2030年のエネルギーシステム:地域のレジリエンスを強化する分散型エネルギー 東京工業大学 柏木孝夫特命教授に聞く(1) | EnergyShift

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2030年のエネルギーシステム:地域のレジリエンスを強化する分散型エネルギー 東京工業大学 柏木孝夫特命教授に聞く(1)

2030年のエネルギーシステム:地域のレジリエンスを強化する分散型エネルギー 東京工業大学 柏木孝夫特命教授に聞く(1)

2020年01月20日

東京工業大学 柏木孝夫特命教授に聞く(1) 後編はこちら

エネルギーシステム、とりわけ電力供給システムは、大型発電所と基幹送電線に代表される、一方向・一極集中型のモデルから、双方向・分散型のモデルへと変化しつつある。その背景には、再エネの拡大や人口減、災害対策など、新たな課題への対応がある。こうした分散型のエネルギーシステムに取り組んできたのが、東京工業大学の柏木孝夫特命教授である。
経済産業省総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員など数多くの委員も務める柏木氏に、2030年を視野に入れたこれからのエネルギーシステムについて、あらためて話を聞いた。

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アジアに日本の脱炭素モデルを

―最初に、これからの社会のエネルギーシステムの全体像からおうかがいします。

柏木孝夫氏世界の電力消費は、1990年は年間約10兆kWhでしたが、2018年には年間約22兆kWhまで増加しました。2.2倍に増えています。単純にエネルギー消費量が増えているというだけではなく、電力化も進んでいるということです。先進国は横ばいですから途上国で増加しており、特に伸びているのはアジア諸国です。

日本も震災後は減少したとはいえ、年間1兆kWh弱で推移しており、最近は増加傾向にあります。しかし日本では、脱炭素への移行が少しずつ進んでいます。これは今後、さらに推進していく必要があるでしょう。同時に、日本が構築した脱炭素モデルを、アジアを含む海外に積極的に展開していくことが求められると思います。

―脱炭素モデルというのは、どのようなイメージでしょうか。

柏木氏世界各地の農山村や都市部において、スマートコミュニティのモデルを主にアジアに展開していくべきだと考えています。特にアジアには自然エネルギーが豊富にあり、これをコージェネレーションシステムで効率良くバランスを調整しながら、エネルギーの地産地消を進めていくといいでしょう。こうしたモデルを日本が輸出できるのであれば、新たな成長戦略を築くことができると思います。

東京工業大学 柏木孝夫氏

「真の地産地消型エネルギー」を目指して

―とはいえ、そうした地産地消は、まず日本での展開が渇望されるものです。

柏木氏2018年に「超スマートエネルギー社会5.0」という本を出版したのですが、古屋圭司元国土強靭化担当大臣にはしっかり読んでいただきました。2019年3月には、古屋議員を会長として「真の地産地消型エネルギーシステムを構築する議員連盟」が設立されました。私も特別顧問として、お手伝いさせていただいています。エネルギーに関する議員連盟はいくつもありますが、地域できちんとお金をまわしていく仕組みをつくる、ということで、「真の」という言葉をつけています。

この議連では、2019年の参議院選挙前までに4回の勉強会を開催しており、エネルギーの面的利用を通じて、いかにお金を地域で回していくか、検討を重ねてきました。議員立法で実現するのか、政省令で対応するのか、そういったことも議論しています。

―面的利用とはどのようなものですか。

柏木氏面的利用というのは、自治体、送配電会社、地域の再エネ事業者、地域電力会社などが緊密に連携し、災害時には自立したエネルギーシステムとして運用可能なものにしていく、というイメージです。

エネルギ―の面的利用概念図(資源エネルギー庁資料「地域の系統線を活用した エネルギー面的利用システム(地域マイクログリッド)について 」をもとに編集部が作成)

―なるほど。

柏木氏国の「国土強靭化年次計画2019」では、「エネルギー需給構造の強靱化のための分散型電源等の導入を実施」というのが取り組み例として盛り込まれました。

この年次計画は、他の年次計画に対して傘の柄のような位置にあります。他の年次計画がぶらさがってくるということです。また、経済財政諮問会議の「骨太の方針」でもエネルギー資源にふれています。

このように政策的に位置づけられたことで、日本ではまだまだ太陽光発電が増えるような政策がとられるでしょうし、風力発電をはじめ、中小水力発電や地熱発電も環境に配慮しながら整備されていくでしょう。

