脱炭素社会へドイツの再生可能エネルギー法2021 解説 ―2030年の温室効果ガス削減目標を野心的にし、再エネ政策を強化 | EnergyShift

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脱炭素社会へドイツの再生可能エネルギー法2021 解説 ―2030年の温室効果ガス削減目標を野心的にし、再エネ政策を強化

脱炭素社会へドイツの再生可能エネルギー法2021 解説 ―2030年の温室効果ガス削減目標を野心的にし、再エネ政策を強化

2021年04月16日

ドイツでは、2030年の温室効果ガス排出削減目標をより野心的なものにしたことから、再生可能エネルギー政策の強化も進められている。新しくなる再生可能エネルギー法について、Clean Energy Wireの、ケアスティン・アップン記者によるファクトシートによる報告を、環境エネルギー政策研究所(ISEP)研究員、古屋将太氏翻訳でお届けする。

大改革が必要だった再生可能エネルギー法

太陽光発電と風力発電を国内で最も重要な2つの電源にしたことで知られている、ドイツの画期的な再生可能エネルギー法(EEG)に対し、現在、新たな改革がおこなわれようとしている。

その背景には、気候変動やクリーンエネルギーの目標を達成するために、再生可能エネルギーは、より早く成長し、より安価になり、近隣の市民に受け入れられるようするという課題がある

このファクトシートでは、再生可能エネルギーの成長予測を示し、2020年12月17日に議会で可決され、2021年1月1日に施行される予定(執筆当時、すでに施行)の最新の法律草案で提案されている変更点を列挙した。

2014年と2016年の2度の大改革を経て、ドイツの再生可能エネルギー法(EEG)に新たな大改革が訪れた。法案を担当する経済エネルギー省(BMWi)が命名した「EEG2021」は、2020年9月23日に政府の閣議で承認されている。連邦議会は、その後数ヶ月の間に法案に多くの変更を加えている。以下、新法であるEEG2021の最も重要な部分の概要を解説する。

20年前に施行されたドイツのEEGは、系統への優先接続を確立し、手厚い固定価格買取を保証したことにより、陸上風力発電、太陽光発電、バイオガス発電の大幅な成長をもたらした。これに洋上風力発電や水力発電とあわせて、これらの再生可能な電源は、現在ドイツの電力消費量の半分を占めている。

これまでさまざまな変更が加えられてきたEEGだが、2021年1月から施行されるEEG2021では、2020年の国による水素戦略や電気自動車充電のための電気料金設定などの新しい動きを取り入れながら、入札制を重視することで、再エネ発電事業者をより市場に対応できるようにするというEEGの基本原則を忠実に守ったものとなっている。

政府は、市場主導型の再エネの拡大を期待する一方で、EEGによる再エネへの支援をいつ、どのようにして完全に終了するかを、2027年までに提案したいと考えている。


ペーター・アルトマイヤー連邦経済エネルギー大臣(右)とアンドレアス・フィヒト連邦経済エネルギー省国務長官 EEG2021記者発表で © BMWi/Andreas Mertens

2050年 電力部門における温室効果ガスニュートラルが法律の一部となる

ドイツは、今世紀半ばまでに温室効果ガスをニュートラルにするという目標を掲げており、これがEEG2021の指針となっている。

「この法律の目的は、2050年までにドイツ国内で発電または消費されるすべての電力を、温室効果ガスニュートラルな方法で発電することをたしかなものとする点にある」と、最新の草案には書かれている。

ドイツで発電された電力と輸入された電力の両方がこの要件を満たさなければならないことになるが、これは、EUにも2050年のカーボンニュートラル目標に向けて軌道に乗せるように期待をかけていることを示唆している。

