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GX時代の企業経営とは?先進事例をご紹介

GX時代の企業経営とは?先進事例をご紹介

2021年04月12日

地球温暖化による脅威と、それを食い止めるための世界的な脱炭素の潮流によって、GX(グリーン・トランスフォーメーション)という概念が世界中で浸透し始めています。GXとは、「温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーなどのグリーンエネルギーに転換することで、地球環境を変革させる」という概念であり、日本の産業構造やビジネスモデルを抜本的に変えるといわれています。

そこで今回は、GX時代におけるグローバル企業、および日本企業の先進事例をご紹介します。

脱炭素に向けGXが転換させたグローバル企業の経営とは

「地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出源である化石燃料から再生可能エネルギーへの転換に向け、社会経済を変革させる」GX(グリーン・トランスフォーメーション)の浸透は、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、アップルといった巨大IT企業の価値観すら大きく変えています。GXは、巨大IT4社の経営をどのように変えたのか、まずは解説していきます。

マイクロソフト

マイクロソフトは2020年1月、2030年までに毎年排出する二酸化炭素より多くの二酸化炭素を除去する「カーボンネガティブ」を達成し、さらに2050年までに、1975年の創業以来排出してきた二酸化炭素をすべて回収する、「カーボンマイナス」を実現すると発表しました。

さらに、世界中のサプライヤーやユーザーがカーボンフットプリント※を削減できるよう、二酸化炭素の削減・回収・除去技術における開発を支援するため、10億ドル(約1,055億円)規模の気候イノベーションファンドも設立しています。

  • カーボンフットプリントとは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量を二酸化炭素に換算したもの。

また、サプライチェーンの購買プロセスにおいて、二酸化炭素排出量の削減を重要な考慮点とするとも述べており、2020年7月より、サプライヤーに対してGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出量レポーティング、および排出削減に向けた計画の提出を求めています。

アマゾン

アマゾンは2019年9月、パリ協定の目標を10年前倒しし、2040年までにネット・ゼロ(実質ゼロ)カーボンの実現を目指す、「The Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)」を設立しました。The Climate Pledgeは、アマゾンと気候変動枠組条約(UNFCCC)の第4代事務局長を務めたクリスティアナ・フィゲレス氏が創設したGlobal Optimismが共同で創設した気候変動イニシアチブです。先述したマイクロソフトやウーバー、ユニリーバ、IBMなどグローバル企業が参加しており、参加企業は53社になっています(2021年2月末時点)。

アマゾンは2020年6月、20億ドル(約2,085億円)の「Climate Pledge Fund」も創設しており、このファンドを通じて脱炭素社会に対する革新的な技術やサービス開発などを支援することで、パリ協定の目標を10年前倒しし、2040年までにネット・ゼロカーボンの実現を目指しています。

このほか、アマゾンは4億4,000万ドルを出資した電気自動車(EV)メーカー、リビアンから配送用EVを10万台購入することを決定しており、2030年までに二酸化炭素排出量を年間400万トン削減する計画です。

さらに、グローバルのインフラを100%再生可能エネルギーで運用するという長期目標も掲げています。具体的には、2024年までに再生可能エネルギーの電力比率を80%、2030年までに100%を達成する計画で、再生可能エネルギーへの大規模な投資を進めています。すでに風力発電や太陽光発電などに関して、15以上のプロジェクトを立ち上げており、今後、米国の一般家庭36万8,000世帯の電力消費量をまかなうのに十分な、年間1,300MWの再生可能エネルギーと380万MWのクリーンエネルギーを供給すると表明済みです。

グーグル

グーグルは2020年9月、グローバル企業として初めて、1998年の創業から、カーボンニュートラルを達成した2007年までに排出した「カーボンレガシー(二酸化炭素排出量の遺産)」をすべてオフセット(相殺)し、ゼロにしたと発表しました。

さらに2030年までに世界中の事業所やデータセンターなどすべてにおいて、24時間365日、二酸化炭素を排出しないカーボンフリーエネルギーに転換することも表明しています。グーグルはこの挑戦を「現実的にも技術的にも非常に複雑で、これまでで最大のサステナビリティの“ムーンショット”※」と位置づけています。

  • 未来社会を展望し、困難な、あるいは莫大な費用がかかるが、実現すれば大きなインパクトをもたらす壮大な目標や挑戦のこと

この目標達成に向けて、風力発電と太陽光発電の発電を組み合わせ、バッテリー貯蔵の利用量を増やし、電力需要や予測を最適化するためのAI活用などにも取り組むとしています。

