100年来の大寒波に耐えたテキサス電力システム | EnergyShift

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100年来の大寒波に耐えたテキサス電力システム

100年来の大寒波に耐えたテキサス電力システム

2021年02月22日

2月中旬に4日半にわたり生じたテキサス州の停電について、状況・要因・電力システムの果たした役割、そして今後の見通しについて、エネルギー戦略研究所 取締役研究所長の山家公雄氏が解説する。容量市場を持たないエネルギ-オンリーマーケットとして評判のテキサスのERCOT市場であるが、同市場は機能したのか、設計変更を余儀なくされるのか等についても考察する。

1.未経験の大寒波襲来で南部州テキサスは大混乱 

1-1. マイナス10℃を下回る大寒波が南部テキサス州に襲来

2月中旬、北極からカナダを経由して100年に1度の猛烈な寒波が米国を襲撃した。Winter-Stormは40州を覆い、特に中西部からメキシコ湾にかけて、広い帯のように厳寒、降雪、氷化・凍結状態に陥った。

最も被害が大きかったのがテキサス州で、州全体が積雪・凍結状態となり交通、水道、ガス・石油そして電力とあらゆるインフラ機能が麻痺した。テキサス州は南部州で、通常は気温が高く、猛暑による夏のピーク需要に備えている一方、冬季の厳気象に不慣れであることが被害を大きくした。気温は例年よりも12~13℃低く、ピークとなった2月16日にはダラス市で−15℃、オースチン市で−14℃、ヒューストン市で−12℃を記録した(図1)。まさに超異常気象、超激甚災害である。

図1 2021年2月16日の米国中西部主要都市の気温

2021年2月16日の米国中西部主要都市の気温
(出所)National Weather Service、Noaa

1-2. あらゆるインフラが麻痺状態に

同州では、2月12日(金)に緊急事態宣言が出された。

最大のエネルギ-源である天然ガスは供給不足が予想され、優先供給の方針が示された。病院、学校、福祉施設等の熱のhuman-needsが最優先で、電力向けはその次とされるとともに住宅、コミュニティ向けが産業よりも優先するとされた。

交通網は積雪・路面凍結により使用不能となり、また寸断された。水道への影響は大きく、各地で水道管破裂による断水、停電で浄水施設運転が滞り衛生上の問題が発生した。水を採る際は煮沸が必要とされ、町中での供給スポットも設置された。そして、長期間・広範囲の停電が発生した。

1-3. 4日半に及んだ緊急時運用で系統崩壊を防ぐ:供給量半減を制御

2月14日(日)の夕刻に、暖房需要急増により電力需要は冬季最大需要を大きく更新する69.2GWを記録した。

週明けの気温低下予想を受け、テキサス州電力需要の9割をカバーするISOのERCOT(アーコット)は、「緊急時送電運用」を決断し、15日(月)1:30にRolling-Blackout(以下、計画停電)を送配電事業者(Utility)に指示する(図2)。

気温低下で需要増と電源停止が予想され、供給不足による広域システムダウンを防ぐ必要があった。20GWをカットするべく各Utilityに削減量を割り振った。供給用に合わせた需要制御を行うのである。約30GWの電源が停止(オフライン)となり約250万軒が停電した。

図2 テキサス州の電力需給量の推移(ERCOT 2021/2/14~17正午)

テキサス州の電力需給量の推移
(出所)ERCOT

寒気は2月16日(火)にピークとなり、停電は430~450万軒に広がるが、これは全体の3分の1に相当する。17日(水)には厳寒が少し緩み、電源の戻りもあり、計画停電の時間は30分~60分と短縮される。

同日、ERCOTは電源停止の状況を公表する。全体で45GWがオフラインとなり、うち火力・原子力で28GW、風力で18GWである。約2分の1の電源が計画外停止となり、残った供給力50GWで需要を制御する運用を行ったのである(図2)。なお、長期計画停止電源は14GWあったが、これは除かれている。

2月18日(木)に停電開始後、始めて気温がゼロ℃以上となり、停電軒数も減少した(10:30時点で49万軒)。そして19日(金)の10:35にERCOTは緊急時運用から常時運用への切り替え、計画停電の終了を発表する。

