温室効果ガス排出46%削減 実態はこうだ! 海外の思惑も国内インパクトもすべて解説 | EnergyShift

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温室効果ガス排出46%削減 実態はこうだ! 海外の思惑も国内インパクトもすべて解説

温室効果ガス排出46%削減 実態はこうだ! 海外の思惑も国内インパクトもすべて解説

2021年04月24日

アメリカが主催した気候変動リーダーズサミットに世界主要国の首脳が参加し、日本の菅総理もオンライン出席した。ここで求められたのは、気候変動対策へのコミットメント。どれだけ高い削減目標を設定できるかだ。日本は既報の通り「温室効果ガス・2013年比46%削減」を表明。この数字の背景と、今後の見通しについて元外交官の視点から前田雄大が解説する。(エナシフTV連動企画

なぜ「46%」なのか。数字の背景は

はじめに申し上げましょう。筆者はこの46%という数字、肯定派です。「え?」と思われた方もいらっしゃるかと思います。そこも含めてこれからご説明をします。

まず、46%に落ち着いた背景について。

日米首脳会談の前にNYタイムズが(日本の削減目標50%を)リークしました。アメリカ元副大統領のゴア氏のツイートでも「日本に50%以上を求める」という言及があり、アメリカが求めた線引きは50%だった。

これについて筆者は、日米首脳会談で、アメリカの脱炭素へかける姿勢が尋常ではないこと、特に日米協力の文脈でかなり多くを求められた。しかし、演説での日米のすれ違いぶりを見て、「アメリカにとっては満足の行く目標ではなかったのだな」という分析を以前にしました。

その会談からこのサミットまでの1週間。ここで最後の調整を日本はしたと思います。その調整はどうだったのか。順を追ってみてみると、こうなります。

元々、日本の報道では40%~45%。アメリカとの関係で50%に近づけないといけないので、45%は超えておく必要がある

ただし、本当にできるかどうかの実態との乖離は抑えないといけない。40%前半で調整をしたいというのは、産業界への影響も考えての積み上げの目標だった。産業界を抱える方面(経産省)とすれば、40%越えでも背伸びをした数字。50%に限りなく近い数字は、現実的ではないとの声がある。

今までの目標が26%であることを考えれば、積み増し分でPRをする必要がある。そのときに20%積み増しました、という格好はどうしても取っておきたい

以上のような動きがあって、46%という数字に行きついたのだと思います。

アメリカとの関係については、菅総理のスピーチの文言「さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けてまいります」ここですね。「僕らの意識は50%ですよ。状況が変わってくれば50%宣言をしますよ」と、ここで担保したと思います。


気候変動リーダーズサミットでの菅首相と小泉環境大臣 首相官邸ウェブサイトより

小泉進次郎環境大臣はこのようにいっています「46%の削減が限界というわけではなく、50%という高みに向けて挑戦を続けていく」。閣内不一致は避けるため、一見、同じラインですが、小泉大臣としてはもっと高く設定をしたかった、引き続き状況が許せば上げていきたいという意向が見えます。

なので、状況分析をしますと、産業界・エネルギー業界を背負うところは現実的な数字として下方を提示、温室効果ガス排出削減の主務官庁である環境省は50%以上を模索。ただし、日米首脳会談の様々な交渉材料の中で、そこまでの提示にはいたらず、というところで、あとは外交的に対外説明ができるか等々も加味して先ほどの要素から、46%と決まった。

あとは、「50%を目指す」ところは外交的要素として、バイデン文脈も含めて付け足した、というところが背景であろうと思います。

首相動静のところで、外務省の小野地球規模課題審議官が首相のところに最後入っていました。アメリカとの関係では「さらに、という形で50%を目指すというところはいれましょう」となったというのが想像できます。元上司ですので、語り口調も含めて想像ができます(ちなみに、シュッとしたダンディーな方です)。

国際的にみて「46%」という数字はどうなのか。各国の思惑は

では46%という数字が国際的に見てどうなのか。世界の目標値をみてみると、各国のエゴも垣間見えてきます。

海外、例えばイギリスが78%削減というちょっと信じられない数字を出していますが、基準年が異なります。日本の場合は2013年が基準年ですが、イギリスの場合は1990年です。なぜかというと、イギリスが最も温室効果ガスを出していたのがその頃であり、気候変動に取り組もうと国際的な枠組みが出来る前の数字です。

