トヨタの高級ブランド、レクサス。
ブランド初の電気自動車市販モデル「レクサスUX300e」は2020年度分の限定販売135台について、2020年10月下旬から11月上旬という短期間だけ受け付けていた。台数を絞って抽選販売だったこともあり、大々的な広報を展開しなかったこの車。この春から試乗レポートも多く出てきている。このレクサスEVの分析を軸に、トヨタの最新EV戦略をお届けする。(エナシフTV連動企画)
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レクサスに乗った方は、やはりトヨタ推し(好き)の方が多く、レポートにも好意的な意見が見られます。
大別すると、以下のような意見になっています。
それぞれを見てみましょう。
1.について、おそらくテスラを念頭においているのだと思います。今はVWもIDシリーズを出し、日産もリーフはもちろん、いよいよアリアを出してきます。「ちゃんとした車メーカーが作った」というのは、これから本当に強みとして言えるのかな、というところです。
EVはモーター駆動ですので、当然、静粛性は上がります。加速の良さや操縦安定性は乗ってみての感想だと思うので、ここは判断が難しいですが、これらの反応は他のEVにも共通して見られる特徴です。
5.は、バッテリーを底に積むというEVの特性上、重心が下による、エンジンに比べてフロントサイドに入る部品の重量が減り、かつ、その左右バランスも取りやすくなる。そのため、基本的にEVになると、重心が低くなり、また左右に対してもブレにくくなると言われています。
床がフラットになっていてスペースが大きくとれているのが特徴という評価や、充電に関しても「急速充電に対応!」と書かれていることを見ても、他のEVとの比較という客観軸よりも、レクサス推しという主観性の強い評価が出ているのかと思います。
もちろん、安定のレクサスブランドというところはあるのだとは思いますが。
レクサスUX300eボディ構造
レクサスUX300eのスペックを他のEVと比較をすると、レクサスのEV視点からする評価が、客観的に見えてきます。
注目すべきはやはりEVというと航続距離、充電、そしてコストの部分です。
比較対象車は、テスラはレクサスと同じSUVのモデルY、VWのSUV、ID4。日産は高級仕様SUVのアリア。いずれも高級ラインナップです。参考までにリーフも載せておきます。
エナシフTVより
WLTCで400kmを切っているのは、今回のレクサスUX300eとVWのID4廉価版のPure及びリーフのノーマルタイプのみ。ただ、リーフもe+使用なら超えてきています。
価格、リーフは高級車タイプではないのでここは外してみた場合、ID4が高い以外は、レクサスUX300eがやはり高価格の水準です。
そして急速充電の論点。最大充電出力は、レクサスUX300eが頭一つ下に抜けてしまっているのが分かります。
このように、EV的論点で見ると、どうでしょう? 客観的にみて、この表だけを見ると、見劣りするように思うのは我々だけでしょうか。
テスラのモデルYもグレード感は高いし、アリアもIDシリーズも高級仕様。レクサスの箔で下駄を履いたとしても、やはりコスト対効果については厳しい見立てになってくるのではないでしょうか。
ほかの論点、例えば自動運転について特記はなく、EVのDX論点であるコネクティビティの部分ですと、テスラはソフトウェアのワイヤレスアップデートが特徴でしたが、レクサスの仕様は携帯とのコネクティビティという所になってきています。うむ・・、というところですよね。
このように、EV論点とそこのいまの戦線で重視されている項目を見ていったときに、このレクサスUX300eは、この瞬間、このEV戦線で風を切って戦えるステータスを揃えたものではない、というところになるかと思います。
そこはトヨタも重々分かっているのでしょう。それもあり、レクサス初のEV投入となったにもかかわらず、広報は積極的に行わず、限定135台の市場投入となったのだと、この分析を通じて我々は納得して見ています。
