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総選挙でドイツの脱炭素政策はどうなる 緑の党入りなら日本の車メーカーに影響も

総選挙でドイツの脱炭素政策はどうなる 緑の党入りなら日本の車メーカーに影響も

2021年10月07日

2021年9月26日、ドイツで総選挙が行われた。この選挙において、もっとも重要な争点は気候変動問題だったといっていいだろう。選挙結果は大勢が判明し、次期政権は連立政権となる。どのような連立の組み合わせが予想されるのか、またそのことによって気候変動政策はどうなっていくのか。ドイツのエネルギー事情に詳しい、日本再生可能エネルギー総合研究所の北村和也氏が解説する。

2大政党の凋落で不可避となる連立政権

注目のドイツ総選挙の結果が出た。

直前の予想通り、メルケル首相が率いてきたCDU/CSU(キリスト教民主同盟、キリスト教社会同盟:得票率24.1%)が大きく議席を減らし、代わって伸びたSPD(社会民主党:得票率25.7%)がわずかながらも逆転した。一時はトップを伺っていた緑の党(14.6%)は、勢いは減じたが躍進して過去最高の議席となった。現在大連立を組む2大政党はかつて40%台の支持が当たり前だったが、それぞれ4分の1政党に落ちこんだ。


ドイツ総選挙の結果(得票率%) 出典:ZDF(9月27日時点の暫定)

つまり、今回の総選挙の結果でも連立政権しかありえない。ドイツの政党はそれぞれが自らの色(CDUは黒、SPDは赤、緑の党は緑、FDPは黄)を持つため、連立の組み合わせは色の組み合わせで例えられる。今回可能性の高いのは、SPD+緑の党+FDP=信号機(赤緑黄)やCDU+緑の党+FDP=ジャマイカ(黒緑黄の国旗)などと称されている。過去の例から、連立政権の樹立には半年ほどかかる可能性があるとされている。

争点のトップは気候変動

今回の総選挙は、16年間にわたってドイツを率いてきたアンゲラ・メルケル首相の交替という大きな変化が背景となった。選挙結果にも今後の国の指導者選びの色合いが深く反映している。最も無難でメルケルの後継を感じさせるショルツ氏(SPDの首相候補、現在の大連立政権の財務相)がSPDを勝利に導いたとの評価は共通している。

一方で、総選挙の政治的な争点はというと、気候変動であった。

ドイツでは、長く続く国民への世論調査がいくつかある。その中で「ドイツにおける重要な問題」という調査は、最大2つのイッシューを答えるものだが、今年の8月になって、その回答が大きく変動した。


「ドイツの最も重要な問題」の推移 2000年以降、2021年9月17日まで
 出典Forschungsgruppe Wahlen:Politbarmeter

上のグラフが2020年からの結果の推移である。

2014年までは、大きく飛び出る問題はあまりなかった。2007年までのところどころで上がる「年金問題」(黒線)がやや特徴的ではある。その後、2015年あたりから、黄色の線がずば抜けて高くなって他を引き離す。2015年11月に88ポイントをつけ圧倒的な関心事となった。これは「外国人移民/難民」の問題である。

その後、極端に上昇したのがオレンジ色の線である。昨年2020年3月に突如82ポイントを記録して、1年以上にわたって高い数値を記録し続けてきた。おわかりの通り、「新型コロナ」である。

ところが、夏前にコロナに代わるある問題が国民の関心を集める。7月後半に急上昇し8月前半にコロナを逆転した。「環境/気候変動/エネルギーシフト」である。思い返せば、この7月、大洪水がドイツ西部とベルギーを襲い、ドイツでも200名近い犠牲者を出した。人的被害にとどまらず、小麦の収穫も減少するとみられている。

政府も原因についてはっきり「気候変動の影響」と話している。国民は大きく反応し、公共放送の第一テレビARDの世論調査でも、政治の課題として有権者はトップに33%の環境・気候変動対策を上げている(続いて、移民22%、新型コロナ18%)。

選挙結果は、ドイツの脱炭素化にどう影響するのか

連立政権に参加する可能性が高いのは結果上位の4つの政党で、SPD、CDU/CSU、緑の党、FDPとなっている。現在の大連立(CDU/CSU、 SPD)は最後の選択肢と考えられ、前述した「信号機」(SPD、緑の党、FDP)と「ジャマイカ(CDU/CSU、緑の党、FDP)が有力である。お気づきのように、ともに緑の党とFDPが入っていて、この2党がある意味で主導権を握ることになる。さっそくこの2党は、協議に入ることを決めた。

