住宅やオフィスビルなどの脱炭素に向け、政府は住宅ローン減税などの税制優遇や特例融資の対象となる「低炭素建築物」の認定基準を見直し、太陽光発電など再生可能エネルギーの設置を義務化させる。2022年度から新基準を適用する。設置義務化によって、消費者負担が少なくとも150万円近く増加するため、普及拡大に向けては、いかに軽減するかが課題となっている。

<h2>2030年新築戸建て６割に太陽光搭載は達成可能か</h2>
11月４日に開催された国土交通省、経済産業省、環境省３省合同会議で検討がはじまった。
経済産業省によると、住宅やオフィスビル、商業施設など建築物から排出される二酸化炭素は、2019年度で国内全体の３割を超えているという。具体的には、住宅やマンションなどが15.5%、オフィスビルや商業施設などが18.8%にのぼる。また、エネルギー消費量も全体の３割超を占めている。
政府は今年10月に閣議決定した地球温暖化対策計画などにおいて、住宅やオフィスビルなどの建築物の脱炭素に向け、2030年度に新築について、高い断熱性能と太陽光発電を組み合わせたZEH（ゼロエネルギーハウス）やZEB（ゼロエネルギービル）水準の省エネ性能を確保し、新築戸建て住宅に対しては６割に太陽光発電を導入する目標を掲げている。住宅・建築分野の温暖化ガス削減目標はおよそ２割引き上げられた。
実現に向けては、高い断熱性能や太陽光発電の導入など、省エネ性能が高い住宅や建物の建設や改修が欠かせない。だが、2019年度の新築注文戸建て住宅約28万戸のうち、太陽光発電を搭載したZEH戸数は5.8万戸と、20.6%の割合にとどまっている。野村総合研究所は、ZEH住宅は今後増え、2021年に10.1万戸、2024年には13万戸を超えると予測するも、2024年をめどに停滞する見込みだとし、６割目標の達成には厳しさが漂う。
新築注文戸建のZEH化率の推移
<img src="https://cdn.energy-shift.com/upload/20211110062200_jutaku-fig1.jpg" alt="" width="800" height="481" /> 出典：国土交通省
国内には約5,000万戸の住宅ストックがあるが、このうち省エネ性能を持つ住宅はわずか13%の約650万戸しかなく、無断熱の住宅は約1,450万戸（約29%）もある。新築に比べ、費用負担が重くなる既存住宅の省エネ化の推進は難しい。当然、太陽光発電の導入も減少傾向にある。
国交省などでは将来、住宅着工件数の減少や中古住宅の流通増加が避けられない中、新築住宅の脱炭素化を図らなければ、良質な住宅ストックを残す機会を喪失するという危機感が増しつつある。そのため、あらゆる新築建物の脱炭素化に向け、打てる手は打つという考えだ。
その一環として、エコまち法と呼ばれる「都市の低炭素化の促進に関する法律」に基づく低炭素建築物の認定基準を見直し、太陽光発電などの設置を義務づける方針だ。
低炭素建築物とは、建築物省エネ法の省エネ基準に比べ、一次エネルギー消費量がマイナス10%以上となる建物のこと。国交省は2012年12月から住宅・建築分野の低炭素化に向け、住宅ローン減税などの税制優遇や、特例融資などのインセンティブを付与することで、普及を図ってきた。だが、低炭素建築物は普及しているとは言い難い。2021年３月時点での累計認定数は戸建て住宅約3.3万件、共同住宅約２万件、オフィスビルなどを含めても5.3万件しかない。年間の認定数は戸建て住宅で6,000件を下回る。
ZEHと比べても少ない認定数だが、６割目標の達成に向けては、低炭素建築物の活用も欠かせないと判断した。
低炭素建築物の認定状況（2021年3月末時点の累計）
<table style="border-collapse: collapse; width: 100%;">
<tbody>
<tr bgcolor="#c3e1ff">
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">認定対象</td>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">合計</td>
</tr>
<tr>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">一戸建て</td>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">33,089件（戸）</td>
</tr>
<tr>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">共同住宅</td>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">20,278件（戸）</td>
</tr>
<tr>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">複合建築物</td>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">165件（棟）</td>
</tr>
<tr>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">非住宅</td>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">29件（棟）</td>
</tr>
<tr>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">合計</td>
<td style="border: 1px solid #333333; padding: 4px; text-align: center;">53,561件</td>
</tr>
</tbody>
</table>
出典：国土交通省
（消費者に光熱費の削減では元が取れない投資を強いる可能性も・・・次ページ）

