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脱炭素に必要なエネルギーデータのデジタル化とは ヴェリア・ラボラトリーズ 筒見憲三氏インタビュー

脱炭素に必要なエネルギーデータのデジタル化とは ヴェリア・ラボラトリーズ 筒見憲三氏インタビュー

2021年04月15日

日本は1970年代の石油ショックをきっかけに、優れた技術を進展させ、高度な省エネを達成してきた。しかしそこからすでに40年以上が経過し、技術は陳腐化し、もはや省エネ後進国になりつつあるのかもしれない。あらためて、日本の省エネはこれからどうあるべきなのか、株式会社ヴェリア・ラボラトリーズの筒見憲三代表取締役社長にお話しをおうかがいする。

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エネルギー消費を増やさない生産性向上でエネルギー効率化を

― EP100(エネルギー生産効率を2倍にすることを目標とするイニシアチブ)では、省エネではなくエネルギー効率化という言葉を使われました。違いはあるのでしょうか。

筒見憲三氏:EP100というよりも、脱炭素社会において求められているのは、エネルギーに対する生産性です。

もっとも、エネルギー生産性は省エネ法などでチェックされるエネルギー原単位の逆数です。すなわち、分子と分母の関係が逆になっています。例えば、エネルギー消費を増やさずに売上・利益を2倍にすれば、エネルギー生産性は2倍になりますが、エネルギー原単位は半分になります。

生産性を軸として考えると、経営者にとって生産性の向上は、管理すべき必須の指標になるはずです。

現代の経営者は、売上・利益を伸ばさないと企業が持続可能ではないということと同時に、エネルギー消費を増やさず、ローカーボン、ゼロカーボンにしていかないと持続可能ではない。そうであれば、経営者も1年に1回どころか、最低でも月次ベースでエネルギーとカーボン排出量を把握するしくみをつくらないといけないということも、言い過ぎではないでしょう。

業績の月次決算はあたり前なので、同様にカーボンも月次での把握はしていくべきかと思います。そのためには、しっかりした全社的なEMS(エネルギーマネジメントシステム)の導入は必須になるのではないでしょうか。

日本はエネルギーのデジタル化が遅れている

― その意味では、これまでずっと取り組んできたEMSも、変化してきているのでしょうか。例えば、これまでのEMSは電力のピークカットなどにフォーカスしてきたかと思います。しかし再エネが増え、太陽光発電の自家消費なども行うようになると、これまでとは異なったマネジメントが必要になるのではないでしょうか。

筒見氏:おっしゃる通り、太陽光発電によって負荷曲線は変化しているので、それに合わせたEMSというのが必要になってくるでしょう。

ただ、そうしたこと以上に感じているのは、現場におけるデジタル化の遅れです。

日本では一流企業であっても製造業の現場ではメーターを目視で監視し、エクセルなどにデータを手で入力しています。いかに環境を重視していたとしても、人手をかけて裏方で対応しているようでは、そのまま現場の生産性の低さにつながってしまいます。

典型的なケースとしては、IT化が叫ばれているにもかかわらず、人手をかけずにデータを収集することができず、集めたデータを活用することも考えられていないということが、優良大企業であってもその現場では散見されることです。

しかし、逆に考えれば、カーボンニュートラルに向けたEMSのデータ活用のニーズは、これから高まっていくと思います。遅れているゆえに、日本には大きな市場があるということです。


現場でのエネルギーマネジメントとDXが重要

― カーボンニュートラルを目指すことが一般的になっていますが、そのためのデータの収集・分析ができていないというのは、問題ではないでしょうか。

筒見氏:2050年にカーボンニュートラルにするということを宣言する会社は増えました。しかし、そのためには2030年までにある程度の現場における生産性向上に資する投資が必要となります。そうしたことも、経営者には気づいていただきたい。

我々もお客様の現場に入り、実態を目にしてきました。お客様の現場には、確かにいろいろなシステムが入っています。デマンド監視装置もあれば、ボイラや圧縮エア制御装置なども入っています。しかし、それぞれの機器の管理システムがクローズしていて、オープンにデータを引き出すことができません。

エネルギーだけではなく、データマネジメントそのものについて、企業はもっと取り組むべきだと思います。エネルギーやカーボンなどについても、財務などのデータと一体化させていけば、経営者にとってもっとリアルなものになるでしょう。

これからの脱炭素での成長のスピードは急速です。エネルギー業界にもっとITを導入すべきだし、IT業界の人にももっとエネルギーを知っていただきたい。逆にエネルギー関係者は、もっとITを勉強しないといけないと思います。

― その意味では、エネルギーやカーボンのデータと経営をつなげていくことは、御社の役割となっていくのでしょうか。

筒見氏:まさにそれは今後やっていきたいことです。現場をなるべくデジタル化し、マネジメントシステムをしっかりと入れていく。一事業所へ管理・制御技術を取り入れるだけではなく、サプライチェーンなど他の分野とも連携させていく必要もあります。データを中心においた、いわば「データドリブンな脱炭素経営」を支援していきたいと考えています。

― 政府は経済成長の柱として、脱炭素とデジタル化の2つを挙げています。しかし、分散型の再生可能エネルギーが拡大していく中で、より高い価値を生み出すのは、エネルギーのデジタル化ではないかと思います。省エネも同様かと思いますが、その点で今の政府の認識は不十分ではないかと思います。

筒見氏:おっしゃる通りだと思います。国としては脱炭素とデジタル化について、それぞれ1本の柱にしておきたいのかもしれません。しかし、デジタル化と脱炭素は同じことだと考えています。


デジタル化と脱炭素は同じこと

実効性を持った省エネ法への改正が必要

― 省エネを推進するにあたって、政策などに対するお考えはいかがでしょうか。

筒見氏:省エネ法をもっと実効性のあるものに改正していく必要があると考えています。

現在の省エネ法はすっかり形骸化してしまいました。今の経営者で省エネ法を意識している人はどのくらいいるのでしょうか。現状は重箱の隅をつつくようなマニアックな内容となってしまい、設定されたベンチマークに現場が対応するだけです。

その結果、省エネのランク付けでは、6割の事業所は、S、A、B、Cの4段階のSランクとなっています。しかしそれはあくまで国内での評価であって、グローバルな視点で見れば変わってきます。省エネを国内ではなくグローバルな競争にしないといけません。そのために、省エネ法を改正すべきだと思います。

(Interview:本橋恵一、Text:生田目美恵)

筒見憲三
筒見憲三

1956年愛知県犬山市生。1979年京都大学工学部建築学科卒業、1981年京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了、工学修士。1991年ボストン大学経営学修士(MBA)。清水建設(株)設計本部にて12年にわたる建築設計業務の後、(株)日本総合研究所主任研究員。異業種8社のコンソーシアムにより、1997年日本で最初の独立系ESCO事業、(株)ファーストエスコを創業、代表取締役社長。 ニュービジネス大賞「環境賞」受賞、新事業創出促進法に基づく通商産業大臣認定。特定規模電気事業(新電力)を開始。 2005年東証マザーズ上場、2007年取締役退任。同時に、(株)ヴェリア・ラボラトリーズ創業、代表取締役社長、現在に至る。一級建築士、技術士(総合技術監理、環境)、一級施工管理技士(管、電気)。

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