EVの進化を加速させる5つのドライバーとは:平井陽一朗のテスラに乗って 最終回 | EnergyShift

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EVの進化を加速させる5つのドライバーとは:平井陽一朗のテスラに乗って 最終回

EVの進化を加速させる5つのドライバーとは:平井陽一朗のテスラに乗って 最終回

2022年02月28日

これまでの連載では、電気自動車(EV)の普及や進化の方向性について、平井氏の個人的な見解も含めてざっくばらんに意見を述べていただいた。

最終回となる今回はEVがどのように進化を加速させていくか、5つのキーポイントを軸にお届けする。

EVの進化を加速させる5つのドライバー

これまでの話をまとめますと、これから先、EVの進化を加速させるドライバーは大きく次の5つが考えられるかと思います。

  1. 環境目標に対するコミット
  2. 航続距離、電費、充電拠点の改善
  3. 車中体験の進化
  4. ビジネスモデルの多様化
  5. ワクワクするデザイン

この5つのドライバーについて解説していきます。

1.  環境目標に対するコミット

以前にも取り上げましたが、例えばEUが2035年にガソリン車の新車販売を事実上禁止したり、日本政府が2030年度に温暖化ガス排出を2013年度比で46%減らすとの方針を発表するなど、各国が環境目標を大幅に引き上げています。今後もこのような政府主導の「規制」によって、EVシフトが後押しされる可能性は大いにあるでしょう。

2.  航続距離、電費、充電拠点の改善

私がテスラを手放した理由の一つがまさにこれで、国内のEV充電拠点はまだまだ少なく、充電に時間がかかります。しかし、これらの課題は今後飛躍的に改善していくものと思われます。

第一に、バッテリー技術は日進月歩で進化しており、例えば報道によると、パナソニックは航続距離を従来型よりも2割ほど長くする新型リチウムイオン電池を開発し、その量産準備を進めているようです。また、EV充電拠点については、日本政府が「2030年までにEV向け急速充電器を3万基設置する」との目標を掲げ、インフラ整備を後押ししています。需要面では、以前の記事でも述べた通り、地方を中心に軽自動車タイプのEVが普及する可能性が大いにあると感じています。

このように、技術進化、需要喚起、それに伴うインフラ整備の掛け算で、EVの普及が一気に加速するのではないかと期待しています。

3.  車中体験の進化

本連載ではあまり触れませんでしたが、これからはモビリティに占めるソフトウェアの役割が大きくなり、車そのものが「アプリケーション(機能の集合体)」としての側面を持つようになるでしょう。そして、さまざまな機能の中でも、ドライバー補助をはじめとする車中体験は重要な位置を占めると思います。

ドライバー補助の基本機能であるナビゲーションを一つとっても、まだまだ不便だと感じる方は多いのではないでしょうか? 私自身の経験でいうと、テスラですら正直まだまだ・・・と思うことがありました。テスラのナビはグーグルマップをベースとしていますが、実際に使ってみると「そんな細い道、入れないよ〜」みたいな道を案内されてしまい、狭い住宅街で何度も切り返してなんとか切り抜ける、といった経験が多々ありました。AIや衛星データ等を活用し、自動車各社がナビゲーションの精度向上に取り組んでいますので、今後の車中体験が飛躍的に向上することを期待しています。

また、クルマという空間をどのように定義し、何をして過ごすのかという観点で「車中体験」をとらえると、さまざまな可能性が見出せます。仕事場として、エンターテインメントを楽しむ場として、あるいは家でも職場でもない「サードプレイス」として、など、ユーザーのニーズに合わせた提案が求められるでしょう。例えば、私の住むマンションには企業のオフィスがあり、駐車場には営業車がたくさん停まっています。その営業車を仕事場として使うことができれば便利だろうな、と思うことがあります。その場合は、後部座席は思い切って執務スペースに変えられるなど、工夫の余地が大いにあると感じています。いずれも構想段階ではありますが、ボルボが2018年に発表したコンセプトカー「360c」は、車内をオフィス空間やベッドルームとして利用するシーンを提案していたり、LG電子が2022年のCESで発表したコンセプトカー「LG OMNIPOD」は、壁面ディスプレイやXR技術を組み合わせて、テレビ会議やフィットネスができるといった新しい車中体験を提案しています。

自動車に、かつて夢みたような機能が充実していく未来・・・次ページ

平井陽一朗
平井陽一朗

BCG Digital Ventures Managing Director & Partner, Head of Asia Pacific & Japan 三菱商事株式会社を経て2000年にBCGに入社。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパン、オリコンCOO(最高執行責任者)、ザッパラス社長兼CEO(最高経営責任者)を経て、2012年にBCGに再入社。キャリアを通し、一貫して事業開発に関わっており、特にデジタルを活用した新規事業立ち上げを多く主導。 BCGハイテク・メディア・通信グループ、およびコーポレートファイナンス&ストラテジーグループのコアメンバー。メディア、エンターテインメント、通信業界を中心にアライアンス、成長戦略の策定・実行支援、特にデジタル系の新事業構築などのプロジェクトを手掛けている。 また、BCG Digital Ventures 東京センターの創設をリードし、2016年4月の同センター開設後は、マネージングディレクター&パートナー、およびジャパンヘッドとして、2021年からはアジア・パシフィック地区のヘッドとして、新規事業アイデアの創出、新規事業の出資を含めた立上げなどを幅広く手掛けている。同デジタルベンチャーズ出資先数社の社外取締役を兼務。

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