より野心的なEU気候目標との整合性

EU加盟国は、2030年の気候目標を引き上げることを決定した。ドイツにとっても、各国と同様に排出削減目標の調整を意味することになる。

「(EEGが求めるものが)厳しいということは、再エネの拡大を加速させる必要があるということだ」と環境大臣のスベニヤ・シュルツ氏は述べている。

議会との最終交渉での大きな争点の一つとなったのは、これらの再エネの全体的な拡大目標だった。多くの人々は、将来の電気自動車やヒートポンプによる電力需要を考慮して、再エネの割合をより高い目標に設定すべきだと考えている。

この問題は、電力消費に占める再エネの割合(現在65%)の目標の調整を2021年の第1四半期に延期することで落ち着いた。

再エネ入札 - 2030年の目標達成に向けた新たな拡大の道筋

EEG2021では、太陽光発電を100GW(現在は52GW)、陸上風力発電を71GW(現在は55GW)、バイオマス発電を8.4GW、洋上風力発電を20GWと、昨年末に決定された「気候行動計画2030」の目標を若干上回る計画となっている。

同法は、再エネ目標である65%が達成できるように各年の導入目標をかため、変動する再エネの増加を系統で調整できるようにしている。

特定のエネルギー種に限定せず、陸上風力発電、太陽光発電、バイオマス、蓄電装置を組み合わせて電力システムを安定化させる、いわゆる「イノベーション・オークション」では、年間500~850MWの追加入札が行われる予定だ。営農型太陽光発電や水面設置型太陽光発電も、これらのオークションに参加することができる。


ドイツにおける再生可能エネルギーの目標値(折れ線グラフ)と2021-2030年の再生可能エネルギーによる発電量(棒グラフ)の見通し


ドイツにおける再生可能エネルギー設備の年間入札量

先駆的な導入のための暫定的な措置

EEG2021には、固定価格買取制度における20年間の買取期間が終了し、2020年代には支払いを受けられなくなる小規模太陽光発電(100kW以下)に対する暫定的な措置が含まれている。非常に小規模な太陽光発電においては、買取期間終了後に市場などで電力を販売することは、発電所の所有者にとって採算が合わない可能性が高い。

そのため、撤去されたり、放置されたまま運転されたりすることを防ぎ、買取期間終了後も発電を継続させるために、2027年までの間、市場価値から販売コストを差し引いた金額で暫定的な報酬が与えられることになっている。

古い陸上風力発電は、2025年までに約16GWが買取期間終了となる可能性があるが、最も古くて小さいものでも100kW以下の容量の設備はほとんどなく、小規模太陽光発電に適用された暫定措置の恩恵を受けることはできない。しかし、これらは従来型電源よりも優先給電されるため、系統に接続したまま電力を販売することが可能だ。

ただし、COVID-19パンデミックにおける電力市場価格低下によって引き起こされる問題を軽減するため、2021年の終わりまで陸上風力発電に対する暫定的な支払い措置は含まれている。

2021年の最初の半年間に、エネルギー省は特に古い風力発電機を対象とする規制を通過させようとしている。

2020年末および2021年末に固定価格での買取期間が終了する風力発電所に対し、2021年に1.5GW、2022年に1GWの入札に参加することができる。入札量は、買取期間が終了した風力発電所の約40%に相当するということも、EEG2021に示されている。

エネルギー省は、買取期間が終了する陸上風力発電は、2021年には3.7GW、2022年には2.4GWになると予想している。


メンテナンスされる陸上風力発電

電力価格における再エネ賦課金の変更について

ドイツのほぼすべての電力需要家は、使用電力量のkWhごとに、いわゆる再エネ賦課金を支払うことで、再エネを支援している。ただし、エネルギー消費量の多い企業は、国際市場での競争力が損なわれる場合には、賦課金の支払いを(一部)免除されることもある。賦課金は、卸電力価格と再エネ設備が系統に供給するkWh当たりの決められた買取価格との間のギャップを埋めるために使われている。

新しい設備、特に固定価格支払いが入札によって決定された設備は、市場の平均的な卸電力価格よりもわずかに高い買取価格となっている。一方、古い発電所の大部分は、市場価格を大きく上回る買取価格となっている。

