再エネ・蓄電池の導入、判断基準とベストチョイスは | EnergyShift

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再エネ・蓄電池の導入、判断基準とベストチョイスは

再エネ・蓄電池の導入、判断基準とベストチョイスは

2021年07月05日

脱炭素の声が大きくなってきたこの状況で、家庭でできることとして、再生可能エネルギーの導入があるが、コスト低下は実際どうなの?という疑問が多く寄せられている。特に家の場合、屋根置き太陽光等に関しても、昔と状況が変わっている点もある。それに関連して、家庭用蓄電池は実際に得なのかどうか。最新の情報をもとにゆーだいこと前田雄大が紹介していく。

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再エネはすでにコスト競争力が十分にある

そもそも再エネが世界で広まった理由は、脱炭素に貢献するという環境的な意味合いに加え、投資回収が短く、何より他のエネルギー電源よりもコスト競争力が出てきた点が大きい。つまり安い。言い換えると、要は資本主義に乗ったということでもある。

Global LCOE development 2010-2019 (IRENA, 2019b, p. 22).

上図は2010年から2019年に各エネルギー源のコストが国際的にどうなったかを示している。

横断しているグレーの部分が化石燃料のコスト帯。黄色が太陽光だ。1kWhあたりのコストの加重平均は2010年の0.378ドル、約40円から、2019年には0.068ドル、約7円に下がってきている。化石燃料のコスト帯の下あたりに太陽光が来たことが分かる。

同様に風力を見てみると、陸上風力は、2019年の加重平均が0.053ドルになっているということで、約5.5円。これは競争力がある価格だ。

では、市場はどこまでコストが下がると再エネを選ぶのか

市場原理に照らした場合、グリッドパリティという考え方が重要となる。簡単に言えば、他のエネルギーのコストよりも、再生可能エネルギーがコストを下回るポイント、それがグリッドパリティだ。

このグリッドパリティが起きた以後は、再エネを選択した方が得になる。

日本での価格はどうか

系統全体では、日本は、太陽光はこの前の入札下限が10円だったので、火力コストと比較すれば、グリッドパリティは達成したといえるのではないか。

設備利用率と発電コストの相関関係(石炭・LNG火力)


出典:2015年発電コスト検証ワーキンググループのデータより資源エネルギー庁作成

それ以上に確実に見えているのが、家庭レベルのグリッドパリティだ。家の電気代はそもそもが高い。であれば太陽光の方が得ではないか、というのは、割と自然な考えになる。

屋根置き太陽光、売るより使う方がいい

家庭では、買う電気よりも、自宅に設置した太陽光のkWh単価が安いとなれば、個人は当然の選択として太陽光の電気を優先的に使用するだろう。

例でいえば、今年、2021年の屋根置き太陽光発電の固定価格買取価格による売電単価は1kWhあたり19円(固定価格買取期間は10年)。一方、投資回収目線でみたときの自宅の太陽光のコスト単価はもっと安い。例えば、投資回収可能ラインが18円/kWhとする。

東電の従量電灯Bのプランは、一番低くても19円を超える単価となっている。このとき、どうなるか?

東京電力エナジーパートナー 従量電灯B・C

太陽光で発電している時間帯に家で電気を使うと、当然、太陽光がなければ買っていたであろう電気代がそのまま浮く。例えば従量電灯Bでいえば、通常26円48銭(120kWh〜300kWh(第2段階料金))くらいは家庭での電力利用はおこなわれるので、この値段で考えると、太陽光は買電を浮かした分、つまり、26円48銭の働きをしたことになる。

他方、投資回収のコストは先ほど設定をした18円だとする。となると、そもそも18円でも回収できるのに、さらにプラス8円48銭の利益分の働きを太陽光はしてくれるわけだ。

つまり、電気を購入するくらいなら、発電している電気を使った方が、トータルでどんどん得になる、というわけだ。もちろん、1年間で使う電気量を変えない前提ではあるが。

屋根置き太陽光を戸建てに設置すると、HEMSというような、発電量などの電力見える化のタブレットがいまはついてくる。それを確認して、例えば晴れていて多く発電しているときには、主婦の方々は「いま、乾燥機まわそう」などと考えることになる。

