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脱炭素の鍵握る洋上風力発電 日本の下剋上が始まる

2021年11月29日

コスト削減だけではない、洋上風力の課題とは

まず、量的展開やコストを下げていくというところもそうだが、世界の洋上風力の大型化にどう対応するかも、これからの課題になる。

前出のスコットランドキンカーディン洋上風力は9.5MWの風車になる。東芝がGEと共同開発した洋上風車「Haliade-X」は12MW、ブレードが107mと大型だ。この辺りをしっかり日本も組み入れてやっていかないといけない。いま、東芝が共同開発と言及したが、日本は風車メーカーがことごとく撤退してしまっており、サプライチェーンの中でいかに存在感を発揮するかも課題だ。もちろん、政府も民間も取り組んでいる。

もうひとつ、洋上風力の要素技術として重要なのが、地味だが、ケーブルだ。ケーブルは浮体式だけではなく、着床式にも関わってくる。欧州ではケーブル敷設時の事故の割合が多く、ケーブル損傷は洋上風力の大きなリスク要因となっている。

大型風車に対応できる66kVを超える高電圧の送電ケーブルの技術開発も世界で進む。

浮体式ではダイナミックアレイケーブル(海中に浮遊しながら潮の流れなどにも耐性があるケーブル)の開発が進んでいる。将来的には220kV高圧ダイナミックケーブルが期待されているが、重く、硬くなるため耐性にまだ問題がある。

この点、実は、国内ケーブルメーカーは世界シェアが高く、英国の技術開発コンペにも参加しており、存在感の発揮のしどころになるかもしれない。また、日本にも洋上風力を海底ケーブルで結ぶいわゆる「スーパーグリッド構想」があり、この辺りも今後注目を集めそうだ。

技術的な課題を見てきたが、日本における洋上風力発電開発において、さらに大きな課題がある。それが候補地の選定だ。

海とはいえ、候補地選定は、様々な権利関係が入り込むので事業者のみでは、なかなか解決できない。また、選定には、どの地域が裨益するのかという観点もあり、センシティブな話題になる。この場では触れきることができない闇もまた、ある。

そのため、政府主導、という形になっている。政府は先の課題を日本版セントラル方式で解決を図ろうとしている。セントラル方式とは、国が開発調査や系統協議などをおこなう方式で、事業者は入札で買取価格を決め、全体の導入コストを低くすることも狙いのひとつだ。このように、国が率先して洋上風力の案件形成を促進する形となっている。

現在の状況だが、今年8月にはその第一段階である調査をおこなう地域が決まった。「洋上風力の地域一体的開発に向けた調査研究事業」であり、NEDOが調査事業者に調査を委託する。

今年5月の候補地域受付期間には都道府県から9海域、事業者から19海域の情報提供がそれぞれあり、今回決まった3海域は以下の通りである。

  • 北海道岩宇及び南後志地区沖(着床式)
  • 山形県酒田市沖(着床式)
  • 岩手県洋野町沖(浮体式)

こうした日本版セントラル方式がうまく機能することで、国による導入牽引が進むだろう。

最後に期待を込めて、「洋上風力発電のポテンシャルを引き出せ」と題して、日本の展望を占ってみたい。

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前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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