2040年に水素事業で5,000億円規模を目指す川崎重工、計画の上方修正もあり株価は水素事業を織り込み始める 【脱炭素銘柄】 | EnergyShift

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2040年に水素事業で5,000億円規模を目指す川崎重工、計画の上方修正もあり株価は水素事業を織り込み始める 【脱炭素銘柄】

2040年に水素事業で5,000億円規模を目指す川崎重工、計画の上方修正もあり株価は水素事業を織り込み始める 【脱炭素銘柄】

2021年07月08日

川崎重工が水素事業の立ち上げに注力している。水素の「つくる・はこぶ・ためる・つかう」の各領域に関与するなど水素事業で複合的な事業展開を目指しており、2040年には5,000億円の事業規模とする計画だ。

株価面では過去の予想PERの比較で既に若干割高な状態にあり、水素事業の成長を株価は織り込み始めている。今後の水素事業の成長とともに株価も更に上昇することになるのか注目される。

複合的な水素事業の展開を計画する川崎重工

脱炭素の流れが加速する中で、川崎重工<7012>が水素事業の立ち上げに注力している。同社の水素事業は「つくる(水素製造・液化)・はこぶ(液化水素運搬船)・ためる(液化水素タンク)・つかう(水素発電・モビリティ)」の複合的な事業を展開する

特に「はこぶ」では、世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を開発し2021年5月に発表した。「すいそ ふろんてぃあ」の貨物格納設備はマイナス253度に冷却して体積を800分の1にした極低温の液化水素の大量海上輸送が可能であり、船舶用の液化水素貨物格納設備としては世界最大の容積を有する。また今回開発した貨物格納設備を4基装備した16万立方メートル型大型液化水素運搬船について、2020年台半ばの実用化を目指している。

更に同社は水素を「つくる」領域へも進出しており、オーストラリアでJ-POWER(電源開発)、岩谷産業、丸紅等と組み褐炭を原料とする水素製造に関与している。オーストラリアで製造された水素は同社の水素運搬船を利用して国内に輸入され、同社が建設し岩谷産業が運用予定の水素貯蔵プラントで貯蔵される(「ためる」)。

また水素発電は2021年8月からプロジェクト開始の予定であり、エンジン分野では船舶用水素ガスエンジンを2025年に実船実証を開始する予定だ。

将来の水素事業の規模を2021年度に上方修正している

川崎重工は水素事業のこれまでの計画を2021年度に上方修正した。2021年度に策定された水素事業の成長イメージは下記である。

2020年実証実験
2025年1,000億円
2030年3,000億円(昨年度1,200億円)
2040年5,000億円(同3,000億円)

2040年の水素事業の規模について3,000億円を目指すとしていたが、今年度の計画では5,000億円の計画となっている。

4年後の2025年度は1,000億円であり前回の計画から変わりはないが、2030年は1,200億円を3,000億円に2倍以上の上方修正をしており、同社の水素事業への期待度は非常に高い。尚、2030年の水素事業の内訳は水素液化及び出荷基地など受入基地が各4割、液化水素運搬船が2割とイメージされている。

川崎重工の各部門の事業規模

2040年に水素事業で5,000億円の規模を目指す川崎重工だが、2021年3月期の各部門の事業規模(売上高)は下記である。

航空宇宙システム3,777億円
車両1,332億円
エネルギーソリューション&マリン3,195億円
精密機械・ロボット2,408億円
モーターサイクル&エンジン3,366億円
その他804億円

同社最大の事業は航空エンジンなどを手掛ける航空宇宙システム部門であり、2021年3月期は売上高3,777億円、営業損益▲316億円(コロナ禍による航空機需要の消滅により赤字、2020年3月期は売上高5,325億円、営業損益427億円)となった。2040年度に水素事業が5,000億円規模となれば、水素事業は同社最大の事業部門となる可能性もある。

また2025年度で水素事業は1,000億円の計画であるが、車両事業が1,332億円であり4年後には車両事業に近い規模の事業が立ち上がることになる。

川崎重工の株価推移

川崎重工の株価は直近の10年間を見ると、2015年は6,000円台にあった。しかし2020年3月のコロナショック時に1,000円台半ばまで下落している。2020年後半から株価は上昇して2021年3月には2,800円台まで上昇しており、現在は若干下落した2,400円前後の水準で取引がなされている。

現在の予想PERは約23倍だ(2021年7月6日時点)。2021年3月期は赤字決算のため昨年の予想PER比較は出来ないが、2018~2019年の予想PERはほぼ20倍を割れており、現在の株価水準は過去の予想PERとの比較では若干割高の水準にある。

水素銘柄として話題となることも多い同社だが、予想PER20倍超えの水準をこのまま維持して、水素事業の立ち上がりによる利益成長で株価を更に押し上げることができるのか、今後の同社のEPS(1株当たり利益)の推移が注目される。

まとめ:水素事業5,000億円は野心的だが可能

川崎重工の各事業部門の規模を考えると、2040年に水素事業を5,000億円とする計画は野心的だ。ただし既存事業の組み換えにより水素事業はスタート時点で一定の事業規模とすることは可能と考えられる。

しかし水素事業で2040年に5,000億円を達成するには、現在実証実験を開始しているオーストラリアでの水素生産や水素運搬船の事業化が必要不可欠である。

同社は水素事業の計画を2021年度に上方修正しており、それだけの手応えを感じているといえる。2040年の事業規模5,000億円に向けて順調に水素事業は立ち上がるのか、既に予想PER面では過去に比べ買われている株価の行方とともに、その行方が注目される。

石井 僚一
石井 僚一

金融ライター。大手証券グループ投資会社を経て個人投資家・ライターに転身。株式市場や個別銘柄の財務分析、為替市場分析を得意としており、複数媒体に寄稿中。過去多数のIPOやM&Aに関与。ファンダメンタルズ分析に加え、個人投資家としてテクニカル分析も得意としている。

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