自然と曇りや、夜の時間帯に極力電気を使わなくなってくる(ちなみに、筆者の自宅でもこうしている)。すると、さっきの8円48銭のプラスが時系列で増えてくる。固定価格買取の19円で売って(売電して)、投資回収より1円多い利益を得るより、買電を減らした方が、トータルで電気代が節約になる。

屋根置き太陽光を置くかどうかの判断基準

太陽光を選択するかどうかの判断基準だが、まず、家が耐震基準などで問題なく太陽光を載せられるかどうか、ここを確認すること。これが大前提になる。古い家屋は要注意だ。太陽光の経済性の前に、家屋の質を下げる可能性がある。そうなったら本末転倒だ。雨漏りなども注意しよう。

次に必ず確認するべきなのが、太陽光パネルとパワコンの保証期間だ。パネルは15年保証のところが多く、パワコンも10年保証が多い。家庭の太陽光の投資回収は10年あればできると考えられる。最低でもパネルもパワコンも10年保証を確保するようにしよう。もちろん、長いに越したことはない。

この2点を確認した上で、シミュレーション上、ちゃんと固定価格買取制度の下で投資回収できるとなっているかどうかを確認することを筆者はおすすめする。仮に、日中に電気をたくさん使う、等の使用形態シフトができなかったとしても、発電した分は勝手に売ってくれるため、それで投資回収ができるからだ。

かつ、シミュレーションは堅めに算出されるため、シミュレーションで投資回収できるようになっているのであれば、基本的に問題はない。ほぼ、それを上回って発電してくれると考えて大丈夫だ。投資回収した先には、得しかない。

いまはどこの電力会社でもグリッドパリティ

今の日本では、どこの電力会社と契約しても、平均電気代単価が19円/kWhを下回っているプランはない。太陽光が19円固定価格買取で投資回収できるということは、投資回収単価は19円以下、ということになる。

ということは、家庭においては自動的にグリッドパリティということになり、発電時に、1日に使う電気使用を集めた方がさらに得になるという前述の状態になる。

つまり、よほど家の屋根に影がかかっていない限り、また、北しか向いていない、土地が谷で日が当たらない、などでなければ、電気代という観点からいうと、地方の戸建てへの屋根置き太陽光設置は、おすすめだ。

特に新築の場合は、パネルの加重も含めて設計可能な上に、雨漏りも含めてしっかり保証がつくはずだ。毎月の電気代に、屋根置き太陽光は有益なオプションとなってくると考える。

家庭用蓄電池を入れるかどうかの判断は

10年が経過して、屋根上の太陽光パネルの固定価格買取期間が終了し、投資分も回収できた、という前提だが、実は固定価格買取制度が終わってもなお、契約をすれば、小売電気業者が発電した電気を買い取ってくれる。

例えば東京ガスにはこのようなパッケージメニューがある。


東京ガス 太陽光電力買取サービス

何も条件をつけずとも、1kWhあたり9.5円で買ってくれる。とはいえ、9.5円という値段設定ということは、家庭の電気代の従量課金が19円以上であるため、「発電分は、売るよりも使える分は使い、余った場合に売る」というのが賢い選択になってくる。

そうなるとなおさら、蓄電池に貯めて夜もその電気を使いたいということになる。ここで重要になる考えが、前述のグリッドパリティに似た、ストレージパリティという考え方だ。

グリッド(系統)パリティでは、再エネの方が、買う電力より安いときに、再エネを使うのがいい、という状態になる。基本的な考え方はストレージ(蓄電池)も同じだ。つまり、蓄電池のコストを入れ込んでもなお、買う電気よりも安くなるのかというのが重要になる。家庭レベルでのストレージパリティが起きるのは、経産省の審議会での資料によれば、蓄電池価格が約7万円/kWh以下になったときとされている(諸条件あり)。

ただ、この家庭用蓄電池はいま、べらぼうに高価格になっている。

2019年の補助実績等から算出される家庭用蓄電池の価格は、18.7万円/kWh。ストレージパリティになる水準は7万円なので、日本で普通に流通している家庭用蓄電池だと、全然割に合わなくなる。

