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ソニー、Apple…異業種からのEV参入で、変わる自動車製造の産業構造と生まれる新たな車の価値

2022年02月04日

何故、異業種からの参入が増えているのか 

 ガソリン車EV
車体構造複雑比較的にシンプル
部品数約3万点約2万点
主要部品クラッチ、マフラー、燃料タンク、変速機などバッテリー、モーター、インバーターなど
組み立て企業間のすり合わせが多く、既存パイプを持たない企業の参入障壁が高い技術力を持った企業との一対一の繋がりが増え、新規参入のハードルが比較的低い

筆者作成

ソニーやApple、あるいはその他の企業にしても、何故、これまで手を出さずにいた自動車業界への本格参入が進められているのか。その理由として最初に挙げられるのが、EVはガソリン車に比べて参入障壁が低いという点だ。

EVは、ガソリン車と比較して車体構造がシンプルになっており、部品数はEVで約2万点、ガソリン車で約3万点とされている。主要部品もEVならばバッテリー、モーター、インバーターとなるが、ガソリン車はエンジンの他にクラッチやマフラー、燃料タンクに変速機と多岐にわたる。特にエンジン製造は新規参入組にとって高いハードルとなっていた。

また、部品が増えれば、組み立て工数が増えるだけでなく、製造企業間のすり合わせも増えることとなり、既存のパイプを持たない異業種からの参入障壁の高さに直結する。ましてや、トヨタやホンダ、日産といった自動車メーカーは完成車を扱う企業が中心となった系列グループを持つことが強みだった。

系列を持たない異業種EVが増えれば、ソニーがマグナ・シュタイアとの取引を行ったように技術力を持った企業との一対一のつながりが増え、素材メーカーの新規参入もハードルが下がることが予想される。また、既存メーカーでも系列を超えた新たな取引先を求める会社も増えていくだろう。

さらには、テスラに部品を供給してきた鴻海が、中国の自動車の大手メーカーである浙江吉利控股集団(ジーリー)と合弁会社を設立してEV製造に参入したように、その流動性を生かして、部品メーカーもその立ち位置を変えていく場合もある。

事業構造も変わってくるかもしれないと先述したのは、そのためだ。

IoT技術を生かしたスマートカーで新たな価値の創造も?

次に、製造工程とともに挙げられるEVならではの特徴が、スマートカー——つまりは、ITやスマート技術を駆使した安全快適な自動車という、新たな価値の創造だ。

ソニーにしてもAppleにしても、EV参入に当たってはIoT技術による社内空間の演出に力を入れていることが伺える。

ソニーのVISION-S 02では5G通信を生かしたエンターテイメント空間を車内で実現できることを売りにしており、AppleのEVに至っては、iPhoneやiPadのようなタッチスクリーンでの操作も目指しているとも言われている。スマートフォンなどで培ってきた技術とブランド力をそのままつぎ込もうという姿勢だ。

両社とも、得意技術を生かした車作りをしていると考えれば当然かもしれないが、それを生かせる機運がEVにあるからこそ、新規参入を試みたとも言える。また、異業種からの参入といいながらも、他に目立っているのがファーウェイや鴻海ということを考えても、EVならばIT技術を生かして新たな価値を創造しやすいと考えていることが見て取れる。一方で、モーター技術に優れるはずの英国ダイソンは、2019年にEV参入を断念している。

EV化とIoTの間には密接な関係があり、これからもEV化に伴ってIoTも進化していくだろう。自動車とそこに内蔵されたソフトウェアが、電気という共通の動力を得ることで、機能向上を見込めるからだ。

そして、ガソリン車で出来なかったことができるようになったことで、IT技術を専業とする企業の入り込む余地が大きくなった。

そのことは、業界に新しい風を吹かせるだけにとどまらず、車や運転の在り方そのものにも大きな変化をもたらすのかもしれない。

 

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高橋洋行
高橋洋行

2021年10月よりEnergyShift編集部に所属。過去に中高年向け健康雑誌や教育業界誌の編纂に携わる。現在は、エネルギー業界の動向をつかむため、日々奮闘中。

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