―バイオマス発電はいかがでしょう。

柏木氏バイオマス発電の場合は、まずは国内の間伐材利用を考えるべきですが、一定の割合で輸入バイオマスも必要だと思います。

再生可能エネルギー全体を見ると、バイオマス発電を除いた太陽光・風力・水力などは限界コストがゼロに近づいていきます。ゼロにならないとしても、低コストのエネルギーとして伸びていくことになるでしょう。

再エネが安価なエネルギーになってくれば市場が拡大しますし、安価な再エネをうまく入れていくことで、エネルギーの地産地消になっていく、ということです。

―その意味では、FITによるメガソーラーなどは、外資の参入などもあり、地域でお金がまわるようになっていないという指摘もあります。

柏木氏おっしゃる通りです。金利目的の外資によるメガソーラーでは、再エネが増えるというメリットの一方で、日本の富が流出していくという懸念もあります。また、全般的にいいかげんな施工による太陽光発電設備も少なくありません。

真の地産地消となるには、地域の人々が安心してくれる設備を、地域の人が良く知っている場所に建設していくことが必要でしょう。

配電事業の新規参入で変わる電力システム

―一方で、地域新電力を含め、地域エネルギー事業がなかなかうまくいかないという現状もあります。

柏木氏エネルギーの地産地消を促進していくには、エネルギーの面的利用が不可欠です。そのためには、地域の配電系統の活用も不可欠になってきます。2020年度予算案では、面的利用の実証試験に21億円を計上しており、12か所で3年間にわたって支援していくことになります。

そもそも、日本の地域新電力が、ドイツのシュタットベルケ(エネルギーを中心に、水道、交通など公共インフラを整備・運営する自治体所有の公益企業(公社))のようにうまくいかない理由の一つは、配電事業が自由化されていないことです。ドイツでは配電事業がきちんと収益を出し、シュタットベルケを支えています。

日本では、配電事業は自由化されていませんが、これを免許制にすることで、第三者が合理的に使えるようになります。このことは、再エネ大量導入への対策ともなります。これは大手電力会社にとっても、メリットがあります。

-どのようなメリットでしょう。

柏木氏例えば、2019年は千葉県や長野県で災害による停電がありました。既存の電力会社だと迅速な対応が難しく、割高にもなりかねません。地域の配電事業者が参入することで、地場産業による自立した配電系統として合理的に運用できますし、託送料金も適正な価格にしていくことができます。

―配電事業への参入を認めるというのは、大きな変化だと思います。これは、どのような形で法案ができるのでしょうか。

柏木氏2020年4月に送配電事業が分離されますが、そこをさらに踏み込んだ、電力システム改革をさらに進めるものになると思います。

2019年11月28日の議連でディスカッションしました。議員立法では難しいという意見もありましたが、まだどうするかは決まっていません。それでも、2020年の通常国会には法案を提出する方向で話を進めています。法案が成立していくことで、こうした改革を通じて、地域の持っている自然由来の再エネを主力電源化していくことができます。

面的利用の実証事業を通じて、優良モデルをつくりだし、あるいは優良施設を整備していくことで、地域エネルギー事業をこちらの方に舵を切っていくことができるでしょう。
また、グリーン税制などにより、地域新電力や配電事業者を支援することで、マネタイズしやすくなると思います。いいものであれば優遇税制を適用していくということです。

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(取材・執筆:EnergyShift編集部 本橋恵一)

柏木孝夫
柏木孝夫

東京工業大学 特命教授・名誉教授。1946年東京生まれ。70年、東京工業大学工学部生産機械工学科卒。79年、博士号取得。1980~81年、米国商務省NBS招聘研究員、東京工業大学工学部助教授、東京農工大学大学院教授を経て、2007年より東京工業大学大学院教授、2009年より先進エネルギー国際研究センター長、12年より特命教授・名誉教授。 2018年より、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期 エネルギー・環境分野プログラムディレクターに就任。現在、経済産業省総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員など数多くの委員を務め、長年、国のエネルギー政策づくりに深く関わる。2017年、エネルギー・環境分野で最も権威のある国際賞「The Georg Alefeld Memorial Award」をアジアで初受賞。おもな著書に「超スマートエネルギー社会5.0」、「コージェネ革命」など。

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