エネルギーインフラ輸出、日本の方向性は変わらない? 経産省「インフラ海外展開懇談会」中間取りまとめを読む | EnergyShift

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エネルギーインフラ輸出、日本の方向性は変わらない? 経産省「インフラ海外展開懇談会」中間取りまとめを読む

エネルギーインフラ輸出、日本の方向性は変わらない? 経産省「インフラ海外展開懇談会」中間取りまとめを読む

2020年06月16日

経済産業省の「インフラ海外展開懇談会」は、今年2020年5月に電力・エネルギー分野を対象とした「中間取りまとめ」を公表した。その内容はどのようなものとなったのか、また将来の海外展開の方向性に問題はないのか。エンジニアリングビジネス誌編集長・宗 敦司氏が解説する。

海外インフラ政策は方向転換できるか

経済産業省(METI)は今年(2020年)4月から「インフラ海外展開懇談会」を開催している。これまでの「経協インフラ戦略会議」にかわり、日本企業を取り巻く市場環境や地球規模課題等の社会情勢を踏まえた上で、インフラシステム輸出を推進していくため、ファクトを整理・検証し、その方向性を検討することを目的としたものである。

だが、わずか2回の開催で公表された「中間取りまとめ(電力・エネルギー分野)」では、大きく環境が変化していることを認識しつつも、方向性については過去の追認に終わっているように見える。

脱炭素は進まないのか 原発、石炭の海外展開も維持

ここで記されているエネルギー市場の現状認識としては、大方同意できるものだ。例えば、中長期的にエネルギー需要は世界的に拡大し、電化も進展する。そして電力需要の約7割がアジア太平洋地域となる一方、デジタル社会の進展や循環経済などで電力需要が変化し、インフラ投資の動きが変化する可能性もあると指摘している。またSDGsや、ESG投資の加速など、需要拡大と気候変動対策の重要性の拡大についても記されている。

だが、例えば再生可能エネルギーのコストについて、低下傾向であることを認めつつ、系統側のコストまで勘案する必要がある、としているのはどうだろうか。
確かに変動電源である以上、系統側の調整機能は必要となる。しかし、大型原子力発電の新設でも容量の大きい送電線が必要となるが、電源側のコスト増加要因としては議論されることはない。

アジア・アフリカ等では、系統そのものを整備しなければならない地域が多い。その際に再エネ中心を前提に電力網を整備すれば、系統コストは再エネから外部化できる。そうした視点からの検討も必要だ。

また「ASEANでは当面、石炭火力がコスト競争力を有する」としているが、ASEANでも既に、一部では再エネの方が低コストとなる場面も出ている。今後のESG拡大の流れのなか、現状で石炭が安い地域でも、数年後にはコストが逆転する可能性が高い。具体化までに長期間を要するインフラでは、数年先まで含めて市場環境を認識する必要がある。

さらに、日本が石炭火力をやらねば「他国の非効率な石炭火力が供給される」という、それこそ化石のような一文もある。石炭火力の輸出国としては日本以外では中国や韓国ぐらいだが、両国とも超々臨界圧を提供できるので日本の優位性は確実ではないし、どこを選ぶかは輸入国側の姿勢の問題だ。未だに石炭火力を欲しがる国というのは確かにあるが、それらの国も今後は脱石炭火力に舵を切っていこうとしている。石炭火力が縮小市場であることは間違いない

原子力発電では、現在日本が関与する可能性のある海外の原子力発電計画は無い。世界の原子力プラント市場は中国とロシアにほぼ席巻されており、今後そのなかに再び日本が入っていく余地は殆ど無い

今回の取りまとめでは、福島事故の教訓も踏まえた原子力技術の安全性に対する期待の声に応えて行く、としており、プラントそのものではなく技術協力的な印象が強いが、安全技術も世界水準で必ずしも高いという訳でもない。
「インフラ海外展開」として原子力はほとんど存在感が無く、今後もさほど大きな期待ができない分野に記述を割いていること自体が総花的な印象を与える。

石炭火力や原子力で、十年一日のごとき理由で方向転換を図ることができていない。市場変化に対して柔軟な対応が出来ていないのではないかと感じる。

ベトナムの風力発電所

「輸出」からの脱却に期待

注目すべき点もある。特に、日本が目指すべき対応の方向性のなかで「日本製機器の優位性のみで海外のインフラ市場を獲得できた時代は終わりつつある」としている点は重要だ。もちろん世界的に有力で、スタンダードとなるような日本の機器・技術は依然として存在しているものの、日本の機器の優位性は相対的に低下してきている

一方で、インフラ設備の安定的な運転や相手国のキャパシティビルディングも含めた技術提供は高く評価されている。そのため制度整備や人材育成協力、出資参画、運営・管理(O&M)、ファイナンス等を組み合わせて提案していくことが重要としている。この方向性は正しい。

そしてこの方向性は、「インフラ輸出」という概念からの脱却へつながる。現在でも、海外インフラでは、日本から技術や人材を出していくだけでなく、相手先国や第三国から多くのリソース(機器、技術、人的資源)をまとめ上げている。その実態は「輸出」というよりも「インフラ貿易」だ。

今回の取りまとめでは、さらにデジタルトランスフォーメーションやIT技術によるビジネスモデルの展開、そして環境関連の技術や制度、事業参画といった所まで言及しており、単なる「貿易」からビジネスモデルの構築や事業主体としての参画を含めた、総合的な「インフラビジネス」への展開を示唆することにつながっている点は高く評価できる。

今後、同懇談会ではさらにデジタル分野を対象に開催し、最終取りまとめも実施していく予定だ。インフラ海外展開の方向性をどう位置付けて行くか、注目していきたい。

参照

宗敦司
宗敦司

1961年生まれ東京都東村山市出身。 1983年 和光大学人間関係学科卒業。 1990年 ㈱エンジニアリング・ジャーナル社入社。 2001年 エンジニアリングビジネス(EnB)編集長

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