日立ハイテクが製造拠点のカーボンニュートラルを次々とすすめている。一見順調に見えるが、その道筋は決して楽な道ではなかった。省エネと再エネ導入、二つの軸となる施策を日立ハイテクサステナビリティ推進部の片倉彰裕氏に聞いた。
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日立ハイテクの製造9拠点中、4拠点*がカーボンニュートラルを達成されました。拠点を選んだ理由はなんでしょうか。
片倉:CO2排出量を削減するために、どこで排出量が多いかを把握したところ、日立ハイテクグローバルでの電力使用、いわゆるスコープ2が9割超となっており、中でも製造拠点での使用が一番多くなっていました。もちろん、手をつけやすいところとつけにくいところがあります。その違いは、共同受電かそうでないかです。まずは日立ハイテクが単独受電で運用している4拠点からはじめました。
4拠点は、作っているものは違うのでしょうか。
片倉:製品がそれぞれ違います。半導体製造装置、医用分析装置、計測器、分析装置などそれぞれですね。
拠点ごとに電力の使用用途も大きく変わるのでしょうか。
片倉:多少の違いはありますが、やはり一般執務室の空調、製造エリアでの空調が多いです。半導体なら、半導体製造装置などの維持管理をするための空調でエネルギーを多く使っています。
*日立ハイテク九州、日立ハイテク埼玉サイト、日立ハイテクサイエンス富士小山事業所、日立ハイテクマリンサイトの4拠点
4拠点は2018年度から2021年にかけてカーボンニュートラルを達成されました。2020年度の達成が多く、その中でマリンサイト(那珂地区マリンサイト、以下「マリンサイト」。2021年3月竣工)は新しい製造拠点です。排出量削減で新しい試みはありますか。
片倉:排出量削減には、基本的に省エネ(エネルギー効率向上)と再エネ導入の二つがありますが、2018年度までは、どちらかというと省エネ活動でエネルギー効率を上げ、それに紐づく形でCO2も削減する、という形で管理していました。しかし、今後は環境課題解決型の活動に移行していくことが重要と考え、2018年度前後から総量管理を検討し始めたのです。
総量削減していくために、まずは省エネ投資を拡大しました。ある程度効果は出たが、最終的にはCO2排出量ゼロにはならない。そこで省エネ投資に加え、再エネを最大限活用しなくてはいけない、という結論にすぐに至りました。結局は再エネ利用が一番の近道だった。そこからカーボンニュートラルという構想に至り、2019年、20年で形になったのです。
再エネ利用によるコスト増加分を相殺するためには、翌年度以降も効果を生み出し続けてくれる省エネ投資も重要です。それをベースにしつつ核心に迫っていく施策とするとやはり再エネが有効であると判断しました。そこで、再エネへの移行がスムーズに行える単独受電の拠点から取り組むことにしました。マリンサイトが100%再エネで稼働するのもそうした流れに沿っています。
エネルギー効率の向上施策では具体的にどんな策が効きましたか?
片倉:空調機器の更新です。弊社ではおよそ15年で新しい設備に切り替えを進めています。他社でも同じことをされていると思います。とはいえ、総数でいえば何百台何千台にもなります。計画や予算も必要です。今年はこのエリアで30台、次はこのエリアで50台、という風に順番に替えていきました。それを継続的していく。
他設備の老朽化更新も定期的に実施することで、大きな効果が得られていると思います。
一方、それだと減りきらないから、再エネ導入を決断された。切り替えで一番大変だったのはなんでしょう。やはりコストでしょうか?
