインドネシアなどの東南アジア地域では希少種や絶滅危惧種などの生物の生息地が失われています。マスコットキャラクターの動物(コアラ)を保護しているにもかかわらず、その他の生物への配慮が足りない原料調達姿勢は、NGO団体などから指摘を受けています。

なお、ロッテはこの現状を改善するため、2023年度までに国内で調達するパーム油を、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証などの第三者認証油に100%切り替えること、2028年度までには海外のグループ会社でも100%実現することを目標に掲げています。

コーズマーケティングを成功に導くためのコツ

コーズマーケティングを成功に導くポイント、過去の失敗例から学べる点を整理し、以下5点にまとめました。

  • 対象商品とコーズ(寄付・支援先)の関連性、整合性は適切か?矛盾を感じさせないか?
  • 見せかけだけの寄付だと判断されないよう、寄付以外に関する社会的責任の姿勢(調達方法・労働慣行・コンプライアンスなどのCSR情報)もステークホルダーに発信しているか?
  • 「売上の一部を寄付」など曖昧な表記は回避し、「100円につき1円寄付」など、だれが見ても売上と寄付の成果がわかるように数値化されているか?
  • 商品を購入してくれた人に対する誠実な対応はできているか?集計後の寄付金額や寄付金の使途などの報告ができているか?
  • 寄付・支援先側のスクリーニングは事前に実施しているか?(支援金や災害補助金を悪用する団体も存在するため、寄付先としてふさわしい団体かを事前に見極める必要があります。面談や電話応答などで非営利組織側の担当者と直接話をして信頼関係を構築することも大切です。)

また、コーズマーケティングは商品のプロモーションや企業イメージの向上を図るといった、営業戦略の一環として実施されることが多々あります。実際にコーズマーケティングを企画・実行する場合は、企業のCSR部門だけで主導するのではなく、営業・マーケティング部門や広報・広告部門とも連携し、しっかり目的共有すること、あらかじめ役割分担を明確にしておくことが重要です。

コーズマーケティングの実施プロセスの一例

コーズマーケティングを実際に企画・実行する際は、以下の手順例で進めることができます。

  1. 寄付先の選定(事業との関連性、支援の緊急度などを加味して検討)
  2. 寄付連動型とする販売期間の設定(営業・販売部門との連携、情報共有)
  3. 売上確定後の寄付実施フロー事前確認
  4. 商品パッケージ変更の検討、プロモーション方法検討
  5. 販売実施(期間限定または通年)
  6. 結果検証(売上額・寄付金額の集計)
  7. 寄付の実施
  8. 消費者やステークホルダーへの報告
  9. 次回の企画検討

日本におけるコーズマーケティングの事例

日本の企業が国内で実施したコーズマーケティングの成功事例を見てみましょう。

イオン株式会社
「幸せの黄色いレシートキャンペーン」

  • 実施期間:2001年~2019年2月(執筆時点での最新情報)
  • 寄付金額: 累計37億5375万円相当の品物を贈呈
  • 寄付先:福祉、環境、街づくり、文化・芸術など、全国26044の団体(応援したい団体は消費者が選定)
  • 内容:毎月11日に設定されている「イオンデー」にはレジ精算時に黄色いレシートが発行される。黄色いレシートを受け取った購入者は、地域ボランティア団体名が書かれた店内備え付けのBOXに任意で投函。レシート合計の1%分の品物をイオンが各団体に寄贈する取り組み。

*黄色いレシートキャンペーン

王子ネピア株式会社
「ネピア 千のトイレプロジェクト」

  • 実施期間:2008年~2020年現在進行中
  • 寄付金額:累計1億8242万5114円、トイレづくり支援1万9000件(2019年8月時点)
  • 寄付先:日本ユニセフ協会/ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)を通じた、東ティモールへの支援
  • 内容:キャンペーン期間中の対象商品の売上の一部で、ユニセフの「水と衛生に関する支援活動」をサポート。アジアで一番若い独立国である東ティモールを支援対象国として、屋外排泄の根絶を目指す活動を実施。ユニセフや現地NGOの指導のもと、すでに約1万9000件のトイレが完成。

*千のトイレプロジェクト

キリンビバレッジ株式会社
「ボルヴィック-ユニセフ「1Lfor 10L」プログラム」

  • 実施期間:2007年~2016年
  • 寄付金額:累計3億228万57円、清潔な水供給量50億3681万7768L
  • 寄付先:日本ユニセフ協会/ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)を通じた、アフリカ・マリ共和国への支援
  • 内容:ユニセフが開発途上国を中心に世界各地で実施している水と衛生に関するプロジェクトを、ボルヴィックブランドを通じて支援。日本で最初にコーズマーケティングを広めたきっかけといわれているキャンペーンの成功事例。元々は2005年のドイツから始まり、2006年にフランスでも展開、2007年からは日本においても10年間にわたり実施されました。

*ワンリッターフォーテンリッター

おわりに

マーケティングという市場を動かす手法で社会課題を解決に導くことができるのは、消費者との距離が近い企業ならではの方法です。自社や業界の特性を活かし、消費者が共感するストーリー性のあるコーズマーケティングを企画しましょう。
そのうえで忘れてはならないのは、あくまでもコーズマーケティングで寄与できるのは数ある社会課題のうちのごく一部であるということ。社会は常に動いているため、企業活動に関わる課題も日々変化しています。コーズマーケティングに注力するとともに、企業の社会的責任に関するアンテナ感度を高め改善しつづけることで、より多くのステークホルダーの幸せを実現しましょう。

EnergyShift編集部
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