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イオンのDNAは気候変動リスクに立ち向かう イオン株式会社インタビュー(1)

イオンのDNAは気候変動リスクに立ち向かう イオン株式会社インタビュー(1)

2019年11月07日

日本全体の総電力消費量8,505億kWh/年のうち、一社で電力消費量74億kWh/年、約1%を消費している企業が、大手小売企業「イオン」だ*1。2008年に日本の小売企業として初めてCO2削減目標を出すなど、環境への意識は高い。2018年3月には、いち早くRE100を宣言、脱炭素へ大きく舵を切った。同社が脱炭素をめざす理由と、再エネ調達など脱炭素実現に向けた取り組みをイオン株式会社 環境・社会貢献部 部長 鈴木隆博氏に聞いた。

後編はこちら

長年、環境に取り組んできた「イオン」のDNA

―日本企業の中でも、いち早く脱炭素やRE100に舵を切ったのはどうしてでしょうか?

鈴木隆博氏:創業者である岡田卓也は環境保全や地域社会への貢献について強い想いがあり、「小売業としてできることは何か」と考え、店舗周辺での“植樹”や“従業員による清掃ボランティア” 等の活動を開始し、それ以来30年にわたって様々な活動を続けています。ビジネスと地域社会への貢献を両立させる、というDNAがイオンにはあり、私たち従業員はこれを受け継いできました。

“温暖化防止”に対して動き出すのも早く、2008年には「イオン温暖化防止宣言」として、小売企業として初めてCO2削減目標を出しました。185万トンのCO2削減目標でしたが、2011年に計画を一年前倒しして達成できました。次に打ち出したのが「イオンのecoプロジェクト(2012-2020年)」で、「へらそう」「つくろう」「まもろう」の三つがキーワードです。

イオン株式会社 環境・社会貢献部 部長 鈴木隆博氏

海外も含めると2万2千近い店舗を運営するイオングループには、年間で36億人のお客様がご来店されます。店舗を運営し、快適に過ごしていただける環境を維持するため、使う電気量も、事業に伴って排出するCO2も非常に多い。CO2削減にいち早く取り組むのは当然のことだと考え、低炭素社会をめざしてこのように様々なプロジェクトを行ってきました。

そんな中、低炭素だけでよいのか、ということに気づかされたのは、2015年のパリ協定の発効とSDGsの採択でした。今までの低炭素戦略で、将来の地球温暖化防止にどれだけ貢献できるのか。パリ協定が目指す2度未満、さらには1.5度未満の目標を達成できるのかを考えた結果、思い切って“脱炭素”に舵を切ることに決めたのです。

そして2018年に「イオン 脱炭素ビジョン2050」を策定し、これに伴って「RE100」に参画しました。脱炭素ビジョンにおいては、2050年までにCO2等の排出量を総量でゼロをめざします。中間目標としては、2030年にCO2排出量を2010年比で35%削減します。

気候変動は経営リスク。2018年度の災害による損失は約70億円

― 世界的に脱炭素の取り組みは、度重なる異常気象への人々の危機感が動機となっているようですが、イオンはどうでしょうか。

鈴木氏:「イオン 脱炭素ビジョン2050」を策定する際、世界全体で脱炭素が進まず気温が上昇した場合に何が起こるかを当社でも独自に研究しました。当然、その一つに「経営に対するリスク」がありました。

まず、異常気象等の影響で店舗そのものが損害を受ける「物理的リスク」です。実際、西日本豪雨や九州豪雨のあった2018年では、店舗等の被害額は年間70億円を超えました。ただこれは、ハード面でのダメージのみの額です。

店舗の損壊等により通常の営業ができなくなることで、お客様に私たちのサービスを提供できない、というソフト面でのダメージはさらに大きいと考えます。
そうなるとビジネスが成り立たないのと同時に、「商品を安定的に供給して、その地域の暮らしに貢献する」という小売業の使命を果たせなくなってしまいます。このことに対して、現場も私たちも危機感を募らせていました。

もう一つは、商品調達への影響です。食糧をはじめ、私達が販売する商品はグローバルに調達しています。気候変動により収穫量が減ったり、産地が変わったりすると安定供給が脅かされます。事業活動を持続するためにも、気候変動は私たちが率先して取り組むべき課題なのです。

脱炭素ビジョン2050とRE100宣言へ「再エネ」と「省エネ」

― 目標達成は簡単ではないと思いますが、秘策はあるのでしょうか?