卸電力価格と再エネの発電量に応じて、EEGにおける賦課金は毎年変動する。2020年には、賦課金は6.76ユーロセント/kWhに達したが、これは平均的な家庭が支払う1kWhの電気料金の約20%に相当する。

この他にも、EEG2021では重要な変更が加えられている。賦課金の一部が連邦予算から賄われることになったこともその1つだ。2019年秋に合意された政府の気候パッケージでは、賦課金について、2021年に0.25ユーロセント/kWh、2022年に0.5ユーロセント/kWh、2023年に0.62ユーロセント/kWhそれぞれ引き下げることが規定されている。

政府はこの賦課金の引き下げに110億ユーロを充当し、2021年時点では輸送用燃料や暖房用燃料に対するカーボンプライシングの収入も充当する予定だ。その結果、賦課金は2021年には6.5ユーロセント/kWhに設定されている。

また、EEG2021は、賦課金の支払いを免除されている企業への措置を約束している。というのも、COVID-19のパンデミックによる景気の悪化のため、エネルギー使用量が賦課金免除の基準に達しなかった企業は、賦課金を全額支払わなければならなくなり、さらなる負担が発生することになるからだ。 

その他、陸上風力発電や太陽光発電の入札における上限値を引き下げる一方、設置可能なエリアの拡大による太陽光発電システム間の競争促進などを通じて、消費者に対する賦課金の削減も盛り込まれている。

再生可能エネルギーの普及拡大に向けた国民の受容性を高める

政府は、EEG2021により、再エネ導入に対する受容を促進するという公約を実現したいと考えている。風力発電所の建設を許可した地域では、20年間、風力発電所からの収入のうち0.2ユーロセント/kWhが還元される。

この金額は、風力発電所の運営者が近隣住民に割引価格で電力供給契約を提供した場合、減額することが可能だ。また、風力発電事業者は、会社の住所がある自治体ではなく、風車が設置されている自治体に税金の大部分を支払うことになる。

また、政府は、いわゆる「テナント電力スキーム」が軌道に乗るように支援したいと考えている。住宅所有者は屋根に太陽光パネルを設置し、固定価格買取制度による売電収入を長年にわたって得ることができたが、賃貸住宅に住む人々はこの制度を利用することができない。

賃貸住宅のオーナーは、太陽光発電を設置して入居者に利用させる十分なインセンティブがなかった。これに対し、EEG2021では、オーナーが住宅に太陽光発電を設置することで、テナントが支払う賦課金の水準を引き上げるとともに、オーナーが支払う税金を免除することで、テナント電力スキームを導入しやすいものにしている。

南部での風力発電やバイオマスの増加

(風が弱い)ドイツ南部での風力発電の拡大を奨励するために、EEG2021では「南部向けクォータ(quota for the south)」が導入された(2021年から2023年の間に落札される電源の15%を南部に割り当て、2024年にはこれを20%に引き上げる)。

同様のクォータ(50%)がバイオマス設備の入札にも適用される。これは、電力消費が多い南部の産業エリアの原子力発電所が2022年末に完全に停止されるまでに、南北の送電網接続が間に合わなくなるリスクを考慮し、発電設備立地の南北不均衡を減らすことを目的とした措置だ。

一方で、いわゆる「系統混雑地帯」と呼ばれる地域(主にドイツ北部)がクォータから除外されているが、それはこのエリアでのさらなる陸上風力の増加が系統に問題を生じさせる可能性が高いことによる。エネルギー省によると、北部でのクォータは「いくつかの理由で」機能しなかったとのことだ。

マイナスの電力価格

マイナスの電力価格は、例えば祝日など電力需要が非常に少ない日と、とりわけ晴れた日風の強い日における太陽光発電や風力発電からの高出力が重なった場合に発生する。マイナスの市場価格は再エネ賦課金を押し上げるため、EEG2021は、このような時期の過剰な発電を避けるべく、新規の再エネ発電設備がより柔軟に対応することを強制している。

