温室効果ガスの排出削減にあたって、カーボン・クレジットを使うと、低コストの削減策から進めることができる。削減しにくい事業者は削減しやすい事業者から創出されたクレジットを購入することで、全体の排出を実質的に減らせるからだ。とはいえ、国内外にさまざまなクレジットがあり、課題もあることも確かだ。さらに、日本の排出削減に向けた利用もこれからの課題となる。そのため、経済産業省の検討会で、カーボン・クレジットの活用に向けたレポートをまとめた。
2022年3月24日、経済産業省の「カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会(以下、検討会)」の第3回会合において、「カーボン・クレジット・レポート(案)」を公表した。
背景には、2050年カーボンニュートラル、2030年温室効果ガス(GHG)46%削減をそれぞれ達成するための方法の1つとして、カーボンプライシングがあり、その1種としてカーボン・クレジット取引がある。EUでは排出量取引制度(EU-ETS)が導入されており、カーボン・クレジットの市場が整備されている。一方、日本では企業のGHG排出削減に利用できるものとして、国内ではJ-クレジット、国外でのプロジェクトを活用したものとしては二国間クレジット(JCM)などがある。とはいえ、クレジット市場はなく、その一方でボランタリーなクレジットなどがあり、国のGHG削減目標とのリンクも明確ではないのが実情だ。
こうしたことから、検討会では昨年12月から事業者や金融機関などから計9回のヒアリングを実施し、レポートを取りまとめた。
今回のレポートの目的は、
の3つ。内容としては、カーボン・クレジットの国内外の動向を整理した上で、適切な活用に向けた取り組みの方向性と具体策を示したものとなっている。
レポートでは最初に、カーボン・クレジットについて解説している。
排出量取引には「ベースライン&クレジット」と「キャップ&トレード」の2つがある(図1)。
ベースライン&クレジットは、予想されるGHG排出量に対し、何らかのプロジェクトを行なうことでGHGを削減し、削減した分をクレジットとする考え方だ。実際にJ-クレジットは、照明のLED化や太陽光発電の導入などによるGHGの削減量を第三者認証を経てクレジット化したものだ。
一方、キャップ&トレードの場合、事業所などにGHGの排出枠を設定し、GHG排出量はこれを下回った場合、その分をクレジットとして流通させることができる。EU-ETSや、あるいは日本でも東京都や埼玉県で導入されている排出量取引制度がこれに相当する。
図1:ベースライン&クレジットとキャップ&トレードの違い
大きな違い
ベースライン&クレジットの考え方 | キャップ&トレードの考え方 | |
設備・施設 | 対象範囲 | 組織・施設 |
追加削減分 | 環境価値 | 排出枠からの削減分 |
自主活用規制対応 | 活用用途 | 規制対応 |
相対取引 | 価格決定 | 市場価格 |
出典:経済産業省HPをもとに編集部再編集
また、カーボン・クレジットと非化石証書などの証書との違いについても説明している(図2)。
クレジットの場合は、実際のCO2排出削減を担保するもの(追加性があるもの)だが、非化石証書の場合は「CO2ゼロのエネルギーを使っている」ということを示すもので、必ずしもCO2排出削減につながっているとは限らない(追加性がない場合もある)。
図2:カーボン・クレジットと証書の違い
クレジットの考え方
・ベースラインに基づくGHG削減・吸収量を評価したもの。
・自社の排出量(t-CO2e)を、別途調達したクレジットによってオフセットすることができる。
証書の考え方
・主に電力に関して発行され、その属性(発電日時、発電所、発電方法等)を保証する証明書。
・外部調達した電力等(Scope2)について、その属性を、別途調達した証書によって上書きすることができる。
出典:経済産業省HP
また、カーボン・クレジットの主要な要件として、ICROA(International Carbon Reduction & offset Alliance)が定めている要件も紹介している。具体的には、Real(実際に削減されていること)、Measurable(測定可能)、Permanent(永続性)、Additional(追加性)、Independently verified(第三者認証)、Unique(二重カウントされていないこと)といったものとなる。いずれも、本当にGHGが削減されているのか、確証につながるものだ。
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