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太陽光発電が急拡大するカリフォルニアでは今、何が起きているのか

太陽光発電が急拡大するカリフォルニアでは今、何が起きているのか

2020年03月17日

米カリフォルニア州は、急激に太陽光発電が拡大している。PG&E(パシフィック・ガス&エレクトリック)やSCE(サザン・カリフォルニア・エジソン)といった大規模な電力会社が支配的である状況は日本と似ているが、一方で野心的な再エネ導入目標や電気自動車(EV)の普及については、日本にとって参考にすべき部分がある。カリフォルニア州の再生可能エネルギーをめぐる状況について、米ロサンゼルス在住のジャーナリスト、土方 細秩子氏がレポートする。

2045年再エネ100%を目指すカリフォルニア州

米カリフォルニア州は米国でも最も再生可能エネルギーの導入が進んでいる州だ。2018年の全電力に占める再生可能エネルギーの割合が34%に到達した。同州ではこの割合を2030年には60%、そして2045年には100%にする目標を掲げている。

米国では少なくとも6つの州がカリフォルニアと同様の目標を法制化、あるいは法案として検討中だ。これ以外にも全米で再生可能エネルギーを推進する動きがある。トランプ大統領が地球温暖化は存在しない、と主張しても実際の動きは化石燃料の使用からクリーンエネルギーへと急速にシフトしているのが現状だ。

カリフォルニア州の再生可能エネルギーの内訳(2018年)だが、送配電網に連系した太陽光発電が31%、これとは別にビハインド・ザ・メーター(BTM)、すなわち個人や企業が屋根に設置する太陽光発電も全体の14%を占める。これに続くのが風力発電で29%、地熱発電が14%、バイオマス発電が8%、小規模水力発電が4%となる。大規模ダムによる大規模水力発電は再生可能エネルギーに含まれない。

California Energy Commission, staff analysis December 2018

特筆すべきは、同州にはもともと、風力発電や地熱発電などの発電所が存在はしていたが、本格的な太陽光発電所が登場したのは2006年以降で、そこから太陽光発電が劇的に伸びたという点だ。年間を通して日照時間が長く太陽光発電に適していること、太陽光パネルなどの価格が下降傾向にあること、州政府がインセンティブを行い家庭向け太陽光発電の普及を促したことなどが大きい。

2018年1年間で米国では4.9GWの太陽光発電設備が新たに追加されたが、そのうち60%がカリフォルニア州に集中している。続いて多いのはフロリダ州とテキサス州で、やはり南部で日照時間の多い地域に太陽光発電が導入される傾向が強い。

ちなみに米国全体では最も建設件数が多かった新規電力施設は天然ガス火力発電所で19.3GW、続いて風力発電の6.6GW。逆に発電所閉鎖などにより電力源として最も削減されたのは石炭火力発電所で、12.9GWも減っている*。

再生可能エネルギーが注目される理由には、ライフタイムを通しての発電コストが、火力発電よりも再生可能エネルギーの方が安くなった、という点も挙げられる。投資銀行のラザードの試算によると、LCOE (Levelized cost of energy:均等化発電原価)の比較では、風力発電が従来の火力発電などを下回ったのが2010年、太陽光発電が下回ったのが2013年である。2018年の数字で比較すると、石炭火力発電の発電コストが102ドル/MWhに対し、太陽光発電が43ドル/MWh、風力発電が42ドル/MWhとなっている。

Source: Lazard estimates.

* More than 60% of electric generating capacity installed in 2018 was fueled by natural gas

次に顧客側の意識の変化がある。環境問題に敏感な消費者が特に若い世代に増え、再生可能エネルギーによる電力購入や、太陽光発電の住宅への設置に意欲を示すようになった。

さらに、電力供給側のテクノロジーが進化したことにより、需要供給のバランスが取れ、必要な電力を必要な場所に送るシステムそのものが進化してきたこともある。スマートメーターなどにより各家庭の消費電力量チェックが細かく行えるようになったことや、テスラのパワーウォールに代表されるような家庭用蓄電設備をうまく使える(電力の安い夜間に電力を蓄え、昼間の消費に回す)システムができたこと、家庭内IoTでスマートライト、スマートサーモスタットなどが普及し始めたことも大きい。