<h2>消費者に光熱費の削減では元が取れない投資を強いる可能性も</h2>
低炭素建築物の現行の認定基準は、エネルギーを効率的に使うための管理システムであるHEMS（Home Energy Management System）の導入や、節水トイレの設置、屋上や壁面緑化などだが、３省合同会議では、新たに太陽光発電を中心とした再エネ導入を要件化することが検討された。
出席した委員は2050年の脱炭素、2030年度目標の達成に向けては、基準の引き上げは不可避として、賛同。早ければ2022年度から太陽光発電などの設置義務化がはじまる。
ただし、山下ゆかり 日本エネルギー経済研究所常務理事や伊香賀俊治 慶應義塾大学教授などから「省エネや太陽光発電の自家消費などによる光熱費の削減では元が取れないレベルの投資を建築主に強いることになる。健康や知的生産性、いわゆるウエルネスの便益を建築主、あるいは国民全体に広報しなければ、コスト負担の増加から浸透しない可能性がある」との意見が述べられた。
また、「ハードルを上げるなら、所得税の減税などインセンティブも引き上げるべきではないか」といった意見や、「積雪や寒冷地では太陽光発電を標準解として展開できない。再エネは太陽光発電だけではない。地中熱や太陽熱なども含めるべき」などの意見も出された。
（課題は消費者の負担軽減・・・次ページ）

<h2>課題は消費者の負担軽減</h2>
太陽光発電の設置義務化に対しては、積水ハウスが戸建て住宅や賃貸住宅でのZEH推進に加え、<a href="https://energy-shift.com/news/a9186f4e-afa8-4edf-afaa-af13289baf39">2023年以降は分譲マンションの全住戸をZEH化する目標を打ち出すなど</a>、大手ハウスメーカーを中心に取り組みは拡大している。積水ハウスなどは将来の住宅着工数の減少を睨み、１戸あたりの販売単価を上げるためにZEH化を推し進め、売り上げ確保を狙っている側面が強い。
確かに大手ハウスメーカーのZEH比率は年々上昇し、2020年度には48%となった。経産省などは2030年までに大手ハウスメーカーの注文住宅の９割に太陽光発電が搭載されると見込んでいる。
しかし、これは大手ハウスメーカーに限っての話だ。日本の新築住宅着工戸数約80万戸のうち、５割のシェアを持つのは地域の中小工務店などだ。中小工務店のZEH化比率は８％台にとどまる。
中小工務店は、脱炭素化の必要性を認識しながらも、太陽光発電の設置義務化に対しては、少なくとも150万円の費用負担の増加となるため、消費者の購入意欲が変化するとの懸念が根強い。ただでさえ、ウッドショックの影響で木材価格が高騰し、新築戸建て住宅数が落ちているだけに、さらなる負担増は避けたいのが本音だ。
コロナ禍からの経済回復の反動は、木材の高騰を及ぼすウッドショックのほか、原油や天然ガス、石炭などエネルギー、素材などあらゆる製品の価格上昇を引き起こしている。しかも、高騰は2022年に入っても落ち着く気配がない。
値上げラッシュが起こる中、消費者の負担を伴う太陽光発電などの設置義務づけは、負担軽減がなければ浸透しない。仮に財源投入がなければ、低炭素建築物認定の減少やZEH化比率の引き上げもままならず、2030年６割目標の達成も危ぶまれる。
住宅の脱炭素化は、住まい手に電気代の削減や、冬暖かく夏涼しいといった健康で快適な暮らしを提供する。またハウスメーカーや中小工務店にとっても、住宅着工戸数が減少する中において、住宅単価をあげられ収益アップにつながる。金融機関にとっても住宅ローンの拡充になる。
政府は財源投入を示唆するが、具体的な施策はまだ見えてこない。
国交省は11月24日に再度、３省合同会議を開き、意見をとりまとめたのち、パブリックコメントを経て、2022年３月に太陽光発電などの設置義務化を公布する予定だ。
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住宅やオフィスビルなどの脱炭素に向け、政府は住宅ローン減税などの税制優遇や特例融資の対象となる「低炭素建築物」の認定基準を見直し、太陽光発電など再生可能エネルギーの設置を義務化させる。2022年度から新基準を適用する。設置義務化によって、消費者負担が少なくとも150万円近く増加するため、普及拡大に向けては、いかに軽減するかが課題となっている。