さらに2030年までに50億ドル(約5,275億円)以上を投資し、世界の主要な製造地域に5GWのカーボンフリーエネルギー(風力発電、太陽光発電、地熱発電、バイオマス発電、原子力、水力発電、揚水発電、蓄電池)の利用を実現し、これらによって最大2万人以上の雇用創出が見込めるといいます。カーボンフリーエネルギーの供給によって、500以上の年で年間1ギガトン以上の二酸化炭素排出量を削減する計画です。

2020年8月には、環境・社会の課題解決に取り組むイニシアチブのために57億5,000万ドル(約6,060億円)のサステナビリティ・ボンドを発行しています。

アップル

アップルは、2018年にデータセンターなどで使う電力を風力発電などでまかなうことによって、カーボンニュートラルを達成しています。2020年7月には、さらに一歩踏み込み、製造サプライチェーン、製品ライフサイクルのすべてを通じて、2030年までにカーボンニュートラルを目指すと表明したのでした。

ソフトバンクグループの創業者である孫正義氏が設立した自然エネルギー財団によると、これまでに世界17ヶ国、71社のサプライヤーが、アップル向けの製品・部品・原材料を再生可能エネルギー100%で生産することを約束しています。中国のサプライヤーが多いものの、日本からは8社のサプライヤーが2030年ネットゼロ(実質ゼロ)を目指し、取り組みを強化しています。その8社とは、イビデン、太陽ホールディングス、日本電産、ソニーセミコンダクタ、セイコーアドバンス、日東電工、恵和、デクセリアルズです。8社以外にもアップル向けに製品・部品・原材料を供給している日本企業は数多くあり、アップルとの取引を継続するためには、2030年よりも前に再生可能エネルギー100%による生産を開始する必要があります。

世界で加速するGX

地球温暖化の脅威を食い止めるためには、地球規模で対策を展開する必要があります。世界中で環境や社会を修復し、再生させるビジネスモデルへの変革が迫られる中、巨大IT企業などは2020年を境にして、サプライチェーン全体での脱炭素化、エネルギー転換、イノベーションへの投資といったGXを加速させ始めました。

こうした取り組みは、自動車メーカーや食品・日用品メーカーなどさまざまな産業に波及しており、日本企業にもカーボンニュートラルの達成を迫るプレッシャーはますます増加していくことが予想されています。

日本企業によるGXの先行事例

企業成長と脱炭素を両立させようと、日本企業もGXを積極的に進めています。ここからは、日本における先進事例を紹介していきます。

NTT

NTTは、日本全体の総電力消費量のうち、約1%を消費する大需要家です。しかも、デジタル化の大きな流れの中で、電力消費量はさらに増加する傾向にあります。

その一方で、2019年の台風15号による千葉県内の停電、北海道胆振東部地震によるブラックアウト(電源喪失)など、自然災害による大規模停電が続いています。澤田純NTT代表取締役社長は、経済産業省の諮問委員会において、「このままでは、私どもの事業が継続できないと考え、経営方針を転換させた」と述べ、「再生可能エネルギーに投資し、現在4%の再エネ比率を2030年までに30%に増やす10年計画を策定」したと表明しました。

NTTは全国に約7,300もの通信ビルを所有しています。このビル内に大容量の蓄電池を設置し、「蓄電所」になれば、天候などで発電量が変動する再エネの需給調整役が担えると考えています。さらに全国に1万台強ある社有車をEVに切り替え、蓄電所やEVに貯めた再エネ電力を病院や企業、自治体に供給することで、災害時におけるレジリエンスの向上も目指しています。

戸田建設

日本政府は、太陽光発電と並んで洋上風力発電を再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札だと位置づけています。洋上風力発電の中でも、洋上に浮かんだ浮体式構造物を利用する浮体式洋上風力発電において、日本で初めて設置・実証運用したのが戸田建設です。戸田建設は日本で最初に再エネ海域利用法※による指定を受けた長崎県五島市沖での「五島市沖洋上風力発電事業」への挑戦など、普及拡大に取り組んでいます。

