オーストラリアで始動していた化石燃料を使わない「グリーン水素」の大規模プロジェクトが頓挫する可能性が出てきた。この計画は2020年、オーストラリア政府が重要な国家プロジェクトとして位置づけ、事業化を許可していたが、6月21日、生態系へ重大な影響を与えるとして一転して不許可にしたという。現地メディアなどが報じた。
暗礁に乗り上げたプロジェクトは、豪マッコーリー・グループ系投資会社や、世界的な風車メーカー、ヴェスタスなど4社が参画する「アジアン・リニューアブル・エナジー・ハブ(AREH)」だ。
オーストラリア西部のピルバラ地区に風力発電および太陽光発電を26GW建設し、再生可能エネルギーの電力から水を電気分解して、年産175万トンの「グリーン水素」製造を目指す大規模プロジェクトである。2026年からの着工を目指していたAREHは、そのグリーン水素の製造量などから注目されていたが、360億ドル(約3.9兆円)もの巨額の投資額の確保が課題だった。
一方、オーストラリア政府は、グリーン水素を石炭や天然ガスに次ぐ輸出資源に育てようと、2019年に「国家水素戦略」を策定。2030年までに安価なグリーン水素を日本や韓国などのアジア、ヨーロッパなどへ輸出する水素国家を目指している。
水素戦略の一環として、2020年にはAREHを国家的な重要プロジェクトに位置づけ、開発資金などを支援する方針だった。
ところが6月21日、AREHに対し事業を進めるための許可を出さなかったという。現地メディアなどが報じた。報道によると、スーザン・リー環境相は「ピルバラの大規模な風力発電などの開発が、湿地帯の生態系や渡り鳥などに大きなリスクをもたらすことがわかった」とコメントし、プロジェクトは暗礁に乗り上げた。
発電時にCO2を排出しない水素は、火力発電の代替燃料や熱利用、燃料電池自動車(FCV)、水素還元製鉄などさまざまな分野で活用できるとされ、脱炭素の切り札のひとつになっている。
特に再エネの電力からつくられる「グリーン水素」は、世界中で争奪戦が始まっている。
日本においても、商社や石油、海運、造船業界などがグリーン水素の調達に急ぐ。
6月22日には、伊藤忠商事がオーストラリアの水素事業に参入すると現地メディアが報じた。このほか、ENEOSホールディングスや岩谷産業、住友商事などがオーストラリアにおけるグリーン水素に関心を寄せている。
AREHが完全に頓挫すれば、オーストラリア産グリーン水素調達に動いている日系企業にも影響を与えそうだ。
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