トヨタは色々な方面から、「HVに長らく取り組んできて、FCVにも知見があり、電動化には一日の長があるので、いつでもEVに行こうと思えば行ける」という声が自他ともに聞こえてきていました。が、さすがにEVへの転換はトヨタをもってしても、そんなに簡単にいかない、ということでもあると思います。
日産との比較でも、片やアリアを投入せんとする日産と、2020年後半でこのレクサスを投入となった、というところについては、やはり、日産が10年以上かけてやってきた、その道のりとそこでの積み重ね、そこを実感せずにはいられません。
VWについても欧州をあげて2016年以降ずっと臥薪嘗胆取り組んできたものが、ここに来て成果として出てきているように思います。
HVでは世界をリードし、市場を席巻するに至ったトヨタです。難しいと言われた欧州でもヤリスがトップセールスを記録するなど、この瞬間の立ち位置でいえば、そこを含めた電動化というくくりでは引き続きまだ世界をリードする存在ともいえます。
逆に言えば、だからこそ、その強みをとかく強調する一方で、EVについてはどうしても積極的な姿勢をとることができない、という事情も見えてきます。
これは会社の姿勢にも自然と現れると思うんですよ。ということで、ここで、改めて、EV化に強く物申して話題となった2020年12月17日の自工会会長としての豊田章男社長の発言を振り返りたいと思います。その時の発言ではこのように言っています。
EV化について、これでもかというくらい水をかけています。その上でHVの貢献をアピールする、という内容です。
これらの発言、さきほどお伝えしたトヨタの立ち位置の分析に整合しますよね。レクサスを受け付けていた2020年11月上旬、この自工会発言が12月。当然、このEV(レクサス)に立脚して発言をせざるを得なかった。もし、EV戦線でリードできているなら、発言内容は全然違ったのではないでしょうか。
これで2020年末あたりのトヨタの立ち位置が確認できました。その時点で、EV化はなんとなく遅れていたのではないかと、我々は見ています。
それでは、ここを踏まえて、発言から見るトヨタの今後の電動化戦略、ここを見ていきましょう。
3月11日に行われた自工会会長の記者会見。12月17日の発言から3ヶ月弱。豊田会長の発言はだいぶトーンが変わりました。詳しくはアップルカー、できるものならやってみろ動画を見ていただければと思いますが、EV化については
という形で発言をしています。その上で「日本の未来」を一緒につくっていきたいとも言っています。
もちろん、乗り越えるべき壁があるという発言や、電動化についてはフルラインナップで、ということでHVを含める表現は散りばめられていましたが、それでも、トーンがずいぶん変わってきています。
12月からこの3ヶ月何があったのかといえば、バイデン政権が思った以上に脱炭素である。世界の脱炭素の波がさらに高くなっている。車もEV化が主流。このように、かなり進展があった、そんな期間でした。
ここをトヨタとしても強く感じたのだろうと思います。
そしてトーンを変えたということは、その背景にある姿勢を変えたということ。いよいよトヨタもEVに向けてのギアを入れたという形で見ることもできると思います。
つまり、ここから巻き返すのではないかと思います。今回のレクサスから見る、今のトヨタEVの立ち位置は確かに遅れているのだと思いますが、ここから本気の巻き返しが来るのだろうと思います。
トヨタの水素戦略にもあるとおり、長距離輸送についてはFCVを活用した水素、まだまだいけるHV、そして、EVに関しては全固体電池も含めた蓄電池の開発、ここに注力をする。かつ、その中でeアクスルといった駆動関連技術を高めていく、そうした戦略でトヨタは今後勝負をかけていくというところだと思います。
テスラ先行、VWがライバルとして踊り出て、日産もそこに食らいついている、その他中国や韓国勢もいる、アップルカーも来る、このような絵図の中、現在、立ち遅れが見えたトヨタがどのように戦っていくのか、個人的にはそこでの獅子奮迅の巻き返し、期待したいです。
ということで今日はこの一言でまとめたいと思います。
『EV立ち遅れたレクサスから見えたトヨタ 2021からの巻き返しなるか』
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