自治体との協業で、中小企業の脱炭素にも活路、エナーバンクのプラットフォームの新たな展開 村中健一氏インタビュー(2) | EnergyShift

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自治体との協業で、中小企業の脱炭素にも活路、エナーバンクのプラットフォームの新たな展開

自治体との協業で、中小企業の脱炭素にも活路、エナーバンクのプラットフォームの新たな展開 村中健一氏インタビュー(2)

2021年01月20日

前回に引き続き、エナーバンクのCEO、村中健一氏のインタビューをお届けする。同社はこれまで、電力のリバースオークションのプラットフォーム「エネオク」で、民間会社と小売電気事業者とをつなげるだけではなく、2020年は島根県益田市の施設のグリーン電力供給を、そして埼玉県さいたま市においてはプラットフォームを提供して地域の中小企業の脱炭素化の支援も始めたという。(後編)

(前編はこちら)

自治体との提携でゼロカーボンシティを拡大

―2020年12月には、島根県益田市、さいたま市の2自治体との取り組みが発表されました。

村中健一氏:環境省が主導するゼロカーボンシティに賛同する自治体も増えているので、エナーバンクの取り組みに対する認知度も上がってきています。島根県益田市とは、自治体初の取り組みとして、エネオクを利用したRE100電力調達の試行実施をしています。対象は益田市が保有する低圧の36施設です。

さいたま市では市内の事業者向けに低炭素電力への切り替えを促す取り組みです。エネオクを通して再エネをオークションで選べるシステムを構築し、「たまエネ」と名付けました。市内事業者の再エネ推進手段のひとつとして「たまエネ」を活用していただきたいと思っています。「たまエネ」で電力切り替えをした事業者は、さいたま市による企業PR支援として、市のプレスリリースやホームページにおいて紹介されます。


「たまエネ」サイトより

さいたま市との連携は非常にスピーディーに進めることができました。エネオクというプラットフォームがすでに存在していたためです。ゼロからシステムを構築する必要がなかったことに加え、市の環境計画に合致していたということもあり、「たまエネ」のスタートは非常にスムーズでした。

エナーバンクは共同事業者という位置づけで、市と業務分担しながら事業を進めています。こういった自治体への深い入り込みは、大企業には難しいのではと思います。エナーバンクならではの小回りの利く体制の強みだと自負しています。

自治体はゼロカーボンシティ宣言をしても、何をすればいいのかを迷っている

― 自治体のいい事例になったということですね。

村中氏:環境省のゼロカーボンシティ宣言は206の自治体が参加を表明しています(2021年1月13日現在)が、宣言したはいいものの、実際何をやればいいのか迷っている自治体も少なくないようです。

これは民間企業でも同様です。取り組みが明確にならなければ予算もとれず、何もスタートしません。そのため、益田市やさいたま市で自治体の先進事例をつくっていくことは非常に重要です。全国の自治体にとって先駆的な取り組みを示すことで、取り組みの後押しになると考えています。

特に地方自治体では、公共が先導し民間に展開していく性格があるようです。自治体のやっていることなら安心だというイメージが定着しています。都市部ではその逆なのですが、こうした地域特性も把握しながら事業を進めています。


エナーバンク 村中 健一CEO

規模感あるデータ蓄積でマーケットを育てる

ー 再エネの調達規模としてはどうでしょう。

村中氏:政令指定都市の規模になると、自治体新電力だけで再エネ100%調達を行っていくのは難しいでしょう。調達手段を1つに限定せず、複数のソリューションを束ねていくことが求められます。多くのソリューションの中のひとつが自治体新電力であり、エネオクなのです。

もちろん、エネオクによる共同調達だけで再エネの普及拡大が十分だとは考えていません。さいたま市との協定では、共同調達に加えてエネルギー活用も連携事項に含まれています。

さいたま市内に再エネがどんどん増えていくようなPPA(電力購入契約)や発電所の建設なども検討していく予定です。短期的なキャンペーンで終わらせず、長期的な取り組みとする意図で協定を結んでいます。