そこからどれくらい減らせたかということで、基準年が1990年となっています。つまり、下げ幅が大きく取れる。

翻って、日本。日本がなぜこのような直近の2013年という数字なのか。

日本は元々が省エネ大国です。1990年代などはCO2を排出しない気候変動優秀国として世界の議論をリードできる存在でした。だから京都議定書という条約でも主役を演じられたのです。

その後、福島第一原発事故で原発が停止し、その穴を埋めたのが石炭火力でした。ですので、2011年を契機に、CO2の排出が増えた格好になっています。つまり、日本の場合、減らすとなったときの基準年は2013年が一番いいわけです。

アメリカは2005年比で50~52%。彼らはやはりボーダーである50%以上という数字を、どうやって示すかにこだわりがあったのでしょう。同盟国である日本にも同じラインを求めたということです。

新型コロナウイルスのワクチンとのバーターもあったのではないか、と筆者は思います。ワクチンに関しては自国の供給を優先することと、日本の脱炭素コミットメントのバランスが考えられていたのではないか。結局、オリンピック後の9月にファイザーから追加供給、脱炭素については50%以下のところでの決着となったと分析しています。つまり脱炭素だけで考える問題ではないのもわかります。

話を戻します。アメリカはアメリカでどこを基準年にすればいいかというと、2005年です(グラフ参照)。

世界のエネルギー起源の温室効果ガス排出量推移(1990~2016)


出典:経済産業省資源エネルギー庁/IEA CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION 2018 Highlights
エネルギー起源温室効果ガス排出量の多い国・地域のトップ10を抽出、カッコ内の数字は2016年排出量(百万トン)非エネルギー起源温室効果ガス排出量は含まれず。

みんな都合がいいわけですよ。自分たちが一番マックスだったときから起算して、減らしますよと言っているわけです。

これは、日本を擁護する形になりますが、そもそも全然省エネとかしないでCO2出しまくっていた欧州が基準年を1990年に設定して、そこから「大きな数字で減らせますよ」と主張する。元々努力していないところからなのだから、そりゃ減らせる幅大きいでしょ、と。

日本の場合は、元々エネルギー効率よくやってきた優等生。減らし幅が少ない中、しかも、原発事故で、電力セクターはCO2排出が増えざるをえない格好となった。台所事情は苦しいわけです。とみると、他の国の50%削減くらいには匹敵するのではないかと、そのようにも見えるのではないか、と筆者は思います。経産省擁護過ぎますでしょうか。ただ、筆者は46%という数字については、こういう事情も分かっているので肯定的です。

そうはいっても、もう世界の経済・産業構造は、脱炭素のエネルギーを前提にこれから回っていきます。ESG投資も呼び込めません。「台所事情が厳しいから」などと言っていられない。ここで勝ち切って経済成長をする必要がある。もう以前から見えていたんです。

そういう意味で、もっと日本も早く舵を切れたという主張を、筆者はずっとしてきています。

中国、インドの動きはどうか

当然中国とかインドとかはどうなるか。アメリカがかなり中国に働きかけたみたいですが、中国はあくまでもカーボンニュートラルは2060年。10年先の設定になっています。アメリカは中国を巻き込みたかったというところもあるでしょうけれども、今回明らかになったのは、中国の化けの皮はがし。ここでしょう。

前出のグラフを見ても、中国はCO2が増えまくり。中国はカーボンニュートラルは2060年で設定をした。再エネは太陽光も風力も安くたくさん導入できるので2030年代の目標を出して、脱炭素をアピールした。

以上が昨年末からの中国の動きですが、アメリカは線引きを、あくまで2030年の排出削減に置くわけです。

「中国、脱炭素アピールしてるけど、2030年にできるの?」ということです。

中国は、当然、そんな短期にはCO2は減らせない。経済成長優先です。なので、今回のサミットでは「2030年までにピークを持ってきますよ」という元々言っていたようなラインをいう他なく、アピール材料は2060年のカーボンニュートラルをもう一度焼き直ししていうしかない、という状況になります。

アメリカの中国あぶり出しが成功した瞬間です。「再エネ得意になったからといって、脱炭素大国気取りしてるんじゃない。お前らの実態はこうだ」と、いいたかったのではないか。

