2020年12月2日、自民党の「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」は2030年に非化石電源比率5割を目指すべきとする緊急提言をとりまとめた。同議連は、100名以上の党員が参加する主流派だ。その会長を務める衆議院議員・柴山昌彦氏に第6次エネルギー基本計画が目指すべきエネルギーミックスについてお伺いした。
―菅首相の所信表明演説における2050年カーボンニュートラル宣言について、どう受け止めましたか?
柴山昌彦氏:私が所属する自民党の「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(以下、議連)」は、100名以上が参加する、党内でも大きな議連です。
この議連を立ち上げた目的は、まず、東日本大震災以降の原発をめぐるさまざまな問題に対し是正していくことがひとつ。加えて、日本より海外ではるかに先行する再生可能エネルギーの普及に向けた取り組みを加速させる目的もあります。再生可能エネルギーにはCO2排出量が少ないというメリットだけでなく、分散型エネルギーシステムの実現によるエネルギーの安全保障や、地産地消のエネルギーとして地域経済への貢献という大きな意味をもつものです。
私はこの議連の会長ですが、はじめは党内の再エネへの関心は高いものではありませんでした。「再エネはコストが高い」とネガティブな目で見られることが多々ありました。
しかし、世界的にESG投資が高まったこともあり、再エネへの見方が徐々に変わり、菅首相の2050年カーボンニュートラル宣言につながったのだと思います。
菅首相は我々の議連の顧問でもあります。実は、総理は野党時代だった東日本大震災の直後から、原発政策に関する検証を続けてこられました。ですから、菅首相と梶山経済産業大臣がカーボンニュートラルに本気で取り組もうとしておられることはよく認識しています。
こうした背景もあり、これまで主流ではなかった議連が一気に主流派に躍り出たということは、大変心強く感じています。
菅首相の演説によって、脱炭素社会への取り組みがさらに加速したと感じています。先日、気候非常事態宣言が衆参両院で可決したこともあり、我々の議連の役割が大変大きいものになったと自覚しています。
柴山昌彦 衆議院議員
―国民の関心事は、総理の宣言を受けた第6次エネルギー基本計画のエネルギーミックスだと思いますが、どのように変えていくおつもりでしょうか?
柴山氏:議連では、平成29年の第三次提言において、エネルギー供給構造高度化法に定める2030年に非化石電源比率44%を確実に達成するための施策を検討しつつ、長期的には再エネのさらなる導入をめざすべきだと提言しました。当時、原発の再稼働がほとんど進まない中で非化石電源比率44%を達成するには、大部分を再エネでまかなうしかないと結論付けたのです。
2020年12月2日、菅首相の宣言や世界的な関心の高まりを受け、議連では緊急提言をとりまとめました。2030年の再エネ電源比率を43~53%にする必要があるとするIPCCの1.5℃報告書と整合性を合わせる意味もあり、平成29年の提言を見直したのです。
2050年にカーボンニュートラルを実現するためには、可能な限り省エネを進めることが大前提です。その上で、国際的な科学的知見と整合させ、2030年度の非化石電源比率を50%以上に引き上げることが必要だとしました。
これまでも主張してきましたが、予見可能性を高めるため、2030年だけでなく2040年時点の意欲的な電源構成を示す検討をすべきだと考えます。2030年と2050年に加え、2040年の電源構成もきちんと明確にすべきです。
提言を発表した際に記者の方々からも質問をいただいたのですが、2030年度の非化石電源比率50%以上のうち、再エネがどれくらいを占めるのかというのは、多くの方が注目するポイントでしょう。しかし、今なお原発の再稼働がなかなか進まない中で、明確なパーセンテージを示すのは難しい状況です。
私個人としては、全体の45%以上は再エネでまかなうことになると考えています。折しも、小泉環境大臣が再エネ比率は40%というお話もされていました。カーボンニュートラルに即応した提言にとどまらず、再エネ単体の数値も定めるべきかどうか、議連でも引き続き検討をブラッシュアップしていくつもりです(付記:2020年12月25日、再生可能エネルギー普及拡大議員連盟として、2030年再エネ45%以上を求める提言を、党に提出)。
我々が主張したいのは、2040年というタイミングも検討に含めるべきだということです。また、CO2回収・利用・貯留といったCCUSに関する政策も行う必要があります。現時点では、全体の中の再エネ比率を明言できませんが、2040年には非化石電源のうちの大部分を再エネにしなければ、2050年カーボンニュートラルは実現できないと思います。
―エネルギー基本計画のうち、どのような施策に力をいれるべきだとお考えですか?
柴山氏:さまざまな技術がある中で、技術的実現可能性しかない技術よりも、それに加えて一定程度の経済的な可能性を伴う技術への支援を手厚くすべきでしょう。例えば、水素は日本が有する高い再エネのポテンシャルと組み合わせ「グリーン水素(再エネによって生産される水素)」の利活用を進めなければならないと思います。また、先端的な技術を伴うEVや蓄電池といった技術開発も必要だと思います。
再エネの中でも、1基あたりの発電能力が大きくポテンシャルが高いという点で考えると、洋上風力発電が重要な位置づけになると思われます。こうした重点的な項目に関して、しっかりとターゲット年度などを定めていく必要があると感じています。
先ほども申し上げましたが、再エネの導入にあたっては地域経済の活性化やエネルギー安全保障もまた、考慮すべき重要な点です。その意味で、洋上風力発電の部品のサプライチェーンとして国産メーカーを組み入れていくことも検討すべきです。
―再エネの普及にあたり、再エネ大量導入のためのデジタル化は重要だと考えます。デジタル技術を積極的に活用することで、エネルギーにおける日本の優位性を保てると考えますが、いかがでしょうか?
柴山氏:その通りです。再エネの大量導入となると、今は系統がひっ迫しているという一点張りばかりです。これから求められるのは、日本版コネクト&マネージをしっかりと賢く進めていくための技術開発です。また、まさに現在進行形で進むスマートメーターのあり方なども考えなければいけないと、前述の提言にも盛り込んでいます。
例えば、風が吹いているときには風力発電を優先し、風が止まったら太陽光発電を優先するなど、最先端技術を利用した効率的な再エネの導入方法を模索していかなければなりません。
再エネの特色は、地域ごとに異なります。そのため、地域に応じた再エネの導入や、地域間でのエネルギーのやりとりなども検討する必要があります。こうした点をすべて考慮して系統の増強を考えれば、負担を最小限にした再エネの大量導入が可能だと考えます。
―足元では、パリ協定のNDC(Nationally Determined Contribution、いわゆる温室効果ガスの削減目標)の見直しが注目されています。この点についてお伺いします。
柴山氏:小泉環境大臣は厳しい意見を述べておられますが、パリ協定の26%という数字が、本当に積み増し可能なのかということは、これから十分検討しなければなりません。もし上積みが可能であれば、菅首相の2050年カーボンニュートラルという目標達成に向けて大きな貢献ができると考えています。
2021年は、大変な勝負の年になると思われます。議連の活動が主流派になりましたし、それぞれの現場からの声を聞きながら、目標の達成のために全力でやっていきます。
(Interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:岩田勇介)
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