日本ではあまり紹介されない海外のエネルギー業界最新ニュース。EnergyShift編集部が厳選してお送りする。
シンガポールで60MWの浮体式太陽光発電によるPPA
シンガポールの電力会社Sembcorp Floating Solar Singaporeとエネルギーや造船などの事業を手掛けるSembcorp Industriesは、シンガポール水道局のテンガ貯水池における60MWの浮体式太陽光発電所について、水道局の公益事業委員会との間で25年間の電力購入契約(PPA)を締結した。金額は明らかにされていない。
発電所は2021年に運開する予定で、これにより、シンガポールの水道局の電力は100%再エネになる見込み。
A 25-year power purchase agreement for 60 MW of floating solar in Singapore (PV Magazine 2020/05/12)
フェイスブックの電力需要が、米国ニューメキシコ州の脱炭素化を促進
IEEFA(Institute for Energy Economics and Financial Analysis)のレポートによると、フェイスブックのデータセンターにおける再生可能エネルギーの需要が、データセンターが立地するニューメキシコ州の電力の再エネ化を促進しているという。
フェイスブックのデータセンター事業は、自治体の収入や雇用を創出し、風力発電と太陽光発電の建設を通じてPublic Service Company of New Mexico(PNM)をけん引している。PNMは再エネ電気の比率について、2013年の9.6%から、2023年までに43%になると予測している。一方、石炭火力は2年以内に6.1%にまで低下する見込み。
IEEFAのアナリストでレポートの主執筆者であるKarl Cates氏によると、ニューメキシコ州の事例は水平展開が可能で、「今後はCOVID-19の影響により、ブロードバンドインターネットの拡大に対し、データセンター事業も加速することが期待される」という。米国ではワイオミング州やモンタナ州など、太陽光と風力が豊かな土地に、こうした動きが展開していくと見られる。
PJMの容量市場に最低オファー価格ルール適用で26億ドルコスト増試算
米国コンサルティング会社のGrid Strategiesは、PJM(ペンシルバニア州、ニュージャージー州、メリーランド州を中心とする米国最大の電力系統運用機関)における容量市場に、最低オファー価格ルール(MOPR)を拡大適用すると、年間で10憶ドルから26億ドルの負担増になると試算した報告書を公表した。
MOPRとは、容量市場において不当に安く入札して落札価格を抑制することを防ぐためのしくみのこと。PJMでは、これまで天然ガス火力発電所にのみMOPRを適用してきた。価格は発電所を維持するためのコストに相当する。この運用により、太陽光発電や風力発電などはゼロ入札が可能となる一方、発電所の維持コストが高い石炭火力発電所は落札が難しくなっていた。
こうした状況に対し、FERC(米国連邦エネルギー規制委員会)は、PJMに対しMOPRを、再エネを含むすべての電源に拡張するように求めていた。太陽光発電や風力発電に対しては、すでに補助金やREC(再生可能エネルギー証書)などの収入があるため、不当に安く入札しているというのがその論拠だ。背景には、米国トランプ政権による石炭火力保護政策がある。
直近のPJMの容量市場では提案されている容量市場の基準となる価格は179ドル/MW・日(約7,000円/kW・年)だが、太陽光発電など再エネのMOPRを大幅に高く設定することで、それよりは低い石炭火力発電所が落札できることになり、結果として容量市場の基準となる価格が引き上げられることになる。
とりわけ洋上風力発電にMOPRを適用した場合、価格は落札予想価格を大きく上回ることになり、落札できないため、メリーランド州やニュージャージー州の沿岸州における風力市場に悪影響を与える可能性があるという。
MOPRの適用に対し、ニュージャージー州、メリーランド州、イリノイ州など一部の州は、容量市場からの撤退を検討している。容量市場に替わって取り入れる制度が、FRR(fixed resource requirement)というしくみだ。これは5年間にわたって、発電所との間で相対による容量の契約をするというものだ。これにより、太陽光発電や風力発電の開発に支障が出ないようにすることがねらいだ。
しかし、PJMの独立市場モニター(IMM)の報告書によると、ニュージャージー州だけで、2021年から2022年までに容量市場のオークションよりも3,200万ドルから3億8,640万ドル多く費用がかかる可能性があるという。
FRRをどのように設計するのかにもよるが、制度設計は簡単ではないという。
いずれにせよ、FERCによるMOPRの拡大要請は、電力の需要家への負担を引き上げかねない。
