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頓挫か持続か?バイオマス発電の将来性

頓挫か持続か?バイオマス発電の将来性

2020年02月13日

国内のバイオマス発電は今、転機を迎えている。FIT制度との適合性の問題や、燃料調達での制約も表面化してきた。それでも、発電事業者やプラント業界ではバイオマス発電の将来性に期待をかけている。今後、バイオマス発電はどうなっていくのか。エンジニアリングビジネス誌編集長・宗 敦司氏が解説する。

FITに合わないバイオマス

低炭素投資促進機構が行った、第2回目となるバイオマス発電の今年度の入札は落札者なしという結果に終わった*1。入札件数3件合計4,480kWの応札があったものの、事前に設定されていた上限価格を下回る事業者があらわれなかったためだ。前回の第1回目の入札でも落札者はなく、大型バイオマス発電の入札制が導入されてから、まだ1件のプロジェクトも認定されていないという事態となっている。

今回の入札では事前に上限価格が設定されていたが、入札段階では示されていなかった。ちなみに入札後に開示された上限価格は19.60円/kWhとなっている。FITでは大型バイオマスは入札制になっているが小型のバイオマス発電(一般木材)は24円/kWh。19.60円/kWhのハードルは高いと言わざるを得ない。

そもそも大型の木質バイオマス発電は、海外からの輸入で燃料調達を行っており、事業費の6~7割程度が燃料調達コストと言われている。しかもバイオマス発電案件が増えていくに従って、燃料価格は徐々に上がってきている。さらに20年間の燃料供給保証をしてくれるサプライヤーは、今ではもうない。「(サプライヤーからは)10年が限界、と言われてしまう」と事業者は燃料調達に苦悩している。

つまり運転開始後、数年~10年は発電コストの見通しがつくものの、それ以後はコストが上昇してしまう可能性が高い。そうなると毎年のように調達価格が変更され、発電コストの低減が求められるような現在のFIT制度では、バイオマス発電は採算が合わなくなってきているのだ。

融資条件と燃料調達の相克

だとすると、バイオマス発電は今後どうなるのだろうか?

足下ではバイオマス発電プロジェクトは活発である。今年度も複数の大型バイオマス発電プロジェクトが投資決定され、プラント建設が開始されている(表参照)。プラント業界ではあと数年は新規案件が獲得できると見込んでいる。

著者調べによる

だがその先については、見通しが立っていない。2回に亘る入札のいずれもが不調となっている結果を見れば、FITなしでバイオマス発電が成立するとは考えにくい。既に認可を受けている案件の中でも、ボイラメーカーやエンジニアリングコントラクターのリソースがたりないため、着工できずに認可取り消しとなる案件も今後は出てくる。加えて、バイオマス燃料の価格も高騰してきた。プロジェクトを成立させるためには燃料の長期安定調達が融資の条件となるが、それも上述の通り、今後ますます厳しくなる。融資条件と燃料調達条件の相克が生じているというわけだ。

設備と物流がカギ

それでも「バイオマス発電に、まだ将来性はある」という声はある。

バイオマス発電を今後とも継続して行くための処方箋として、一つは「プラントの大型化」が上げられる。現在日本では7万5,000kW級の設備が最大だが、技術的には10万kW以上の大規模設備も可能だ。

また、燃料調達面でも物流の大規模化によるコスト低減ができる。現在、輸入バイオマスは各発電所ごとに倉庫やサイロを建てて、そこに貯蔵している。しかしこれでは大量輸送によるコスト低減効果が期待できない。 そこで「バイオマス燃料物流センター」構想が出てくる。ペレットのストックヤードを作り、大量にバイオマス燃料を輸入し、そこで受入れ、複数の発電所にトラック輸送すると言う形で物流を効率化していく。

この考えは、国内調達のバイオマス燃料にも適用出来る。国産バイオマスが大型化できないのは、木材の収集と加工が大規模化できていないためだ。山林には多くの地権者がおり、大規模間伐が事実上出来ない。しかし、法改正により、不明な地権者の土地でも間伐が可能となっており、林業の大規模化へつなげようという動きもある。大型林業機械を使って効率的に間伐を行い、伐採した木材の加工・物流拠点として「木材ターミナル」を設置することで国内バイオマス燃料の流通大規模化が可能となる。そうなれば輸入木材の量も減らせるし、供給安定性も高まる。輸入の際の為替リスクの低減も図れる。

こうした物流面の大規模化による燃料コストの低減は、バイオマス燃料のコストに大きく影響する。バイオマス発電事業者協会では燃料供給量の大規模化などにより「2030年にはガス火力並みの10円台半ばの売電価格を目指したい」(山本毅嗣代表理事)と言う。

バイオマス発電用の燃料

ブラックペレットからバイオマスCCSまで新技術への期待も

現在のバイオマス発電の発電効率は送電端で37%程度が最高水準となっているが、この発電効率を向上させていくことも考えられる。現状の燃料・設備では難しいものの、例えばバイオマスチップを炭化する「ブラックペレット」であれば、石炭火力と同じプラント設備で燃焼できるため、発電効率は40%超となる。これは石炭火力発電設備の延命にも繋がる話だ。今の所、ブラックペレットの大量生産技術は確立していないが、需要さえ高まれば技術開発のハードルはさほど高くない。

発電ではないが、コークスの代替としてバイオマスを使うという研究が行われている。製鉄やごみ処理のガス化溶融炉燃料として「バイオコークス」を活用するという動きと、ブラックペレットの開発を連動させることができれば、効率的なバイオマス資源の活用がより早く実現できる。

これらの技術やバイオマス燃料バリューチェーンが整備されていくことで、バイオマス発電は持続可能な発電となっていく。将来的にCCS(二酸化炭素回収貯留)が適用されるようになると、バイオマス発電は「唯一のマイナスカーボン電源」となる可能性もある。将来のエネルギー資源として活かしていく道は、まだ残されている。

宗敦司
宗敦司

1961年生まれ東京都東村山市出身。 1983年 和光大学人間関係学科卒業。 1990年 ㈱エンジニアリング・ジャーナル社入社。 2001年 エンジニアリングビジネス(EnB)編集長

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