鈴木氏:今までCO2削減に取り組んできた経験から、2050年までにCO2等排出量をゼロにすることはハードルが高いとわかっています。これまでやってきたことの積み上げだけでは、目標達成は望めません。そこで、使う電力を可能な限り減らす「省エネ」に加え、電力を再生可能エネルギーに切り替える「再エネ」を強力に推進することにしました。この組み合わせで2050年のCO2排出量ゼロを目指そうとしています。

「省エネ」については、これまでも積極的に取り組み、2010年比で25%削減してきました。我々は小売業であり、独自の技術を持っているというわけではありませんので、省エネ技術を持つパートナー企業の協力を得て、店舗のエネルギー効率を最適化するために研究しています。

「再エネ」についてもすでに店舗の屋上に太陽光パネルを設置しています。2018年3月に開店したイオンモール座間を例にしてみますと、太陽光パネルで1,000kWの発電能力があり、店舗全体の照明をLEDにしたり、空調等の効率化による「省エネ」と合わせてイオンの標準店舗よりもCO2排出量を30%削減することを目指しています。

イオンモール座間

ただ、私たちが使っている電力すべてを再エネに変えるには、自らの発電量だけでは全く足りません。この問題に対しても、電力会社等を含めたパートナーと新たな取り組みを始めています。

「脱炭素ビジョン2050」を策定し、イオンは「使う電気をすべて再エネに変えていく」と宣言をしたことで「こういう再エネをイオンに提供できる」という様々な提案を頂くようになりました。

「省エネ」と「再エネ」、いずれもイオンだけではできないので、「皆さん一緒にやりましょう」という姿勢で進めています。

PPAモデルを実践できた理由とは

― 再エネの調達について、もう少し具体的に教えてください。

鈴木氏:再エネの調達手段はいくつかありますが、店舗で発電する「オンサイト」を最優先にしています。まずは屋上に太陽光パネルをつけようと、FIT制度が始まる前から再エネを導入してきました。 どれくらいの発電量があるかと言いますと、現状の店舗での太陽光発電は先ほどのイオンモール座間のような店舗など全てを集めても、7万kW弱、発電量で言うと、約6,800万kWhです。グループ全体の年間電力消費量は74億kWhですので、1%に満たないのです*2

必要量を賄うには、大きく考えを転換する必要があります。そのひとつが、PPA(電力販売契約)の導入です。

私たちの再エネ電力購入条件に応えていただける発電事業者に、店舗屋上などのスペースに発電設備を設置してもらい、ここで発電した電力を買い取ります。自ら初期投資をする必要がないので、スピード感をもって発電設備の設置を進められます。

2019年9月14日にオープンした、イオン藤井寺ショッピングセンターの太陽光パネルは、このPPAモデルを導入したものです。数年のうちには、このモデルで200店舗以上に再エネ発電設備を設置する予定です。

また、この藤井寺の店舗では、オープンネットワークという仕組みを導入して、エネルギーの遠隔管理をクラウドで行っています。将来的には各店舗のエネルギー管理を一括で行う予定で、こちらは「省エネ」の新しい取り組みです。

イオンモール座間のような省エネ、および防犯のモデル店舗は「スマートイオン」として最新の設備を導入して再エネや省エネを推進してきましたが、今後は「次世代スマートイオン」としてさらに進化させ、標準的な店舗と比較してCO2排出量を50%削減する店舗にしていく予定です。

イオン藤井寺ショッピングセンターの太陽光パネル*3

後編はこちら

参照
*1 経産省資源エネルギー庁「平成28年度電力調査統計表」より
https://japan-clp.jp/cms/wp-content/uploads/2019/06/102_Session1_AEON.pdf
*2 https://www.renewable-ei.org/activities/column/img/pdf/20180730/REusers_Aeon_CaseStudy_201807.pdf
*3 https://www.aeonmall.com/files/management_news/1293/pdf.pdf
https://www.aeon.info/news/2018_1/pdf/180328R_3_2.pdf

鈴木隆博
鈴木隆博

2000年イオン株式会社に入社。本社秘書室、業務提携、新規事業の立ち上げ等に携わる。その後、環境省出向を経て、「イオン脱炭素ビジョン2050」をはじめとするイオングループの中長期環境戦略の策定等に従事。2019年3月現職。

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