テスラのライバル、中国EVベンチャーのNIOはなぜノルウェーを選んだのか [EV×脱炭素] | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

テスラのライバル、中国EVベンチャーのNIOはなぜノルウェーを選んだのか [EV×脱炭素]

テスラのライバル、中国EVベンチャーのNIOはなぜノルウェーを選んだのか [EV×脱炭素]

EnergyShift編集部
2021年05月19日

中国のEVベンチャー、NIO(蔚来汽車)のノルウェー進出が波紋を広げている。5月6日にNIOが発表した。テスラのライバルと目されている同社は初の海外進出に、なぜノルウェーを選んだのか。

中国EVベンチャーのNIO、初の海外進出はノルウェー

中国のEVベンチャー、NIO(蔚来汽車)のノルウェー進出が波紋を広げている。5月6日に同社が発表した。

NIOは2014年に設立。出荷台数が2020年後半から一気に増え、今年第1四半期には20,600台の車両を納入した、いま急成長している注目のEVメーカーだ。

そのNIOが中国以外での最初の海外市場に選んだのは、北欧のノルウェー。ノルウェーは実はEV大国で、2025年までに、すべての新車販売でガソリン車を終了する計画をもつほどだ。このスケジュールは、イギリスよりも5年早い。新車販売台数も、2020年通期で54%がEVだ。特にアウディのe-tronとテスラモデル3、VWのID.3が3強だ。

NIOは今年9月からフラッグシップSUVであるES8の欧州仕様車をまずノルウェー市場に投入する予定。その後、2022年にセダンのET7も導入する。


NIO ES8

同時にオスロの高級ショッピング街の中に2,150㎡のショールーム「NIO House」をオープンさせる。その後、2022年に4つの「NIO スペース」もオープンする。こちらはやや小規模なショールームのようだ。

NIOはオンラインで車を直販しているが、サービスセンターは必要だ。サービス&デリバリーセンターも9月にオスロでオープン。2022年にはアフターサービスのネットワークを全国に拡大するとしている。

NIOのクルマの一番の特徴は、バッテリーだ。充電が少なくなったクルマは、NIO Power Swapというバッテリー交換ステーションに持っていくと、その場でフル充電されたバッテリーと交換してくれるのだ。所要時間およそ3分。このため、バッテリーパックは全車種共通になっている。今年4月、バッテリー交換回数が200万回に達したと発表した。

このバッテリー交換ステーションの普及が海外進出のカギとなるが、発表ではまず4つの充電ステーションを導入し、2022年にはほかの5つの主要都市に拡大する。


NIO Power Swapの紹介動画

NIOはテスラのライバルになれるのか

EVベンチャーであること、その斬新なバッテリー交換の発想や海外戦略(そして株価の浮き沈み)などでNIOはテスラの目下のライバルだと目されている。もちろん、いまは相当の開きがあるが、その差が今後、どうなるのかは注目だ。

1回の充電での航続距離は、NIOのセダン(ET7)で1,000km、SUV(ES8)では400から500km。テスラはモデル3で最大580km、モデルSで722km、ロードスターでは1,000kmだから、NIOとテスラは数字的にも近い。テスラがどう思っているのかはともかく、NIOがテスラを相当意識していることは間違いないだろう。

そのテスラは、中国ではEVのリーダー的な存在でなくなりつつある。4月の販売台数が減少し、上海ギガファクトリーの拡張計画は中止になった(5月14日)。その上海ギガファクトリーの拡張中止が発表される2週間ほど前、NIOは4月29日にNIO Parkという国内生産拠点の建設を発表。年間100万台、100GWhのバッテリーを生産する予定で、対照的だ。


NIO Parkの完成予想図

自動運転技術でも、NIOはテスラに負けていない。NIOの「NIO Autonomous Driving」という技術はET7に採用されており、8Mピクセルの高解像度カメラ11台、超長距離高解像度LiDAR1台、ミリ波レーダー5台、超音波センサー12台、高精度測位ユニット2台、V2X、ADMSなど、33の高性能センシングユニットを搭載している。

また、NIOは全固体電池を2022年に搭載可能にするとも述べており、バッテリーへのアプローチの違いとはいえ、テスラの先をいっている印象すらある。

中国メディアでは上海モーターショーでのテスラへの抗議行動に対しても、新華社通信がテスラを「不誠実」だと報じているなど、テスラへの反発が見られる。

テスラは中国での販売が、全体の三分の一に相当するが、それに陰りが見えてきたのではないか。

そのひとつの理由は、NIOやアリババの出資するXpeng(小鵬汽車)等の台頭は、確実にあるのだろう。国内企業の優遇に映るかもしれないが、シンプルにテスラ以外の有望な選択肢が増えたということなのかもしれない。

ノルウェーはまるでEV勢力図の実験場 2030年のモビリティを反映

ノルウェーはEUに所属していない。国土は日本とほぼ同じ、人口は550万人。2016年のGDPは約42兆円で経済規模は東京の半分ほど。この国では、国を挙げてEVの普及を後押ししている。

前述のように、2025年にすべての新車販売をEVにすることを目標にしており、1990年代後半から各種の政策がとられてきた。

補助金を出すのではなく、逆にガソリン車に税金を課している。そのため、ガソリン車の新車販売金額はEUの平均よりも倍近い。ほかに、道路使用税のEVへの免税や、社用電気自動車の減税など、「グリーン・タックスシフト」という手法で国民にEVへの転換を促している。これが効果を出し、2012年にはEVの新車販売台数は総販売台数の3%だったのが、2020年には54%にまでなった。

この54%という数字は、ハイブリッドを含めていない、BEVの数字だ。直近の4月の新車販売を見ると、BEV54.9%、PHEV25.2%、プラグインでないハイブリッドが7.0%、ディーゼル5.5%、ガソリン車7.4%となっている。プラグインのEV(PEV=BEV+PHEV)の数字は80%を超える。

これは、新車販売をEVのみにするという2030年のイギリス、アメリカの数字を先取りしているのではないか。東京も2030年をガソリン車販売終了の目標にしているが、HVは脱ガソリンに含まれているので、それを上回る「EVの普及した未来」を体現している。

世界の各社がノルウェーでEVを販売しており、2022年には40ほどのEVがラインナップされるという。

NIOのほかにも、中国EVメーカーのノルウェー進出はすすんでいる。Xpengはすでにノルウェーの輸入業者を通じて販売を始め、FAW(中国第一汽車集団)も輸入業者を通じて進出を宣言。BYDなどもノルウェーの進出計画があるという。NIOは輸入業者に頼らず現地拠点を造り直販するところに意気込みが感じられる。

テスラはアウディ、VWとともに常に上位3位に入っていたが、この先はわからなくなってきた。日産リーフは2020年販売台数で4位につけているが、1位のアウディの半分ほどの台数だ。

とはいえ、先がわからないのはNIOも同じだ。独自のバッテリーパックが普及するかどうかはいまのところはわからない。

各国が「EV優遇国」であるノルウェーでの販売を強化し、熾烈な戦いを繰り広げている。あたかも将来のEV勢力図を、この北欧の国でシミュレートしているようだ。

モビリティの最新記事