  • 再エネ海域利用法とは、洋上風力発電事業を一般海域内で行う「促進区域」を国が指定し、その促進区域内で最大30年間の占有許可を事業者が得ることができる法律

2050年の日本では、1兆2,000億kWhの電力が必要と考えられていますが、IEA(国際エネルギー機関)の報告書によれば、日本の浮体式洋上風力発電のポテンシャルは9兆kWhと、7.5倍にもおよび、浮体式の実用化がネット・ゼロ社会実現のカギだとされています。しかし、浮体式はコストが高いと考えられており、世界でも普及が始まったばかりです。一方、日本は浮体式の技術では世界トップ3におり、世界をリードできる産業競争力があります。そこで、戸田建設では普及促進のカギとされる「量産化」と「施工の効率化」によるコスト削減に取り組んでいます。戸田建設による具体的な取り組みは次の通りです。

  • ハイブリッドスパー構造:一般的なコンクリートと鋼材を使った単純な円筒構造を採用することで、小規模な鉄工所や中小建設会社での建造が可能になる。
  • 省面積高速化建造システム:生産を工場のようにライン化し、地域の小規模な港湾においても量産を可能とする。
  • 半潜水型スパッド船と多機能船:浮体式の建設のために、2隻の専用船を自社で建造、保有することで、現地施工を効率化し、期間を短縮、設置コストを大幅に削減する。

このように、戸田建設ではAnyone(地域の会社で)、Anywhere(地域の港湾で)、As You Like(地域のニーズに合わせた)トータルソリューションの提供によって、浮体式洋上風力発電の大量生産と大量設置の実現に向け、挑戦しています。

日産自動車

日本政府は2020年末、国内で販売する新車(乗用車)を2035年までに100%電動車にする方針を掲げました。日産自動車はEVを普及拡大することで、新たな自動車から排出される二酸化炭素を2050年までに2000年比で90%削減させる長期ビジョンを掲げています。

取り組みの中心は、世界初の量産型EVとして、2010年12月に日本で発売した「日産LEAF」です。すでに世界55の市場で販売し、2019年12月時点で累積販売台数は45万台を超えています。日産自動車では、100%EVなど製品ラインアップの拡大を進め、2022年度までに年間100万台(e-POWER搭載車含む)の販売目標を表明しています。

またEVはクルマとしての機能だけでなく、余った再生可能エネルギーを充放電できる充電池としての機能も発揮します。再生可能エネルギーなどを充放電するエネルギーマネジメントによって、再生可能エネルギーの導入拡大や、災害時における電力供給などでの活躍が期待されています。すでに27の自治体・企業と災害連携協定を締結済みでもあります。日産自動車はクルマの販売にとどまらず、EVを通じた防災や温暖化対策など脱炭素社会の実現、そして人々のライフスタイルを変える新たなモビリティ社会の構築を目指しています。

ENEOSホールディングス

ENEOSホールディングスは、2019年5月に策定した「2040年長期ビジョン」において、2040年カーボンニュートラルの実現を掲げました。ENEOSグループの中核事業会社であるENEOSは、燃料電池自動車(FCV)や燃料電池バス(FCバス)などのモビリティ分野における低炭素化に貢献するため、水素ステーション事業を推進しています。炭素分を含まず、利用時に二酸化炭素をいっさい排出しない水素への関心は世界中で高まっています。

ENEOSは、世界初となる量産型FCVの国内販売開始に合わせて、2014年12月に初の水素ステーションを開業して以来、国内最多となる41ヶ所の水素ステーションを運営しています(2020年1月時点)。日本政府が掲げた普及目標では、2030年にFCV80万台、水素ステーション900ヶ所相当となっています。しかし、2020年1月時点での国内の水素ステーション数は113ヶ所しかなく、政府目標とまだ乖離があります。ENEOSでは、水素ステーションの建設費や運営費の削減などに取り組み、水素ステーションの整備を進めていく方針です。

またENEOSでは、再生可能エネルギーの主力電源化や、2040年カーボンニュートラルを実現するため、2019年に台湾の洋上風力発電へ参画し、640MWのプロジェクトを推進しています。さらに2020年9月には、秋田県八峰能代沖の洋上風力発電プロジェクトの参画も表明。2030年までに洋上風力発電の規模を数GWまで増やす計画です。

おわりに

持続的な企業成長、そして脱炭素化を目指すGXへの取り組みは、日本企業でも加速しています。逆に、GXに本気で取り組まない企業は、金融機関などから持続的な成長が見込めないと判断され、「資金調達が困難になるおそれ」さえあります。さらに、グローバル企業のサプライチェーンから外されるリスクも高まってしまいます。

今はグローバル企業がGXを先導していますが、日本企業もGXが示す意味を理解し、ビジネスモデルの変革に挑戦し始めました。日本の産業競争力を向上させる意味でも、日本企業のGXに期待したいですね。

EnergyShift編集部
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