従来の気候変動が農業に与える影響の試算は、緩やかな気温変化が起きた場合で、かつ平均的な影響を解析する手法が主に行われてきた。つまり、2050年には地球温暖化の影響により○○%の作物生産量の減少、などのようなものだ。
しかし、実際の気象条件の変化とそれによる作物生産の影響は大きな揺れ幅を持っており、直線的な変化ではない。極端な気象現象の発生頻度がどのように変化するかを検討しなければ、農業の将来予測幅を捉えることができないという問題があった。
京都大学、立命館大学、農研機構、国立環境研究所の研究グループは、「極端な気象変化」に注目し、それによる世界人口の飢餓リスクを複数のモデルを組み合わせて予測した。
それによると、気候が現状のままで社会経済的な変化のみを考慮した場合、2050年の飢餓リスク人口は3億6千万人と推計される。
それに対して、「温暖化対策をおこなわなかったケース」では飢餓リスク人口は4億4千万人。一方、「パリ協定の2℃目標相当の対策をおこなったケース」(つまり、これから気温が上昇する)でも、4億人の飢餓リスク人口となった。
さらに、2050年の時点で100年に一度程度の稀ではあるが強い不作が発生すると、「温暖化対策をおこなわない」場合で6億人、「2℃目標相当の対策を行った」ケースでも5億3千万人に飢餓リスク人口は上昇した。
この2050年の飢餓リスク人口が、飢餓に陥らないための世界の食料備蓄を計算したところ、温暖化対策をおこなわなかった場合は1億8千万トン、金額で3兆8千億円相当の穀類が必要になる。これは、現在の世界穀類備蓄の4分の1に相当する。南アジアに限ると現在の穀物備蓄の3倍に相当する。これは、南アジアの所得の低さ、気候変動対策の脆弱さに起因する。
こうした新しいモデル計算による結果は温暖化抑制に失敗した場合、貧困層の拡大とともに大きな被害が発生する。その貧困層対策により追加的な資金が必要になることを改めて示唆している。
先日発表されたIPCCの6次報告書でも、人為起源の気候変動は世界中のすべての地域で気候の極端現象にすでに影響を及ぼしていると報告された。今回の研究は、気候変動は直線的な変化ではないこと、極端な気象変化が農業に与える影響についての新しい知見である。
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