こうして、月曜日早朝から金曜日午前中までの4日半にわたる計画停電は終了した。

関連記事:米国テキサス州、100年ぶりの大寒波で日本を上回る電力高騰。計画停電へ

2.大規模停電はどうして生じたのか

2-1. 停電の最大要因はガス火力停止

次に、4日半におよんだ「テキサス停電」の原因を整理する。

いうまでもなく想定をはるかに上回る厳しく大規模な北極寒気の南下による。100年来の未曽有の寒気が南部のテキサス州全体を覆った。暖房需要により電力需要は急増した。過去最大値を約3GW、秋の想定値を約2GW上回った。

しかし、主たる要因は供給側であり、異常寒気により予定されていた供給力の2分の1に相当する45GWもの電源が停止(オフライン)となったことだ。15~16日の気温急低下により、供給力が瞬時に消滅した訳であるが、これに尽きる

火力28GW(含む一基の原発)、風力18GW(含む太陽光)が停止に追い込まれる。停止した火力の殆どはガス火力であり「最大の要因はガス火力の停止である」とERCOTも説明をしている。

2-2. あらゆる電源種が凍結

今回は「供給力凍結」という表現もみられる。あらゆる電源が低温の影響を受けたのである。

まず風力であるが、風車が凍結した。ERCOTは風力と太陽光で18GW停止したと発表したが、このうち殆どは風力であり、設備容量22GWの2分の1は凍結した。これをもって、当初は再エネ原因論が登場した。厳気象下での太陽光、風力は役に立たないということである。

しかしアボット知事も当初言及したこの説を、ERCOTは否定し、最も影響があったのはガス火力発電だと説明した。

ERCOTが秋に想定したピーク時の供給力として、太陽光ゼロ、風力6GW、火力だけでも100%供給可能と保守的に見ていた。火力等は28GWの計画外停止があるが、うち1.2GWは原子力で殆どはガス火力とみられている。

火力の凍結とはどういうことであろうか。まず、発電設備として、寒さ対策が施されていないことである。寒冷地では一般的に設置される建屋が設けられていない。旺盛な夏季需要を考えると建屋がない方が効率がいい。また、安全運転に資する設備に防寒措置が施されていない。これは石炭、石油、原子力を問わず汽力発電共通の課題である。

2-3. 天然ガス燃料の凍結

しかし、最も影響が大きいのは、「天然ガスの凍結」である。十分な燃料が発電所に届かないのである。

異常寒気は天然ガスの生産や流通にも影響を及ぼす。テキサスは西部や湾岸を主に油田・ガス田の宝庫である。シェール革命の震源地として世界に供給しており、パイプラインも縦横に整備されている。しかし、「防寒対策」は十分ではなかった

ガス田では、厳寒の中での作業員のリスク管理は容易でない。インシュレーション巻き付け等防寒対策が不十分でガス管の凍結、不具合が生じた。地中よりポンプで汲み上げるが、電力不足のなかで滞ることになる。

最も冷え込んだ16日には天然ガス生産量は2分の1に減少した。テキサス州では、実はガス貯蔵が少ない。世界有数のガス田を抱えているが故に常時パイプラインで生ガスを供給できるからだ。また、冬場はガス需要が多く、電力への供給が優先される訳ではない。前述のように、当局(鉄道局)の指令により病院、学校、福祉施設等は電気よりも優先順位が高い。

3.ERCOT市場の機能発揮と今後の課題

3-1. テキサス電力市場は機能し、広域ブラックアウトを防いだ

こうした中、エネルギ-オンリーマーケットで効率的とされるERCOT市場は機能したのだろうか。

図3は、12日10時から19日15時までのリアルタイム市場価格の推移である。ピーク需要を記録した14日夜に向けて、急上昇し上限値である9,000ドル/MWh(9ドル/kWh)に達した。緊急時運用(計画停電)開始時に一旦低下したが、すぐに上限値まで上がり張り付いた。そして19日午前の緊急時運用終了宣言直後に、一気にノーマル水準まで低下している。

なお、ERCOT市場の価格スパイクは、2011年の冬季・夏季、2019年の夏季に生じており、それ以外の時期は全米でも低い水準で推移してきている。低価格の時期が長いので、発電事業者は投資回収が難しいと批判するが、需要家の評価は高い。