PJM MOPR could cost market consumers up to $2.6B annually, report finds (Utility Dive 2020/05/19)
新型コロナ感染拡大前に戻る、中国の石油需要
Bloomberg Newsによると、中国の石油需要は、新型コロナウイルスが感染拡大する前の水準に戻っているという。
米国に次ぐ世界第2位の石油消費国である中国は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、1月23日に湖北省の武漢市を封鎖し、以降も感染が見られた都市を封鎖してきた。この影響で、石油の需要は約20%減少したが、4月以降に封鎖が解除されていき、工場再開と通勤などによる自動車の利用で、再び石油の需要が増加している。
世界エネルギー機関(IEA)は、悲観的な見方をしており、年内の毎月の需要は前年同月を下回るという予測だ。しかし、中国の石油需要を監視しているトレーダーによると、昨年(2019年)5月の中国の需要は1日あたりおよそ1,340万バレルだが、この水準近くまで増加しており、航空機の燃料の需要の減少がなければさらに増加しているという見方をしている。
カーナビゲーションのサービスを提供している、TomTom International BVのデータによると、中国の複数の都市のラッシュアワーの交通量は急増しており、1年前のレベルかそれ以上のレベルで、特に北京と上海以外の都市で激化している。北京では農業用のディーゼル燃料の需要が増加している。
これらの諸要素により、中国の原油備蓄は減少していると見られ、市場価格の回復につながっている。実際に、石油精製会社も処理量を増やしている。
エネルギー調査・コンサルティング会社Energy Aspectsのアナリスト、Liu Yuntao氏は、「中国の石油需要は、ディーゼルに牽引されて、完全な回復の楽観的な兆しを見せ始めている」と述べた。
Chinese Oil Demand Is Almost Back to Pre-Virus Crisis Levels(Bloomberg Green 2020/05/18)
無償配布のサーモスタットで顧客がDR
Greentechmediaによると、米国ミシガン州の電力会社のConsumers Energy、デバイスメーカーのGoogle Nest、エネルギーサービスプロバイダのUplightの3社は、10万件の顧客にスマートサーモスタットを無償で提供し、DRを実施するプログラムを進めている。
米国では電力会社は長年、顧客にスマートサーモスタットを取り付けてもらい、空調負荷のピークシフトを実施したときの割引やリベートを提供してきた。しかし、スマートサーモスタットは無料ではなかった。そのため、顧客はスマートサーモスタットの無料提供を望んでいた。
Consumers Energyは2030年までに、再エネ50%という目標を達成するための一環として、最大10万軒の顧客にスマートサーモスタットGoogle Nest Learning Thermostatを無償で提供する。一方、Uplightは顧客のサーモスタットを遠隔で制御して、エアコンの負荷を1日に最大4時間、年間で夏期に最大14日間、需要を抑制する。
これによりConsumers Energyは少なくとも14MWのピークシフトを実施し、米中西部の系統運用機関MISOにDRによる節電容量を販売していく。
ポーランドで1GWの石炭火力発電所が建設中止
ポーランドで1GWの石炭火力発電所の建設中止が発表された。中止されたのは、GE Europeなどが進める、Ostroleka C石炭火力発電所で、再生可能エネルギーの増加に対応した柔軟性を持つ発電所として計画されていたが、建設に参加していたエネルギー企業のEneaとEnergaが今後、建設に関与しないと発表した。
2019年12月にEnergaを買収したポーランドの国営企業PKN Orlenは、Ostroleka Cを石炭火力ではなく、天然ガス火力発電にすることを主張している。
一方Eneaの株主であるClientEarthは、石炭火力発電が抱える財務リスクをめぐる訴訟に敗訴しており、今回の中止に至った。
一方、Ostroleka C石炭火力発電所のプロジェクトをすすめるGEは、発電所が旧来の石炭火力発電所よりも26%のCO2削減となること、330基の風力発電、2万枚の太陽光発電パネル分の電力をバックアップできることを主張している。
しかし、EUにおける炭素市場の価格や予測できない容量市場、今後開発されるエネルギー技術などから、EneaとEnergaにより金融リスクが大きいと判断されたということだ。
Construction Halted on 1-GW Polish Coal Plant(PowerMag2020/05/20)
(Text:本橋恵一)