シリコンバレーのACES革命最前線 | EnergyShift

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シリコンバレーのACES革命最前線

シリコンバレーのACES革命最前線

2019年12月02日

自動車業界を中心に新しいテクノロジーが出てきている。米国ではACESと呼ばれる(複数のエース)トレンドは社会をどう変えていくのか。シリコンバレーでのACESをアークエルテクノロジーズの宮脇良二氏がリポートする。

日本のCASE、アメリカのACES

筆者は2018年9月から2019年9月までスタンフォード大学の客員研究員として1年間シリコンバレーの中心地、パロアルト市で活動した。シリコンバレーの1年間で最も驚いたのが、自動車の進化である。自動運転のテストカーを目にしない日はなく、街を走る車のEVは日に日に増える。移動はウーバーかリフト、ナビはスマホの音声入力である。未来の車社会の姿が既にそこに構築されつつあった。

日本ではCASE(Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric)と呼ばれている新しい自動車のトレンドを、シリコンバレーではACES(Autonomous, Connected, Electric, Sharing)と呼ばれている。CASEは現在の状態を表すのに対し、ACESは複数のエースという前向きな表現であることから、そちらが使われている。本稿では、シリコンバレーで既に起こっているACES革命の最前線をお伝えしたい。初回はEVについてレポートする。

Electric(EV)の急速な普及

シリコンバレーにおいてEVは既に日常である。私が住んでいたパロアルト市では2017年時点で、新車販売の約3台に1台はEVであり*1、シリコンバレー(ベイエリアと呼ばれるサンフランシスコ市からサンノゼ市までのエリア)では2018年時点で新車販売台数の約13%がEVかPHVだったとのこと*2。私が街を歩いている実感として10数台に1台はテスラ車が走っている印象である。テスラの普及車であるModel 3発売後は急速にその数が増えている。EV、特にテスラ車に乗ることはある種のファッションであり、経済的に余裕があり、先端の感度を持ったシリコンバレーの住人がどんどんEVに移行している。

また、一般家庭の乗用車以上に、バスの電動化が進んでいる。全米最大の広さを誇るスタンフォード大学には校内の移動と駅や研究所等へのアクセス用に多くのスクールバスが走っているが、多くが既にEVであり、早期に全てをEVにする計画である。ちなみに、スクールバスは中国のBYD社製(http://www.byd.com/en/index.html)である。責任者の話では要件にあったものを選ぶという事で、国等のバイアスなくプラクティカルに購買選定している。

スタンフォード大学を走るスクールバス(筆者撮影)車体に100% Electricとグリーンの文字で書かれている

加えてシリコンバレーを走っている路線バスもほとんどPHVとなっている。空港内のバスもEVになっており、サンノゼ国際空港では、シリコンバレーのスタートアップで三井物産も出資しているプロテラ社(https://www.proterra.com)のものが走っている。毎日の走行距離が決まっているローカルバスは、充電管理が可能なため、シリコンバレーに留まらず欧州や中国でもEV化が進んでいる。

EV充電器の拡大とユニークなビジネスモデル

EVの普及に伴い、EV充電器の設置が急ピッチで進められている。ショッピングセンターやオフィスビルの駐車場では、入り口に近い、とてもいい場所がEV充電のスペースになっているケースが多い。また、アパート向けの設置も進んでおり、一軒家でなくてもEVを購入できる環境整備ができている。

そして、EV充電は1つの産業になりつつあり、ChargePoint、eMotorwerks、gleenlots、EV connectを始めとした多くのスタートアップが生まれている。各社はEV充電器の設置計画から、交渉、施工、設備管理そして料金計算から決済までトータルでサービスを行っており、充電器のデザインやサービス品質等で凌ぎを削っている。

そうした中でユニークなビジネスモデルの開発も進んでいる。例えばVolta Charging(https://voltacharging.com)は、ショッピングセンターに無料で充電できるEV充電器を設置している。充電器にデジタルサイネージを付け、ショッピングセンターに入るテナントから広告料を徴収し、それを電気代に当てるというビジネスモデルである。

EVの充電には数十分の時間が必要であり、充電目当てでくる消費者の多くは、その時間で買い物に行く。EV充電はショッピングセンター側としては、充電を呼び水に消費者を惹きつけるとてもいい施策となる。EV充電は時間がかかるので不便で普及しないという話を聞くこともあるが、こうしたひとつひとつの工夫によって、新しい技術に対して、徐々に消費者の行動様式が変わり、普及が進んでいくのだろう。

再エネとEV、テスラの考え方

最後にEV充電と太陽光発電に触れたい。環境問題を考えるなら、EVに充電する電力はできるだけ再エネ由来であることが望ましい。実際に前述のスタンフォード大学のEVバスのステーションには大型の太陽光パネルが並んでおり、そこで充電が行われている。路線バスのステーションも同様である。

スタンフォード大学を走るスクールバスステーション(筆者撮影)横の建物の上には大型の太陽光が敷き詰められている

また、Google本社近くにある、Google Visitor Centerの駐車場には移動式の太陽光充電設備が置いてある。これはEnvision Solar(https://www.envisionsolar.com)という会社の製品で、太陽光発電と蓄電池をセットにし、そこに充電器をつけたものである。持ち運びができるために、設置が容易という利点があり、大型のサステナビリティのカンファレンス等で見かける事も多い。

実はEVの代表的な会社であるテスラ社は自らを自動車会社と定義していない。彼らが掲げている自らのミッションは”To accelerate the world's transition to sustainable energy”で、サステイナブルなエネルギーへの移行促進を目的としている会社である。

アメリカのテスラのショールームに行くと、車と一緒にソーラーパネル(TESLA Solar)と蓄電池(Powerwall)が置いてあり、自動車販売会社というよりは、エネルギー会社のように見える。そして、テスラが提供しているスマホアプリでは、その3つのエネルギーの管理ができる。シリコンバレーでは再エネとEVはセットで考えられているのである。次回は自動運転とシェアリングについてレポートする。

宮脇良二
宮脇良二

一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了。アクセンチュア株式会社(1998年4月-2018年6月)、1998年4月アンダーセンコンサルティング入社(現アクセンチュア)。2009年9月パートナーに昇進(現マネジングディレクター)し、2010年9月電力・ガス事業部門統括に就任。 アークエルテクノロジーズ株式会社を2018年8月、代表取締役として立ち上げる。九州・アジア経営塾指導パートナー(2011年〜現在)、スタンフォード大学客員研究員(2018年9月〜)。電力・ガス、新電力、エネルギー関連テクノロジー企業、スマートシティ関連企業を中心に活動を広げる。専門はIT・デジタル戦略、営業・マーケティング戦略、組織風土改革、大規模プロジェクトマネジメント。

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