片倉:それもありますが、最適なメニューの選定も重要でした。再エネの事業者さんも大勢いらっしゃいます。また、CO2ゼロメニューと一口に言っても内容は様々です。電力切り替え時には相当調査をしました。
決め手はなんだったのでしょうか。
片倉:電気の卸売市場から購入して、企業に売る形態では、企業側も市場価格の変動の影響を受けやすくなります。そのため、ある程度発電能力を持っている事業者を調査し数社まで絞り込みました。
また、コストの観点を考慮して検討した結果、最終的には日立グループの包括契約におけるCO2ゼロメニューでの契約になりました。再エネメニューを選ぶ点でも検討に時間をかけたのは意味があったと思います。
グループでは包括契約も重要です。
片倉:4拠点中、マリンサイトを含む2拠点は再エネ電力メニュー、残り2拠点は実質再エネ電力メニュー(環境価値証書付)を契約することになりました。
日立ハイテクサステナビリティ推進部 片倉彰裕氏
これからは、証書での対応ではなく、生グリーンを拡大する、という方針でしょうか。
片倉:まずは、証書でもそうでなくても、ゼロにするということで進めています。今後の不確定要素としては、例えば炭素税ですね。本格投入したら、国の施策次第でどうなるかわからない部分はどうしてもあります。
最初の証書で止まっている方も多い中、生グリーンを選んでいくというのは、かなり将来のことを考えている印象です。
片倉:将来的には環境価値、社会価値をさらに高めていくことが重要と考えています。環境経営と以前から言われているように、環境を経営の中に組み込んでいく。そうすることで、環境価値を上げ、ひいては企業価値が上がっていくと思っています。
変動性のある再エネについてはいかがでしょうか。
片倉:導入を検討しています。具体的にはバーチャルPPA(以下、VPPA)などです。ゆくゆくは再エネそのものの良し悪しを、良い方向へつなげていくことが重要と考えています。
変動性という「悪し」の部分を吸収できるのがVPPAという意味ですね。
片倉:日立全体の環境長期目標である2030年までに、どれほどの仕組みが整備され、そこに乗れるかというと、時期尚早かとも思います。さらに、2030年代には、各電力会社も再エネ増強計画を立てている。
今は追加性という観点を頭に入れておきながら、とにかく1日でも早く、1秒でも早く排出量を0にすることを念頭に置いています。追加性を伴わないカーボンニュートラルは本当のゴールではない。追加性という観点は非常に大事にしています。
自社での追加性のある再エネ導入についてはいかがでしょう。屋根上を含むオンサイト/オフサイトのPPAモデルなどですが。
片倉:屋根上のオンサイトPPAについては、載せられる場所には導入する方針です。ですが、オンサイトには規模的な限界がある。
次の手段として、オフサイトPPAも選択肢の一つとして検討しています。
マリンサイトの新設時、カーボンニュートラル拠点に、という要望が経営層からあったとお聞きしました。
片倉:その通りです。当時、日立ハイテクは上場企業だったので、企業価値を向上させるための施策として経営層の判断がなされました(現在は日立製作所の100%子会社)。
気候変動対応の重要性などがメディアで取り上げられ、脱炭素社会にしようという機運があがっていったことも、原動力の一つになったのではないかと思います。
転換点は2018年、ちょうど原単位によるエネルギー効率管理から、総量管理に切り替えた時期です。直前の2015年パリ協定採択、2018年に1.5度のIPCC特別報告書ときて、「当社はどうすべきか」と悩み、社内外で試行錯誤していた頃でした。幹部から要望が上がったのも同じタイミングです。
現場に深く関わる片倉さんから見て、どのように見えたのでしょうか?「やっぱりうちもやらなきゃいけない」なのか、「そんなことよりもコストだよ」なのか。
片倉:「やらなきゃいけない」と「コスト」の両方ですね。
当時、他社、特にヨーロッパなどの環境活動に先進的な会社と自社の活動をみると、自分たちとは雲泥の差があった。
何をどこまでやったら良いのか、ほんとうに日々、試行錯誤の連続でした。まずは、すぐできるところから始めていきたい、という思いがあった。そうした中、現在まで、いろいろとチャレンジしているのです。
日立ハイテクは、CDPのサプライヤー・エンゲージメント評価で、最高評価の「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー」に選定されました。とはいえ、世界の潮流も激しい中、試行錯誤がまだ必要な時期なのかもしれません。今日はありがとうございました。
日立ハイテク那珂地区マリンサイト
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