発電所でもバッテリーによる蓄電池を併設しているところもある。それでも、供給管理ができる火力発電と比べ、太陽光発電や風力発電は気候などの要素に左右され、電力量が変動するという課題は解決しきれていない。

余剰電力問題の解決を模索

カリフォルニア州では2019年3月、再生可能エネルギーによる電力が送配電網における全電力の70%以上に到達している。これ以上再生可能エネルギーの発電が過剰になると、余剰電力の発生による系統運用の問題が生じるレベルだ。

実際に、2017年頃からすでに、需要を上回る発電量に達することがしばしば起きるようになっている。過剰な電力はグリッドに負担を与えるため、同州ではアリゾナ州、ネバダ州などの隣接する州にこの余剰電力を送電したが、これは「余剰電力を引き取ってもらう」という形で無償どころかマイナスの価格で送電している。カリフォルニア州は他州に金銭を支払っているということだ。金額は明らかにされていないが、一部報道によるとアリゾナ州は数百万ドルと無料の電力を手に入れた、とされており、カリフォルニア州住民からは「その金額が自分たちの電力料金に加算されているのでは」という不満の声が上がった。

もちろん、こうした事態を防ぐための努力は継続している。2017年に起きた余剰電力の問題は、新規の太陽光発電などの発電所が十分に送配電網に接続されていなかった、という問題も指摘される。送配電系統の容量が十分ではなく、電力を100%送電できる環境が整っていなかったことや、地域連携も不足していた。現在では送配電線が新規に建設され、以前より余剰電力の問題は減少したが、やはり完全に電力を使用できている状況ではない。また、そもそも送配電線建設に多額の費用がかかるのも問題だ。

ロサンゼルスを中心とする南カリフォルニアに電力を供給するSCEは、バッテリーパークと呼ばれる蓄電施設建設に注力している。ロサンゼルスではテスラのギガファクトリーと提携したものが話題となったが、2019年4月にはストラタ・ソーラー社と100MWのキャパシティを持つ蓄電システム建設に合意、2021年から稼働させる予定を発表した。実現すれば世界最大級のリチウムイオンバッテリーとなる。

北カリフォルニアに電力を供給するPG&Eは2018年に合計567MWの蓄電システム建設計画を発表したが、その後の破産申請法適用などによりプロジェクトは進んでいない。ただし、一般家庭用や企業への蓄電システム提供などは、徐々に進行している状況だ。

バッテリーの活用か、出力制御か

再生可能エネルギーの余剰電力をバッテリーに蓄電し、そこから送配電網に供給する、というのは合理的な手法に思えるが、実際にはコストの問題があり、現状ではそれほど普及していない。現在のリチウムイオンを上回る容量かつ低コストで耐久性のあるバッテリーが登場しない限り、一般的にはなり得ないだろう。

余剰電力の扱いについては州内でも議論があるが、現在最も一般的に行われている手法が、出力制御だ。電力需要の予測に基づき、一部の太陽光発電や風力発電の運転を休止させるという方法だ。

カリフォルニア大デービス校の研究チームによると、現在は出力制御を行いつつ、需要とのギャップを天然ガス火力発電などで埋める、という方法がとられているが、100%再生可能エネルギーに移行するにあたっては「過剰なほどに発電所を作り、需要予測に合わせた計画的休眠を行う方法が、蓄電施設を建設するよりコストとしては安くなる」という。つまりピーク時に備えるだけの発電所を建設し、そこから需要に合わせて発電量を引き算する、という方式だ。

ただし気候に左右される再生可能エネルギーだけに、夜間や天候不良により電力不足が起きる可能性はあり、そうなると蓄電システムとの共存が最も合理的な答えとなるだろう。蓄電システムについても今後の新しい蓄電池の開発や、蓄電池そのものの価格の下落も予想され、こちらが主流となる可能性も十分にある。再生可能エネルギーでは世界をリードするカリフォルニア州の選択が、全米や世界の他都市に大きな影響を与えていくことになりそうだ。

土方細秩子
土方細秩子

京都出身、同志社大卒、その後ロータリー奨学生としてボストン大学大学院留学、同大学コミュニケーション学科で修士号取得。パリに3年間居住後ロサンゼルスに本拠地を置き、自動車、IT、政治、社会などについての動向について複数のメディアに寄稿。

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