スポット市場価格がこれまでの6時間連続ではなく、4時間連続でマイナスになった場合に、固定価格による買取はストップする。

政府は発電事業者に対し、「蓄電事業者との協力契約を結んだり、より継続的な発電を可能にする新技術を利用したり、あるいは電力先物市場でのヘッジ取引を行ったりするなど、マイナスの電力価格が生じた場合に対するヘッジ方法を独自に見つけなければならない」と述べている。

エネルギー省が2021年初頭に再生可能エネルギーの目標を見直した後、ルールがさらに厳格化される可能性がある。

太陽光発電

EEG2021は、750kW以上の屋根上に設置された太陽光発電設備の入札参加を義務付けるものとなっている。すべての小規模な屋根上太陽光発電設備には固定価格買取制度が適用され、市民が運営するソーラーパークにも同様の制度が適用されている。一方、EEG2021では、300kW未満の屋根上太陽光発電にも入札に参加するオプションが与えられている。

そして300~750kWのシステムに対しては発電量の全量を入札に参加するか、固定価格買取制度を利用すると同時に電力の一部を自家消費するかの選択肢が与えられている。後者の場合、発電量の50%までしか固定価格買取制度で売電することができない。


ドイツの屋根上太陽光発電

スマートメータリング

エネルギー省は「エネルギー転換のデジタル化を進めるが、同時に、影響を受ける再エネ発電所の運営者に過度の負担をかけない」ため、小規模再エネ設備へのスマートメーター義務化(1〜7kW が対象)を白紙に戻した

水素を取り入れる

政府は、新しい水素戦略にそって、グリーン水素の製造者が使用する電力に対する再エネ賦課金の支払いを一部免除している。

再エネを利用して水素を生産し、その設備や製品が系統の安定性とエネルギー供給の持続可能な発展に貢献していることが確認されている企業に対しては、賦課金の全額が免除されるが、その他の企業については部分的な免除となる。

ただし、これらのグリーン水素製造事業者は、EEGの支援を受けていない再エネ発電設備、例えば電力購入契約(PPA)による再エネ電力を利用しなければならない。

気候中立社会のキーテクノロジーのひとつであるグリーン水素は、スケールアップや開発・実証期間中のコストの高さを考慮する必要があり、コスト削減の枠組み条件が必要であると政府は理由を述べている。また、生産の海外移転を防ぐための支援も行われている。

政府は、2030年までに最大290件の水素プロジェクトが部分的または完全免除を申請すると予測している。また、その時期には、水素の市場導入が完了し、EEG賦課金の完全免除はもはや必要なくなると政府は主張している。

法案に欠けているもの

政府は、再生可能エネルギー法に関するさまざまな決定を2021年に延期した。これには、EUの新しい2030年の気候目標にそったより高い再エネ目標の決定や、古い風力発電の入札に関する仕様などを含んでいる。

これに加えて、連邦議会は、近い将来、再エネ促進の分野で政府が取ることを期待するさらなる行動を列挙した。その中には、再エネ賦課金の廃止後に導入すべき資金調達モデルの考え方、既存の風力発電所のリパワリングを促進するための法改正、再エネ事業者と民間消費者との間の電力購入契約(PPA)の枠組み条件の改善などが含まれている。

同法案への批判については、“Breakthrough in Germany’s renewables reform: wind and solar capacity to grow faster” を参照のこと。

記事:ケアスティン・アップン(Kerstine Appunn)Clean Energy Wire記者

元記事:Clean Energy Wire “What's new in Germany's Renewable Energy Act 2021” by Kerstine Appunn, 6 Jan 2021. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳

古屋将太
古屋将太

認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)研究員。デンマーク・オールボー大学大学院博士課程開発・計画プログラム修了、PhD(Community Energy Planning)。地域参加型自然エネルギーにおける政策形成・事業開発・合意形成支援に取り組む。著書に『コミュニティ発電所』(ポプラ新書)。共著に『コミュニティパワー エネルギーで地域を豊かにする』(学芸出版社)。

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