端的にいうと、日中は太陽光が発電している時間帯に集中的に使った方がよくて、夜間は蓄電池で(日中発電分を)貯めるなどせず、電気を買った方がいい、ということに経済的にはなる。唯一、可能性があるのは、テスラのパワーウォールだ。日本の家庭用蓄電池に比べて1/3以下という驚異的な価格を実現しているため、設置費用込みでギリギリ可能性はある。

もちろん、家で脱炭素すること自体を重視している、または大震災等の有事に備えたいなどの別の評価軸がある場合、その理由に投資する目的での導入はありだ。

結局、戸建ては何を選択するのがいいのか

では結局、戸建ての家庭ではなにをすればいいのか。個人的な考えにはなるすが、お伝えしよう。

結論から言うと、屋根置き太陽光にV2HとEV。この組み合わせになる。

目下、EV航続距離伸長のため、車載用蓄電池の性能向上は急速に進展しており、蓄電池業界でも最も競争が激しい分野となっている。もちろん、コスト競争も激しい。戸建てでの車の所有率は高い。移動手段として車が必須である場合、車をEVに切り替えて、そこにV2Hを組み合わせ、蓄電池として活用した方が一石二鳥という考え方もできる。

テスラのパワーウォールを除き、家庭用蓄電池は10kWhのレンジで400万円程度する。この値段だったら、リーフe+のように、60kWh以上の容量をもつEVが補助金を使えばで400万円で買える計算になる。

移動手段も入手でき、蓄電池としても活用できる。ランニングコストもガソリン車より安い。なんなら家の太陽光の余剰発電で車が走る。しかも、いまなら、V2Hにも補助金が出るため、こだわらなければ補助金を使い30万円でV2Hも購入できる。EVの蓄電池容量は家庭用蓄電池の6倍。有事のときも心強い。使い方によるが、数日間停電しても、この電力でもってしまう容量だ。

「とはいっても、それってあくまで家庭用蓄電池との値段の対比でしょう」と、考える読者もいるだろう。そうした読者には、もう少し待つことをおすすめしたい。いつまで待つのか。軽のEVが出てくるまでだ。

三菱の商用EVが200万円を切るという報道が出てきた。そこから推察すると、日産・三菱連合のEVはやはり200万円くらいがレンジだろうなというのも見えてきた。

補助金を入れると、現行の軽自動車と比べてもコスト競争性が出てくる。それにプラス30万円でV2Hを入れると、軽のEVのため、蓄電池容量は20kWh行かないレベルではあるが、家庭用蓄電池は10kWh前後、テスラのパワーウォールでも13.5kWh。20kWhあれば、少なくとも1日以上は持つ。

つまり、軽のEVはV2Hの30万円の追加コストで家庭用蓄電池と化す。車自体は軽自動車と変わらず、ランニングコストは安い。家の太陽光から充電できる。これはゲームチェンジャーだと筆者は考える。

軽のEVにV2Hでストレージパリティも実現し、夜間も含めて電気代を節約、これが王道パターンではないだろうか。しかも、脱炭素。ということで今日はこの一言でまとめよう。

『戸建ては屋根置き太陽光+EV+V2H これでストレージパリティだ』

前田雄大
前田雄大

YouTubeチャンネルはこちら→ https://www.youtube.com/channel/UCpRy1jSzRpfPuW3-50SxQIg 講演・出演依頼はこちら→ https://energy-shift.com/contact 2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。また、パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。 こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。また、日本経済研究センターと日本経済新聞社が共同で立ち上げた中堅・若手世代による政策提言機関である富士山会合ヤング・フォーラムのフェローとしても現在活動中。 プライベートでは、アメリカ留学時代にはアメリカを深く知るべく米国50州すべてを踏破する行動派。座右の銘は「おもしろくこともなき世をおもしろく」。週末は群馬県の自宅(ルーフトップはもちろん太陽光)で有機栽培に勤しんでいる自然派でもある。学生時代は東京大学warriorsのディフェンスラインマンとして甲子園ボウル出場を目指して日々邁進。その時は夢叶わずも、いまは、afterFITから日本社会を下支えるべく邁進し、今度こそ渾身のタッチダウンを決めると意気込んでいる。

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