エネオクは、単に切り替えを優遇するアプローチではなく、データを蓄積できるというバリューもあります。オークションごとの再エネ比率や排出係数のデータが残るため、需要家が翌年の電力調達を検討する際に参考にすることができます。

入口は電力調達のコスト削減でもいいのですが、将来的に再エネ100%やカーボンネガティブに成長していくことが大切です。そうした需要を伸ばしていくことで省エネが浸透するなど、エネルギープロダクトに関するマーケットも育っていくでしょう。

ビジネス向けのデマンドソリューションがインフラにインパクトをもたらす

―エナーバンクは、当初からB2Bの法人をターゲットにしています。改めてその点についてお考えをお聞かせください。

村中氏:これまでは「電力データの活用」といえばB2Cの家庭向けデマンド可視化サービスが主流でした。ビジネス向けのデマンドソリューションは、実はまだそこまで手が加わっていないと考えています。ですが、インフラにインパクトが出てくるのはこちらです。大規模法人の需要側と供給側のエリア特性をピンポイントで合わせるほうがインフラに寄与すると思います。

私自身、前職からHEMS系(家庭用のエネルギー管理システム・Home Energy Management System)にはかなり携わってきたので、パートナーと協力しながら需要家側の最適化を目指していく考えです。エナーバンクは、小売電気事業者と需要家との間のサービスを展開していくため、こうした考えに立っています。この考えが、時代にうまくチューニングして芽が出始めたのが2020年だったと捉えています。

エネオクは、再エネをうまく組み込めるプラットフォームだったところが評価されたのだと思います。起業前は、環境価値のプラットフォームに取り組もうかと思っていたのですが、現COOの佐藤と出会い、より独自性を打ち出せるB2Bをターゲットとしました。私がソフトバンク時代に経験したマーケティング思考を組み合わせ、タイミングや見せ方、パートナーとの協力によって、世の中の期待値を超えるアプローチを狙っていきます。

2021年は我々の考える未来への賛同者を増やす

― 2021年の抱負をお聞かせください。

村中氏:エネルギーソリューションをビジネスに取り組むことが課題です。ダイナミックプライシングの運用によるコストへの影響などは研究する必要があります。

基本的には、プロダクトの思想や公平性にはこだわりを持っていきたいと考えています。事業の特効薬に手を出すのではなく、時間をかけてでも着実なステップを踏んでいきたい、その上で時代が追い付いてくるタイミングを見極めていきたいと思っています。

これまでは足元で個別に価値、ソリューションを作り上げてきた時代です。我々が考える未来のエネルギー像である「エネルギーをもっとシンプルに」を掲げ、それに賛同していただける需要家や小売電気事業者、自治体を拡大していくフェーズに入っていくと考えています。より自分たちの考えることを主張していくフェーズに突入するのが2021年だと捉えています。

再エネ電力調達というマーケットに対し、興味がある層をどれだけ巻き込んでいけるかが今年のミッションです。幸いなことに国策の後押しも期待できるので、うまく活用していきたいと考えています。

しかし、究極的には、規制や補助に頼らずエネルギーは自分たちの会社のアセットマネジメントであり、自社が拡大するために投資するという意思決定を浸透させていきたいと思います。それをサポートする総合ソリューションを提供するのがエナーバンクです。データから導き出される全体思考なシステムをお客様と一緒に実現していきたいと思います。

(前編はこちら)

(Interview:本橋恵一、Text:山下幸恵、Photo:関野竜吉)

村中健一
村中健一

株式会社エナーバンク 代表取締役社長。 慶應義塾大学理工学部及び大学院理工学研究科で最適化理論・機械学習を学ぶ。ソフトバンクで経済産業省HEMSプロジェクト主任。2016年電力自由化で電力事業の立ち上げ、電力見える化プロダクト開発のリーダを務める。IoT関連の新プロダクト企画・開発実績。2018年エナーバンクを創業。 https://www.enerbank.co.jp

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