2021年2月中旬に発生した、テキサス大停電は、今なお検証が続いている。また、わずかな期間に数年分に相当する支払いを抱えた電力会社は苦境に立たされている。日本でも関心が持たれているのは、テキサスの電力市場モデル「エナジーオンリーマーケット」が機能したのかどうか。とりわけ容量市場の導入が必要かどうかだろう。エネルギ-戦略研究所 取締役研究所長の山家公雄氏が詳しく解説する。
目次[非表示]
テキサス大停電が発生して、1ヶ月半経過した。日々メディアで大きく取り上げられたこの事件も、落ち着きつつあり、この間明らかになった状況やデータを基にシンクタンクや大学等からの分析・提言をまつ段階となった。筆者は当問題について本紙に3回寄稿し、事件の概要、発生要因等について解説・考察した。
今回は、現在までの情報を基に「テキサスモデルは機能したのか」に焦点を当てて中間的な総括を行うものである。
テキサス州電力需要の約9割は独立系統運用機関(ISO)であるERCOTの管轄となる。図1はERCOT管内において、この冬最も逼迫した時期の電力需給推移を示している。
横軸は時間で、ERCOTおよび市場参加者が大寒波来襲を確信した2月8日から計画停電が終了した翌日の2月20日迄である。縦軸は時々刻々の電力需給量(kW)であり、点線は予想需要量、実線は実際の需要量(削減後)で、実線の下のカラー表示は電源種毎の供給量である。
14日にはこの冬の最大需要を記録し、2月15日1時23分から2月19日10時32分まで、105時間に及ぶ制御された停電(Controlled-Blackout)が続いた。
図1 テキサス停電時の需給推移(2021/2/8~2/20)
(出所)EIA(Energy Information Administration) 一部加筆
停電開始後40分以内の1,000万kWを含め2,000万kWもの削減が行われたが、この間は夏季ピーク時をも上回る需要急増が見込まれていた。その差は3,500万kWにもおよび、衝撃の大きさが理解できる。なお、供給急減はガス火力発電停止の影響が大きいことが分る。
改めて需要を見ると、2月9日に入った後に実需要が予想需要を大きく上回り始める。13日以降は予想量は急増していくが、実需要はそれを下回るようになる。これは、市場価格がスパイクし自主的な需要削減が生じたと考えられる。
実は2月13日7時におけるERCOT予想は衝撃的な数字を示していた。15~16日に夏季ピーク実績(74,820MW)を超える76,000MWとなっていたのである。
もちろんこの情報は全ての市場参加者が共有することとなり、市場に緊張が走った。これを受け、13日9時にリアルタイム市場価格は上限の9,000ドル/MWhに接近し、14日には前日市場価格が7,000ドルに達している(図2)。
米国のISO/RTOモデルは、卸取引市場を最も重要な市場と位置付けている点では同一であるが、エナジーオンリーマーケットであるテキサスは、特に市場価格シグナルを重視する。今回は価格はどのように動いたのか改めてみてみる(図2)。
図2 ERCOTの前日・リアルタイム市場価格の推移(2021/2/13~21)
(出所)ERCOT 一部加筆
2月12日金曜日には州政府は緊急事態宣言を出している。ERCOTは、1週間前より需給予想を提示し、前日そして当日とより正確な情報を提示する。リアルタイム市場価格は、2月11日には一時4,000ドル/MWhを記録していた。
そして、前述のように2月13日に上限値9,000ドル/MWhに近い水準まで高騰し、2月14日には前日市場価格が何回か7,000ドル/MWhを、そしてアンシラリー価格が24,000ドル/MWhを記録している。このシグナルにより予想需要量と実需要量の乖離は縮小している。すなわち需要減少、供給増加の効果があったと考えられる。
2月15日早朝から始まった計画停電の間は、PUC(Public Utilities Commission:公共事業委員会)の指示を受けて上限の9,000ドル/MWhに張り付いたが、2月19日午前の計画停電終了発表後は急速に低下しノーマルな状況に戻っている。
ERCOTの通常の価格は30ドル/MWh前後である。時々刻々に示される需要見通しを含め、指標として機能したと考えられる。
著名な電気工学の学者でERCOTモデルの生みの親であるハーバード大学ケネディスクールのホーガン教授は「モデルの通りに働いた」と評価している。
今回のテキサス大停電は多くの関心を集めている。ERCOTは、いくつか特徴があり、「テキサスモデル」と称される。特に① 系統が独立しており電力制度において連邦政府の規制を受けない、② 電力の価値を販売電力量(kWh)に限定している「エナジーオンリーマーケット」である、の2点に集約される。
前者(①)については、テキサス州は約200年前にメキシコから独立して以来、その州旗に象徴されるように「ローンスター・ステート」であり、憲法上住民が望めば独立も可能である。
独立系統に拘るのは、連邦政府の規制を嫌い、透明性のある競争政策を基本方針として掲げているからである。同州は、経済面も技術面でも著しい成長を遂げ、米国の成長センターとしての実績がある。
電力需要は2001年から2019年までに35%増えており、これは全米平均の3倍である。発電電力量は全米No.1で、11%を占める。今回の停電は、隣接州も軒並み停電となっており、仮に連系していても効果は期待できなかった。現在再発防止策に係る法案が上下院で出揃ったところであるが、他州との連系に関する項目はない。
②は容量市場をもたないこととほぼ同義である。それが供給力不足を招いたとの指摘もあるが、話はそう簡単ではない。発電可能量(kW)は十分にあったが、凍結や燃料不足で稼働できなかったのである。
容量市場では、逼迫時にも稼働できるように準備しておく義務(リクワイアメント)があるので防寒対策を施していたはずである、という主張がある。しかし、今回のような想定外の寒気への対策をとっていた保証はないと考える。
100年一度の厳寒対策を求めていたとしたら、容量市場に応募しないだろうし、応募したとしても実施せずにペナルティ支払いを選択するであろう。仮に発電設備に防寒対策を施していたとしても、ガス生産設備が未対策の場合は無意味となる。
筆者がみるところ、容量市場創設が解決策という主張は少なく、劣勢である。優勢なのは、やはりWinterizationであり、防寒対策や省エネ対策である。
著名な投資家ウォーレン・バフェット氏のエネルギ-投資会社は「83億ドルで燃料付き天然ガス火力発電10GWを予備力として設置する(2021年3月25日報道)。テキサスは容量支払いと投資回収率9.3%を保証する」という提案を州政府に対して行った。戦略的容量メカニズムの類型である。
専門家は、この提案に対して低い評価を下す。住宅等の断熱等省エネ投資が最も効率がいい、デマンドレスポンスを推進すべき、電源では風力の防寒対策は低コスト、再エネと蓄電池への支援の方が合理的、等の主張が多い。
今回のテキサス大停電では、需要急増、供給力急減というダブルパンチに短時間で見舞われ、系統運用者は「2つのエンジンが停止した状態下でのランディングを成し遂げた」(前ERCOT理事談)と評価されている。
需給双方の対策が必要となるが、費用対効果では省エネ投資が優先との指摘が多い。なお、ERCOTは2021年3月25日に2021年夏季需給見通しを発表したが、ピーク需要は77,000MWと最大値を更新するが予備率は15.5%を確保する。
(明日(4/7)公開の後編へ続く)
*EnergyShiftの「テキサス」関連記事はこちら
エネルギーの最新記事