20代エネ女が見る蓄電池ワールド -2019年から2020年へ、蓄電池はどう変わる?- | EnergyShift

脱炭素を面白く

EnergyShift(エナジーシフト)
EnergyShift(エナジーシフト)

20代エネ女が見る蓄電池ワールド -2019年から2020年へ、蓄電池はどう変わる?-

20代エネ女が見る蓄電池ワールド -2019年から2020年へ、蓄電池はどう変わる?-

2019年12月26日

20代エネ女が見る蓄電池ワールド -2019年から2020年へ、蓄電池はどう変わる?-

2019年はバッテリー界隈が大きく動いた年でもあった。卒FITや災害とバッテリーの関係は? そして2020年のバッテリーはどうなる? 国際航業株式会社、「エネがえる」の事業責任者である土屋綺香氏が今後の動向を紹介する。

盛り上がったのか?卒FITの到来

経産省がでかでかと、余剰買取順次終了の新聞広告を出した2018年11月から始まって、2019年の蓄電池界隈は、まさに「卒FIT」一色だった。

…と言いたいところだが、2019年11月の卒FIT到来から早1ヵ月半経過した今、本当に卒FIT一色だったのか? 大いに疑問である。

私に言わせてもらうと、2019年は「卒FIT」と「災害」の2本柱の年だったと感じている。

「卒FIT」の現実

蓄電池の市場活性化は卒FITから始まると思っている業者もまだまだ多い。だが実は、卒FIT以前から売っている会社は以前から売っているし、売っていない会社は売っていない。二分している状況は数年は変わらないだろう。

私はエネルギー診断SaaSサービスである『エネがえる』(リンク:https://www.enegaeru.com/)を統括している。営業していく中で、再エネ/建材商社・販売会社・施工店・ビルダー・工務店等、太陽光販売に関わる会社にヒアリングしてみた。すると約1,000社中、2割程度は「卒FITを機に蓄電池を売らないといけないとは思っています。OB顧客リストはあるんです」と答えるが、実際にはほぼ売れていない。

エネがえる ウェブサイト

そういった会社は、来年も恐らく売る仕組みを徹底的に作っていかない限りは売れない。そして、売れる仕組みを持つ会社にどんどん顧客を食われていく。流行は流行になってから乗ろうとしてももう遅い…というのは太陽光・蓄電池業界に限ったことではないだろう。

さらに、今年の卒FIT対象顧客の半数は60代以上。冷静に考えれば実はわかっていたことであるが、改めて分析すると以下の通りである。

  • 2019年度の卒FIT対象世帯数は約56万件。
  • 2009年度の単年での太陽光発電設置世帯は約10万件。
  • 残りの46万件はそれ以前に太陽光を設置した世帯。
  • 56万件の半数は2005年度以前に太陽光を導入している。
  • 14年前の2005年、働き盛りの46歳だったお客さんはもう60歳。

つまり、60歳で蓄電池を買ったとして15年のローンを改めて組んだら完済は75歳だ。

今の75歳は元気な方も多いが、元気なら同じ250万円でも蓄電池ではなく老後の楽しい旅行でもした方が有意義だろう。実際に「卒FITのお客さんは訪問しても話すら聞いてもらえない」というケースはかなり多く聞く。

とは言え、今後卒FITとなる世帯は毎年出続けるため、今年はあくまで前哨戦であったと捉えるべきである。毎年10~30万件ペースで出続ける卒FIT世帯に対してどういった提案をしていくのか。トライアンドエラーをしている会社は多い。

卒FITに向けたサービス

卒FITに対して夢のないことばかり並べてしまったが、今年は卒FITに向けたサービスも多く出てきた。中でも私が注目しているものを2つ紹介する。ぱっと見では蓄電池は関係ないが、蓄電池とつなげるから面白い、という発想をぜひここから生んでいきたい。

新電力おおいた 「SUN給プラン」卒FIT対策の一つとしてエコキュートを昼間沸かしにすることによる太陽光の自家消費増加がある。太陽光の発電量が不十分な日には昼間の高価な電気を買って湯を沸かすことになってしまう。そのネックを解消する、昼間に「サンタイム」という割安な価格帯を設けたプランである。昼間に湯を沸かすことでエネルギー効率が上がり、電力プランとしても地域電力会社の収支改善にも役立つまさにwin-winの電気料金プランである。

丸紅ソーラートレーディング 「地域応援プラン」卒FITの買取は、正直なところ価格勝負なものが多い。単純な価格競争は電力業界のためにもなるべく避けたいところ。丸紅ソーラートレーディングでは「クラシカザル」というコンセプトで、単なる買取ではなく、暮らしを飾るサービスと交換できることを前面に押し出した取り組みを進めている。「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクと連携した地域応援プランを2019年内リリースするので、こちらも要注目だ。

蓄電池はあくまで「災害」対策という視点

2018年は西日本の台風と北海道の地震があった。2019年は九州北部豪雨に加えて、2ヵ月連続で首都圏を襲った台風15号と19号が印象に残る。特に台風15号については、東電管内で停電復旧まで16日を要し、残暑の厳しい9月のさなか、熱中症になった住民も多かったという。

蓄電池の導入には250万から300万円かかる。太陽光発電を自家消費モードにしたとしても、光熱費の削減額は月3,000円~4,000円程度。この金額で蓄電池を導入する一番の理由はなにか? こうした「災害」である。今年はそれを特に強く感じた。

蓄電池があることで太陽光の発電量が確保でき、夕方から夜も電気を使うことができる。実際、蓄電池を持っている人の主な購入理由として「非常用」が5割というデータもある*1