さらに脱炭素をてこに、日米で中国の経済成長政策を牽制したかったということもあるかもしれません。だからこそ、日本には50%を超えることで違いを一緒に見せたかったという思惑もあるでしょう。

インドにいたっては、2030年目標を言えていません。インドも経済成長とともに排出量が増えています。インドは、2030年までにCO2排出削減でアメリカと協力、というコメント。なんだそりゃ、という感じですが、これが精一杯でしょう。


気候変動リーダーズサミット 米国国務省ウェブサイトより

脱炭素をめぐる各国の動きは国家の覇権争いだ

このように見るとですね、結局、どこも割と自己中、かつ、表向きに言えている脱炭素と、本音の部分、ここが見えてきます。その中でみれば、2030年46%、やっぱり、十分にアピールできる数字だと筆者は考えます。

各国は結局、都合よく数値見せ競争をしている。だから、こう思います。「結局いま、世界で起きている脱炭素を巡る一連の動きは、気候変動対策という名を冠した、国家の覇権争いだ」と。

これは経済戦争であり、エネルギー安全保障を巡る争いであり、そこに気候変動対策という名目の正義がくっつく、というのが実態です。

今後、経済競争、経済戦争が起きるので、そこの土俵で戦う力がないといかん。ここで負けると国益に直結します。ここの土俵で戦えないと、日本のGDPが中長期で見て下がると筆者は確信しています。だから、この脱炭素がめちゃくちゃ重要なのです。

46%のもたらす国内産業へのインパクトは

46%の数字の意思決定の裏側を分析しましたが、産業界・エネルギー業界サイドとしては、積み上げに基づく数字はこれよりも下方にあった。となると、この46%という数字を実現するには、積み上げだけではなく、何かしらの「ジャンプ」をしないといけない

つまり、2030年までの追加措置が必要になるということです。

2020年末に発表したグリーン成長戦略はあくまでも背伸びをしながらの積み上げで現実的な戦略でしたので「46%」には、追加施策がないと無理になります。当然一つの施策では無理でしょう。複合的な施策が必要です。

① 比較的導入しやすい、再エネの追加導入に向けた施策
② 企業がCO2を減らす誘因を持つ施策
③ CO2排出に金回りがいく施策

この3つを追加投入していくことになります。

①に関しては、導入もはやく、すでに入札価格が1kWhあたり10円台になることが見えている太陽光が中心になるでしょう。世界的にも増加しているPPAへの施策が、一番手っ取り早いと思います。

事実、小泉大臣の発言にも「まず必要なのは再生可能エネルギーの導入だ。再エネの採用比率や省エネをどの分野でどの程度行うのかといった具体的な数字については、これからしっかりとプロセスを踏んでいく」とあります。期待しましょう。

企業がCO2を減らす誘因をもつ施策、こちらはカーボンプライシングがメインとなると思います。

最初に導入されるのは排出権取引だと思いますが、ごく簡単に言うとCO2排出がコストになる時代がくる、ということです。CO2を手っ取り早く減らすには電力を再エネ電力に切り替えるのが一番早いですから、争奪戦が起きます。

争奪戦が起きても再エネの電力自体の供給が多くはないので、需要と供給のバランスが崩れます。調達できる値段が上がります。

それを見越していまいち早く動いて、再エネ電力を調達している会社、これがコスト節約を結果的に実現できるようになります。再エネ電力にいまのうちに切りかえるもよし、PPAで直接供給を受けるもよし。ここは繰り返し強調していきたい。

CO2排出に金回りがいく施策、ここは2つあるかなと思っています。

一つは補助金回りです。再エネ周りも含め、脱炭素系にはお金を入れてとにかくボリュームを増やしながら技術革新を進めていく。

あとは金融セクターの仕組み作りになるでしょう。脱炭素要件の引き上げが象徴的だと思います。一見関係なさそうな金融庁の制度設計にも影響を及ぼしてくるようになるでしょう。結果的に脱炭素に取り組んでいる企業の方が投融資を受けやすい格好になると思います。

これは国際的な潮流に合致し、海外の投融資の受け皿の整備にもつながるので、いいことだと思います。

個人的に46%という数字は、去年から考えたら、すごい進捗だと思います。分析の通り、ジャンプしないといけない数字でもあります。

今日はこの一言でまとめたいと思います。

『46% これで日本も脱炭素になっていく』

 

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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