図3 ERCOTのリアルタイム市場価格の推移(2021/2/12~19)単位:ドル/MWh

ERCOTのリアルタイム市場価格の推移
(出所)ERCOT

図3であるが、100年来の異常気象の下、あらゆるインフラがダメージを受けるなかで、市場を閉じることなく、価格シグナルを送り続けたことが分る。また、手順に沿って自主的な節電要請から計画停電に移行し、時々刻々変わる供給力に見合うように需要を制御した。

筆者は、ERCOT市場は状況に応じて機敏に正確に価格シグナルを送り続け、広域ブラックアウトを防いだと評価する。前述のように、計画停電開始時に20GWを目途に需要制御を指示しているが、30GW程度必要だったとの分析もある。しかし、市場が9,000ドル/MWhを記録し自主的な削減が始まっており、これを織り込んで低めの数字で指示を出したとの指摘もある。

なお、日本では12月下旬から1月下旬にかけた約1ヶ月、数年に一度の寒気のなかでスポット価格は高水準に張り付いた。需給状況と価格動向が必ずしもパラレルに動いておらず、市場価格の指標性に疑問符がついた。

関連記事:日本の2021年冬の電力ひっ迫記事一覧

3-2. 検証すべき対策はWinterization(防寒対策)であり容量市場ではない

もっとも、4日半に及ぶ大規模な計画停電が実施されたことへの反響は大きく、アボット知事は15~16日に、防寒対策が不十分として発電事業者やERCOTを批判した。また、州議会等での検証と対策検討を表明した。地元報道等を確認してみると、初期段階こそ再エネ原因説や予備力不足説が出ていたが、直ぐに「天然ガス火力凍結」が最大の原因という認識に落ち着いた(ERCOTもそのように説明)。

防寒対策はWeatherizationあるいはWinterizationと称されるが、その対策が主役になるのであろう。既にERCOTやERCOTを監督するPUCT(Public Utility Commission of Texas 公益事業委員会)には、対策が不十分だったのではとの批判が寄せられている。

冬季の停電と価格スパイクは2011年に経験しており、当時も同様な議論が起きて、防寒対策を決めている。

しかし、今回の厳寒は想定を大きく上回っていた。新たな基準と対策が導入されることになろう。課題は、防寒対策費用をどのように賄うかである。エネルギ-オンリー市場であり、価格機能により回収することが基本となるのだろう。

柔軟な予備力を追加的に確保する方策としてストレージ取引が容易になる市場設計が提案される可能性がある。また、主要エネルギ-源である天然ガスのレジリエンス上の課題が浮き彫りになる中で、石炭火力を戦略的な予備力として位置づけるかもしれない。これらは、北東部のISO/RTOにおいて経験されており、参考になる対策が講じられている。

いずれにしても、容量市場創設の議論は、筆者が確認した限りでは、少なくとも責任ある立場の方は言及していない。今回は、供給力は存在したが防寒対策不十分、燃料制約により供給力の2分の1が停止・出力低下を余儀なくされた。それが主因である。2011年のときは、自由化後初の事件であり、容量市場が真剣に議論されたが、導入しないとの結論となった。そして現在に至っている。

山家公雄
山家公雄

エネルギー戦略研究所㈱取締役研究所長、京都大学特任教授、豊田合成㈱取締役、山形県総合エネルギーアドバイザ- 1956年山形県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。電力、物流、食品業界等の担当を経て、2004年環境・エネルギー部次長、調査部審議役等を歴任。2009年より現職。融資、調査、海外業務などの経験から、政策的、国際的およびプロジェクト的な視点から総合的に環境・エネルギー政策を注視し続けてきた。 著書は、「日本の電力ネットワーク改革」2020年、「日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する」2020年、「テキサスに学ぶ驚異の電力システム」2019年、「第5次エネルギー基本計画を読み解く」2018年、「アメリカの電力革命」2017年編著、「再生可能エネルギー政策の国際比較」2017年編著、「ドイツエネルギー変革の真実」2015年、「再生可能エネルギーの真実」2013年、など多数。

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