ところが、脱炭素に関するこの2党の政策は大きな差がある。

脱炭素への取り組みへの熱心さを高い順番で並べると、以下のようになる。

緑の党>SPD> CDU/CSU >FDP

しかし、緑の党とSPDやCDU/CSUの差は大きく、FDPは最も産業界寄りで脱炭素のための規制や財政出動などに後ろ向きである。一方で緑の党は、例えば石炭火力発電の廃止を現状の目標2038年から2030年に前倒しすると公約したり、ガソリンやディーゼルエンジン車の販売禁止の2030年への前倒しも主張したりする。

2党の調整が連立協議のカギとなるのが必至だからこそ、この2政党が先に協議をおこなって主導権を握ろうとしている。すでに大臣ポストの取り合いの話さえあり、このあたりの政治的な駆け引きは日本と変わらない。

エネルギー政策に差があるといっても、輸出大国であるドイツにとって、脱炭素を進めないという選択はない。国境炭素税などで、自国製品の輸出に大きく影響するからである。実際にSPDとCDU/CSUでさえ、脱炭素の実現を2045年と5年前倒しすることを公約に掲げている。

攻めるドイツが続く、その背景と日本

世界的にも評価の高かったメルケル首相は、移民問題やコロナ対策で理想を掲げたうえで国民に直接訴えかけることが多かった。また、サミットで自由貿易を守るようトランプ前大統領に迫る写真は有名である。一方で、現実主義者として卓越した政治家でもあった。福島原発事故後の脱原発への転換も、自らの政権、政党の維持、その時迫っていた州議会選挙などを優先させた急旋回であったとされている。

その中でドイツの再生エネの拡大は確実に進み、エネルギーシフトへの国民の支持も変わらず高いまま推移した。しかし、実は政権のエネルギー政策は地域の再生エネ拡大を妨げている、できることをやっていないという声もあがっていた。やはり、CDU/CSUは企業に寄り添う方向の政党であることは間違いないのである。

国民の大半は再生エネ支持であっても、一方で、ドイツの高級紙であるフランクフルターアルゲマイネや高級週刊誌シュピーゲルなどがたまに反再生エネの記事を載せるのは、彼らが財界の意見を示す役割を果たすという理由がある。鬼の首を取ったかのようにそれを日本に紹介する似非日本人ジャーナリストがいるのには、ほとほとあきれるが、、、

CDU/CSUが政権に残る可能性もまだあるが、その場合でも現状のドイツのエネルギー政策が後退する可能性はほとんどない。一方で、SPDと緑の党が並ぶ政権になれば、一歩進む脱炭素政策が取られることになろう。

巷間(こうかん)言われているのが、ドイツの高速道路網アウトバーンでの130キロの速度制限である。交通部門での脱炭素では、ドイツ国内でのEV(BEV+PHV)の新車における販売割合は20%を超え、1年前の数倍になっていてベースでの転換は明らかである。

ドイツはこれまでのように再生エネ拡大を進め、攻める脱炭素を続けることになる。国民は9月の総選挙でSPDと緑の党を躍進させ、さらにその政策遂行の強い下支えとなる。今回の選挙の最終投票率は76.6%となり、前回の2017年の選挙を0.4ポイント上回った。ドイツ国民の4分の3以上が投票したことになる。50%を少し超える程度に低迷する日本の投票率との差は大きい。

攻める政策には国民の支持が必須となる。国の将来を左右する課題が次々と舞い込む現代社会で政治が果たす役割は大きくなるばかりである。政治を動かすのは、我々主権者であることをもう一度思い出さなければならない。

北村和也
北村和也

日本再生可能エネルギー総合研究所 代表、株式会社日本再生エネリンク 代表取締役。 1979年、民間放送テレビキー局勤務。ニュース、報道でエネルギー、環境関連番組など多数制作。番組「環境パノラマ図鑑」で科学技術映像祭科学技術長官賞など受賞。1999年にドイツへ留学。環境工学を学ぶ。2001年建設会社入社。環境・再生可能エネルギー事業、海外事業、PFI事業などを行う。2009年、 再生エネ技術保有ベンチャー会社にて木質バイオマスエネルギー事業に携わる。 2011年より日本再生可能エネルギー総合研究所代表。2013年より株式会社日本再生エネリンク代表取締役。2019年4月より地域活性エネルギーリンク協議会、代表理事。 現在の主な活動は、再生エネの普及のための情報の収集と発信(特にドイツを中心とした欧州情報)。再生エネ、地域の活性化の講演、執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作。再生エネ関係の民間企業へのコンサルティング、自治体のアドバイザー。地域エネルギー会社(地域新電力、自治体新電力含む)の立ち上げ、事業支援。

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