2021年6月9日、風力発電メーカー大手のシーメンス・ガメサが、2030年には陸上風力による水素製造、2035年には洋上風力による水素製造が競争力を持つという見通しを示したホワイトペーパーを発表した。
シーメンス・ガメサが発表した業界向けホワイトペーパーは「グリーン水素革命の幕開け」と題するもの。2030年までに陸上風力発電でコスト競争力のあるグリーン水素を、2035年までに洋上風力発電でグリーン水素を供給するという野心的な計画を紹介している。シーメンス・ガメサは、今後10年以内に低コストのグリーン水素を供給するためには、市場の需要と生産規模の両方を促進する統合的なアプローチが必要であるとし、4つの重要な要件を強調している。
ホワイトペーパーによると、2019年の世界の水素の需要は約7,500万トンで、そのほとんどは化石燃料から製造されている。今後、2050年までに年率7%で需要が増加し、用途も化学工業や製造業だけではなく、燃料などの需要が増える。
需要が増加する水素について、化石燃料由来から再エネ由来に転換していくためには、化石燃料由来のグレー水素と同等の価格(化石パリティ)にしていく必要がある。
そのための課題は3つあるという。電気分解の設備の容量の拡大、貯蔵・流通・輸送のためのソリューションの開発、イノベーションのための政策フレームワークだ。
その上で、市場を促進する4つのアプローチは、以下の通り。
1. 自然エネルギーの容量を増やす。
2050年には、水素の需要が5億トンに達すると予想されており、この需要の大部分をグリーン水素で賄うためには、3,000〜6,000GWの再生可能エネルギーの新規導入が必要となる。世界各国の政府がパンデミック後の復興を目指している中、再生可能エネルギーの導入による社会経済的なメリットを享受しながら復興を進めることができる。
2. コスト効率の良い需要サイド市場の創出
需要が増えることで、グリーン水素経済が始まり、市場規模が拡大し、機器、インフラ、運用コスト、さらには資金調達コストの低減にもつながる。現在、グリーン水素製造の主な運用コストは、電気分解設備への電力供給だが、エネルギーコストが下がれば、水素のコストが下がり、需要が高まる。同様に、電解槽のコストは現在の約1,000ユーロ/kWから、今後10年間で500ユーロ/kW以下になると予測される。
3. サプライチェーンの構築
水素の製造から販売までを一貫して行うことのできるサプライチェーンを構築するためには、再生可能エネルギー企業、電気分解設備メーカー、水素ネットワークプロバイダー、水処理専門家などが連携する必要がある。カーボンフリー経済のビジョンは、重厚長大な輸送や重工業など、電力化が困難なセクターがネットゼロエミッションに移行して初めて達成されるが、これを現実のものとするためには、早急に費用対効果の高い産業規模の水素を製造する必要がある。
4. 適切なインフラをサポートする物流、貯蔵、流通
水素を主流のエネルギー源として定着させるためには、インフラが不可欠であり、また、これをサポートするための物流、貯蔵、流通など、水素グリッドネットワークへの投資が必要である。欧州では、「欧州水素バックボーン計画」のような計画が進められている。こうしたグリッドを世界中のすべての地域で検討する必要がある。
シーメンス・ガメサのCEOであるAndreas Nauen氏は、「グリーン水素に関しては、今すぐ行動を起こす必要があります。風力や太陽光が化石燃料に対してグリッドパリティを達成するのに30年かかりましたが、グリーン水素が化石燃料由来の水素と価格が同等になるまで、これほど長く待つ余裕はありません。風力は、経済の脱炭素化に欠かせないグリーン水素の生産を促進する上で強力な役割を果たします。したがって、グリーン水素の可能性を引き出すためには、コストを早く下げる必要があります。そのためには、産業界、政策立案者、投資家のコンセンサスが必要であり、需要側の市場を迅速に開拓し、サプライチェーンを構築し、必要なインフラを展開する必要があります」と述べている。
シーメンス・ガメサは、デンマークにおいてバッテリー、タービン、電解槽を統合し、既存の風力発電プロジェクトから近い将来にグリーン水素を製造するなど、いくつかの技術パスウェイのテストベッドとしての役割を果たしている。さらに、シーメンス・ガメサとシーメンス・エナジーは、洋上風力発電のタービンに電解槽を完全に統合し、同期した単一のシステムとして直接グリーン水素を製造する革新的なソリューションを共同で開発することを発表している。このソリューションは、オフグリッド運転が可能なため、水素のコストを下げることができ、より多くの優れた風力発電所の建設を可能にするという。
ニュースの最新記事