経産省では、停電回避に対する価値を調査した結果も出ており、24時間の停電を回避するのに月額1,500円支払ってもよいという結果も出ている。

出典:水管理・国土保全局 2019河川データブック

未来の蓄電池はセクシーになるか

2020年以降、日本のエネルギーの自家消費、さらには最適運用に向けての取組がさらに活発化していくだろう。家庭用で言えば災害用に蓄電池を設置する世帯が増加しているとはいえ、個人的にはあまり「セクシー」ではないな、と思う。キッチンリフォーム等とは異なってQOL向上が目に見えて分かりにくい蓄電池を、いつ起こるか分からないものに対する備えとしてだけに購入するだけってつまらなくないか? と思ってしまう。

それでは、2020年以降、どんな蓄電池ワールドになったら「セクシー」かなと考えてみた。(某環境大臣のように中身がない? まずはご笑覧ください)

1)蓄電池をおしゃれに

いくつかのメーカーはグッドデザイン賞を取っているが、日本の蓄電池は総じてまだまだ鉄の箱である。お父さんのコレクター魂に火をつけてしまうようなデザイン、お母さんが家事の相棒にしたくなるような安心感のあるかわいらしいフォルム。子供が友達に自慢したくなるようなかっこいいキャラクター等々、何でもいいがとにかく家の中でも外でも置いておいて楽しいデザインにしたら今までの「安心」だけではなく+αの購買意欲を掻き立てられて購入する層が増えるはずだ。

グッドデザイン賞を受賞した「パワーイレ・ヘヤ」(エリーパワー株式会社)

2)蓄電はゲーム感覚で

太陽光もしかりだが、だいたい設置後1ヵ月でモニターを見ることに飽き、1年でどれくらい光熱費が削減できているかも気にしなくなり、10年で存在が空気のようになってしまうのが定説。せっかくお金をかけているのだからもう少し気に留めてあげても…と業界人としては思うが、一般消費者にとってその魅力が足りないのだろう。
ただのモニタリングではなく、もっとゲーム感覚で、ポイントがたまり、生活に紐づき、コミュニティを作り上げ、気づけば生活も楽しく…といったコンテンツを蓄電池とつなげたい。お父さんや息子のゲームアプリへの課金をぜひ光熱費削減額から捻出しよう。

3)もっと社会とつながりを

古き良き時代の日本が正義!という訳ではないが、これから高齢化・人口減少・単身世帯の増加がさらに進む日本において、社会とのつながりを持つことは個人の安全保障としても日本全体の安全保障としても重要になってくる。社会インフラの維持コストと減少していく税収のバランスが取れなくなってくる近い将来、日常生活で切っても切り離せない電力を活用して社会をつなげることはできないか?

VPPやシュタットベルケもそれに類すると思うが、そういった取り組みが来年以降さらに活発化することを期待する。停電してスマホの充電に何時間も行列するのはこりごりだろう。もっとすぐに充電できる仕組みは社会とのつながりで作れるはずだ。(スマホの充電に限らないが)。

4)海外メーカーはじめとした新参者の登場

今年はTeslaの蓄電池がついに日本で動き始めた。実際の設置販売は来春からではあるが13.5kWhの蓄電池が本体価格100万円を切るのは大手日本メーカーではなかなか真似しにくいだろう。CATLとネクストエナジーは7月に業務提携を発表、ドイツ最大手の蓄電池メーカーSonnenは10月末にSonnen Japanを設立した。よく言うと伝統的、悪く言うとしがらみの多い大手日本メーカーが動けないところで新参者たちがついに2020年から牙城を崩しに掛かってくる。周辺ビジネスを巻き込んだ攻防戦が起こることを期待している。

Tesla Powerwall(テスラジャパンのウェブサイトより)

5)流通構造の変化

蓄電池の販売は、多くが訪問販売という極めてアナログな手法である。エネルギー業界ではブロックチェーンやAIやらと言っているのに、肝心の販売はザ・アナログ。
訪問販売は決して悪者ではなく業界の認知度向上等には必要な営業手法でもある。しかし今後さらに蓄電池が普及フェーズに入った時、営業コストをどこまでかけられるのか? デジタルネイティブが購買者層に入ってきたら?

蓄電池をD2C(Direct to Consumer)で売ってみてもいいし、AIを使って最適蓄電池をおすすめしてもいいのではないか。前述のような「新参者」が増えてきているので、来年あたりから流通構造も徐々に変わっていくと予測している。

業界を盛り上げる仕掛けに期待

狭い業界の中で深く掘り下げていくのもよいが、あえて全く別の業界、例えばゲーム制作会社やファッション会社等と交わり、もっと楽しく業界を盛り上げていけると上記のような一見笑ってしまうような妄想も現実化するのではないか。そんな期待を膨らませながら、結局日々の業務に追われてしまう師走である。

追伸:業界内外の交流や妄想話をしたい方はぜひ私個人のカレンダーにて面談ご予約ください。 イベント企画から世間話、新規事業のお手伝いまで何でもお受けします。

▼土屋のカレンダー予約はこちら▼
https://ayakatsuchiya.youcanbook.me/

土屋絢香
土屋絢香

2015年4月国際航業へ入社し法人営業部で地理空間関連ソリューション営業に従事。2017年度より新規事業部門の現部署に所属。2018年度からはエネルギー診断システム「エネがえる」の事業責任者として、PM、販売支援の相談、講演や講習活動、カスタマーサクセスといった幅広い業務をリード。最近は女性で再エネを盛り上げるべく、やわエネサークルを立ち上げ交流イベント運営も行っている。 エネがえる: https://www.enegaeru.com/ やわエネサークル:https://yawaene2.peatix.com/

エネルギーの最新記事